日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-GM 地形学

[H-GM03] 地形

2018年5月23日(水) 10:45 〜 12:15 102 (幕張メッセ国際会議場 1F)

コンビーナ:八反地 剛(筑波大学生命環境系)、瀬戸 真之(福島大学うつくしま福島未来支援センター)、島津 弘(立正大学地球環境科学部地理学科)、座長:若狭 幸

11:45 〜 12:00

[HGM03-10] 野付崎バリアースピッツの現行過程から読み解く過去と未来

*七山 太1,2渡辺 和明1重野 聖之3石井 正之4長谷川 健6内田 康人7石渡 一人5 (1.産業技術総合研究所 地質調査総合センター、2.熊本大学くまもと水循環・減災研究教育センター、3.明治コンサルタント株式会社本店、4.石井技術士事務所、5.別海町郷土資料館、6.茨城大学、7.北海道総合研究機構 地質研究所)

キーワード:地形発達、野付崎バリアースピットシステム、地震性地殻変動、南千島海溝、北海道東部、日本

北海道東部,野付湾周辺には,現在も活動的なバリアーシステムが認められており,ここでは野付崎バリアースピット(NBS)と呼ぶことにする.NBSは,標津川河口から南東方向に延びる本邦最大の総延長28.9 kmの明瞭な分岐砂嘴であり,知床半島起源の安山岩礫を多く含むことが知られている.航空写真判読によって4列の砂嘴(NBS1~NBS4)が認識され,それらの分岐関係によって地形発達史が解読できた.我々は,2015年以降,科研費予算を用いて,NBSにおいて砂嘴を横断する5本の測線を設定し,(1) GPSスタティックとトータルステーションを用いた地形測量と地形断面図の作成,(2)各砂嘴の離水標高(BH)の計測,(3) ハンドボーリング調査および(4)掘削試料を用いたAMS14C年代測定およびテフラによる堆積年代の検討,(5)珪藻による古環境の推定,(6) CAMSIZERによる海浜砂と砂丘砂の判別,(7)海域の音波探査や測深調査,を実施した.

 これまでの掘削調査により,上位から6層の完新世テフラ,Ta-a(AD1739)およびKo-c2(AD1694 )(古川・七山,2006),B-Tm(AD929)およびMa-b(10C;山元ほか,2010),Ta-c(2.5 cal ka;古川・七山,2006),Ma-d(4.0 cal ka;山元ほか,2010)が見いだされ,これらを時間面として,NBSの地形発達史を高精度に解読することが出来た.

 NBSが現在の位置に成立したのは,茶志骨の泥炭層基底の年代からMa-dを挟む泥炭層の存在から4000年より前と推定される.この時期に発生した初期の砂嘴は既に侵食されて,現地形としては保存されていないが,残された砂嘴の先端の形状からは,現在よりも東方沖に存在していたと推察される.一方,最も若い砂嘴であるNBS1 はTa-a, Ko-c2 に被覆されないことから,17 世紀以降に出現し,現在荒浜岬を形成している.NBS1のBHは+0.60-1.00 mにある.NBS2 は江戸時代後期(AD1799~)の通行屋遺跡を載せている.喜楽岬から発しナカシベツ付近からNBS1 と分岐し,さらに竜神崎へと連続する.NBS2のBHは+1.47mに達している.この浜堤はTa-a, Ko-c2 に直接被覆されることから,17 世紀に離水した可能性が高い.一本松岬から野付崎灯台にかけて連続するNBS3 の離水年代はTa-a, Ko-c2と礫浜層との間に薄い泥炭層を挟むことから,12/13 世紀と予測される.NBS3のBHは+2.28 mにある.NBS4はオンネニクルのみに分布する古い砂嘴である.ここには擦文時代の竪穴式住居を載せている.今回の調査の結果,海浜砂礫層を覆う泥炭層からTa-cの挟在と共に2.7-2.3 cal kaのAMS年代値を得た.NBS3のBHは+2.66 mにある. 

 千島海溝沿岸域では500 年間隔で発生した超巨大地震(Mw 8.8~)の存在が明確になり,特にこの地の地盤は17 世紀巨大地震時(もしくはその後)には1~2 m(もしくはそれ以上)隆起し,逆に地震以降現在まで8~10 mm/年の速さで沈降し続けてきたことが解っている(Atwater et al., 2004).特に野付半島地域の沈降速度は,15 mm/年に達することが知られている(山下・前原,2009).澤井(2007)は,この周辺地域において過去2500年間に,約300 年前,約700~300年前,約1300~1000年前,約2400~1700年前の4回の離水イベントがあったと述べている.ゆえに,少なくともNBSのNBS3よりも若い分岐砂嘴の出現には,千島海溝における広域な地震性地殻変動が関わっていた可能性が高いと考えられる.

謝辞:本研究はJSPS科研費基盤研究(C) 15K05323の助成を受けて実施した.

引用文献:
Atwater, B.F. et al., 2004, The Holocene, 14, 487-501.
古川竜太・七山 太,2006,火山,51,351-371.
上手真基ほか,2010,地質学雑誌,116,349-359.
澤井祐紀,2007,第四紀研究, 46, 363-383.
山元孝広ほか,2010,地質調査研究報告, 61, 161-170.
山下俊彦・前原向一,2009,土木学会北海道支部論文報告集,no. 66,B-44.