09:45 〜 10:00
[HGM03-04] 宇宙線生成核種による長期的かつ過度な人為インパクトを受けた花崗岩流域の侵食履歴の復元
キーワード:人為インパクト、はげ山、宇宙線生成核種、削剥速度、地形発達
本研究では,長期的かつ過度な森林資源の利用による強い人為的インパクトを受けた花崗岩丘陵を対象に,流域の侵食状況の変遷について定量的な復元を試みる.森林状態の遷移した流域の削剥速度とその支配要因の解明は,植生による土粒子の保持の効果および山地の土砂動態における人為影響の環境許容力を評価するうえで重要である.流域の空間平均削剥速度の決定には,渓流砂を対象とした宇宙線生成核種の分析を用いた.また流域の地形および植生状態の分析のため,地理情報システムでのデジタル地形情報および空中写真の解析を行った.
調査地域は,琵琶湖南方に位置する田上山地で,後期白亜紀の中-粗粒黒雲母花崗岩を基盤とし,標高200~600 mほどの小起伏丘陵を呈する.この地域では,長期的かつ過度な森林資源の利用により,近世以降,山頂部の社寺林などを除いて,大戸川右岸の山腹斜面を中心に,いわゆるはげ山が顕在化した.その結果,土砂流出が加速的に増大し,田上山麓には天井川が形成されている.
かつてはげ山であった流域の植生は現在では回復傾向にあり,継続的に森林が成立していた流域との区別がつきにくい.そこで本研究では,(1)古文書記録の検討(はげ山の出現範囲はおおよそ入会林に相当する),(2)1947年米軍撮影のモノクロ空中写真の判読,(3)現地踏査による土層の発達程度の確認(はげ山の場合,土層が流失している)などに基づき,はげ山流域と森林流域を区分し,それぞれの中から調査対象とする流域を複数選定した.
それらの流域の出口において粒径0.25–2 mmの渓流堆砂を採取し,それに含まれる石英粒子を物理・化学処理により抽出した.清浄な状態に処理した石英粒子を溶解し,10Beを抽出して,加速器質量分析により石英中の10Be濃度を決定した.
定常侵食状態を仮定して,堆砂の供給源である流域内での平均核種生成率に基づき,得られた濃度値を流域の空間平均削剥速度に換算したところ,森林流域では1×102 mm yr⁻1,はげ山流域では5×102 mm yr⁻1程度の値が得られ,数倍の差異が認められた.各々の流域における斜面勾配や起伏量といった地形量に系統的な差はないため,このみかけの削剥速度の差は,森林の状態を反映したものと考えられる.しかし,この削剥速度の差異は従来の知見に基づいて予測されたものよりも小さいといえる.
この地域に分布する天井川は過去500年程度の時間スケールで成立したものと考えられており,はげ山の出現時には,裸地状態の流域から極めて大きな速度での土砂流出があったものと推定される.現在も裸地状態にある斜面において土砂生産量を実測した研究によれば,裸地斜面の侵食速度は森林に覆われた斜面よりも2桁程度大きいことがわかっている.このように,はげ山流域と森林流域では侵食速度のオーダーが異なると推測されるにもかかわらず,今回分析した堆砂中の10Be濃度に数倍程度の差異しか認められなかったことは,次のように解釈される.森林が成立している状態からはげ山状態への遷移の過程において,斜面を薄く被覆する軟弱な土層が流失する速度は大きく,かつそれに要する時間スケールは短いものと考えられる.しかし,10Beは,土層を貫通した宇宙線の照射により長期的にサプロライト中にも生成・蓄積している.現在の流域斜面の状態は,土層は失われているものの,宇宙線照射の影響を受ける程度の深さ(数メートル)までのサプロライトが完全に更新されるまでには至っておらず,サプロライトの最上部が侵食されつつある段階に相当するのであろう.
