日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-QR 第四紀学

[H-QR04] 第四紀:ヒトと環境系の時系列ダイナミクス

2018年5月20日(日) 13:45 〜 15:15 A08 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:小荒井 衛(茨城大学理学部理学科地球環境科学コース)、須貝 俊彦(東京大学大学院新領域創成科学研究科自然環境学専攻)、水野 清秀(国立研究開発法人産業技術総合研究所地質情報研究部門、共同)、米田 穣(東京大学総合研究博物館)、座長:水野 清秀青木 かおり

14:00 〜 14:15

[HQR04-07] 二枚貝を用いた完新世トンガ王国における古環境復元

*福與 直人1,2横山 祐典1Clark Geoffey3窪田 薫4宮入 陽介1杉原 奈央子1白井 厚太朗1樋口 富彦1宮島 利宏1 (1.東京大学大気海洋研究所、2.東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻、3.オーストラリア国立大学アジア太平洋学部考古学・自然史学専攻、4.海洋開発研究機構高知コア研究所)

キーワード:炭酸カルシウム、ΔR、海水準変動、古環境、南太平洋、酸素安定同位体比

南太平洋島嶼国の降水は、南太平洋収束帯 (South Pacific Convergence Zone: SPCZ)に大きく影響されるが、そのメカニズムや変動の理解のためには古気候記録の収集が不可欠である。また、南太平洋の島々への人類拡散は、海上移動によってのみ実現されるため、気候変動に伴う海面気圧や風向の変化に大きく左右されると考えられている。さらに、人口収容力が小さい島嶼部においては、海水準変動のような島内環境の変化が移住の強いきっかけとなりうる。その一方で、当該地域における古気候・古環境復元に関して、地球化学的手法を用いた研究例は少ない。本研究は、SPCZ の影響下にあり、かつ南太平洋における人類の拡散の拠点となったトンガ王国トンガタプ島の遺跡から発掘された二枚貝の化石を用いて、中期–後期完新世の古気候・古環境を復元することを目的とした。本研究で用いた二枚貝アラスジケマン(Gafrarium tumidium)は、造礁サンゴのように、成長輪を持つ炭酸塩骨格を形成するため古環境指標試料として使用可能であると考えられ、また南太平洋の遺跡において多産することから、過去の環境変動の理解だけではなく、人々の生活様式の理解にも繋がることが期待される。しかし、G. tumidiumの環境指標試料としての有用性はほとんど評価されていない。そこで、トンガ王国において貝殻と海水試料を使用し、貝化石の環境指標としての有効性評価および地球化学分析に基づく古環境復元を行った。貝殻試料は酸素同位体(δ18O)値、放射性炭素 (海洋ローカル14Cリザーバー年代:ΔR)、微量元素 (Sr/Ca比、Mg/Ca比など)を測定した。海水試料は、現地において海面水温(SST)および表層塩分(SSS)を測定し、採取した試料は、東京大学大気海洋研究所にてδ18O値を測定した。さらに、Glacial isostatic adjustment (GIA)モデルを用いた、トンガ王国周辺の相対的海水準を復元した。それらの結果、(1) 殻のδ18Oが季節変動を示すことから、G. tumidumは2 – 3年間の水温を殻に記録すること、(2) Sr/Ca比はSSTやSSSの変動ではなく、成長速度を反映することを示し、G. tumidumの環境指標試料としての適用可能性を明らかにした。また、(3) トンガタプ島内におけるG. tumidumの殻成長はSSSによって規定されていること、 (4) 約2600年前から現代にかけ、石灰岩質基盤岩起源の14Cの少ない炭素の寄与が継続的に増加し、この時代を通じて湾が閉鎖的になっていること、(5) 2.6 ka、1.2 ka、0.4 ka、現代の各区間における長期的・広範囲な気候変動とδ18O のトレンドが一致していることが示唆された。特に(3) – (5)の知見については、既往の考古学研究による結果と整合的であり、この地域における古気候・古環境変動に対して新たに地球化学的な制約を加えるものである。