本研究のアプローチにより,現在,流域から生産されている土砂の10Be濃度に基づいて,はげ山の成立過程において失われた土層の厚みと侵食速度の遷移に要する時間スケールを求めることができると考えている.今後は,得られた侵食履歴の確からしさを検証するために,下流の低地に形成されている天井川の堆積物を対象に,堆積年代を14Cを用いて決定したのち,10Be濃度の鉛直変化を測定し,堆積域の土砂供給履歴を復元する予定である.また,こうした流域斜面の植生状態の遷移が,侵食速度の劇的な変化をもたらすメカニズムを理解するために,樹木根系が急傾斜面での土層保持に果たす機能を定量的に評価したいと考えている.
調査地域は,琵琶湖南方に位置する田上山地で,後期白亜紀の中-粗粒黒雲母花崗岩を基盤とし,標高200~600 mほどの小起伏丘陵を呈する.この地域では,長期的かつ過度な森林資源の利用により,近世以降,山頂部の社寺林などを除いて,大戸川右岸の山腹斜面を中心に,いわゆるはげ山が顕在化した.その結果,土砂流出が加速的に増大し,田上山麓には天井川が形成されている.
かつてはげ山であった流域の植生は現在では回復傾向にあり,継続的に森林が成立していた流域との区別がつきにくい.そこで本研究では,(1)古文書記録の検討(はげ山の出現範囲はおおよそ入会林に相当する),(2)1947年米軍撮影のモノクロ空中写真の判読,(3)現地踏査による土層の発達程度の確認(はげ山の場合,土層が流失している)などに基づき,はげ山流域と森林流域を区分し,それぞれの中から調査対象とする流域を複数選定した.
それらの流域の出口において粒径0.25–2 mmの渓流堆砂を採取し,それに含まれる石英粒子を物理・化学処理により抽出した.清浄な状態に処理した石英粒子を溶解し,10Beを抽出して,加速器質量分析により石英中の10Be濃度を決定した.
定常侵食状態を仮定して,堆砂の供給源である流域内での平均核種生成率に基づき,得られた濃度値を流域の空間平均削剥速度に換算したところ,森林流域では1×102 mm yr⁻1,はげ山流域では5×102 mm yr⁻1程度の値が得られ,数倍の差異が認められた.各々の流域における斜面勾配や起伏量といった地形量に系統的な差はないため,このみかけの削剥速度の差は,森林の状態を反映したものと考えられる.しかし,この削剥速度の差異は従来の知見に基づいて予測されたものよりも小さいといえる.
この地域に分布する天井川は過去500年程度の時間スケールで成立したものと考えられており,はげ山の出現時には,裸地状態の流域から極めて大きな速度での土砂流出があったものと推定される.現在も裸地状態にある斜面において土砂生産量を実測した研究によれば,裸地斜面の侵食速度は森林に覆われた斜面よりも2桁程度大きいことがわかっている.このように,はげ山流域と森林流域では侵食速度のオーダーが異なると推測されるにもかかわらず,今回分析した堆砂中の10Be濃度に数倍程度の差異しか認められなかったことは,次のように解釈される.森林が成立している状態からはげ山状態への遷移の過程において,斜面を薄く被覆する軟弱な土層が流失する速度は大きく,かつそれに要する時間スケールは短いものと考えられる.しかし,10Beは,土層を貫通した宇宙線の照射により長期的にサプロライト中にも生成・蓄積している.現在の流域斜面の状態は,土層は失われているものの,宇宙線照射の影響を受ける程度の深さ(数メートル)までのサプロライトが完全に更新されるまでには至っておらず,サプロライトの最上部が侵食されつつある段階に相当するのであろう.
本研究のアプローチにより,現在,流域から生産されている土砂の10Be濃度に基づいて,はげ山の成立過程において失われた土層の厚みと侵食速度の遷移に要する時間スケールを求めることができると考えている.今後は,得られた侵食履歴の確からしさを検証するために,下流の低地に形成されている天井川の堆積物を対象に,堆積年代を14Cを用いて決定したのち,10Be濃度の鉛直変化を測定し,堆積域の土砂供給履歴を復元する予定である.また,こうした流域斜面の植生状態の遷移が,侵食速度の劇的な変化をもたらすメカニズムを理解するために,樹木根系が急傾斜面での土層保持に果たす機能を定量的に評価したいと考えている.