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[HQR04-11] 関東平野西部,狭山丘陵狭山層上部から検出された前期更新世テフラとその年代:蔵敷,赤塚コアA10,屏風ヶ浦Ob5.1テフラの対比
キーワード:狭山層、蔵敷テフラ、前期更新世
関東平野武蔵野台地西部に発達する狭山丘陵は背面が狭山面とよばれ,中期更新世初頭に堆積した芋窪礫層(扇状地堆積物)の堆積面が開析されて形成された地形である(貝塚ほか,2000).この芋窪礫層は関東平野に広く分布する上総層群の一部である狭山層(植木・酒井,2007)を不整合に被覆する.狭山層では,内湾湾奥部の干潟環境や純淡水を示す貝化石,内湾性の干潟・潮間帯・潮間帯下部の堆積環境を示す生痕化石をはじめ,珪藻化石,花粉化石,樹幹化石の産出が報告されている(武蔵村山市史編さん委員会,1999).また陸域に堆積した河成礫層も含まれる.このような狭山層は,関東平野西部の地形変化史,地殻変動,古環境の復元する上で重要な堆積物であり,その年代を明らかにしていく必要がある.狭山層の堆積年代を解明する上で有用なテフラについては2000年以降多くの報告がなされ,それらは上位から芋窪テフラ,蔵敷(ぞうしき)テフラ(福嶋・植木,2007),狭山ゴマシオ火山灰層(SGO;田浦ほか,2004),狭山ガラス質テフラ層(SYG;正田ほか,2005),箱根ヶ崎テフラ群(鈴木ほか,2008)などがあり,各地のテフラとの対比も試みられている.
このうちSGOは,狭山丘陵北西約7 kmの阿須山丘陵の仏子層中のE1テフラへ対比されている(田浦ほか,2004)ほか,多摩丘陵から武蔵野台地地下で広く追跡されている第1堀之内テフラ(HU1,高野,1994)や屏風ヶ浦Ob4b‑1テフラ(Ob4b‑1鈴木・村田,2011; Suzuki et al., 2011)とも対比された(中島・鈴木,2014;Suzuki et al., 2016).その降下年代は,千葉県東端に位置する屏風ヶ浦の犬吠層群小浜層中での層位と石灰質ナンノ化石対比層準面との層位関係から1.63 Maと推定されている(鈴木・村田,2011).またSYGは新潟地域の1.7 Ma の津池火山灰単層(坂井・黒川,2002)に対比され(正田ほか,2005), 関東では1.706–1.763 Maと年代推定されている(Suzuki et al., 2011).
一方で狭山層上部に含まれる芋窪テフラ,蔵敷テフラについては不明な点が多く,同層の年代の上限が未解明なままである原因でもあった.芋窪テフラ・蔵敷テフラを定義した福嶋・植木(2007)によれば,芋窪テフラは東大和市多摩湖3 丁目の多摩湖南岸で見出された層厚約15 cm の軽石質テフラであり,蔵敷テフラは,東大和市蔵敷の狭山丘陵南縁で見出された層厚約30 cm の軽石質テフラで,多摩湖から狭山湖東部の湖底にも露出し,芋窪テフラの約10 m 下位にある.また同時に福嶋・植木(2007)は芋窪テフラおよび蔵敷テフラのFT 年代として,それぞれ1.7±0.2 Ma,1.4±0.2 Maの年代を報告し,両テフラに含まれるジルコン結晶には外来結晶と思われる不均質なものは少なく,ウラン濃度は十分に高かったことを述べた上で,上位の芋窪テフラの方がやや古いが,誤差の範囲で2 枚のテフラのFT年代は一致するとした.蔵敷テフラの特性を検討した結果,本テフラが千葉県屏風ヶ浦のOb5.1,板橋区赤塚コア中のA10テフラと対比することができ,年代値を得ることができたので報告する.なお,本成果の一部は「多摩川中上流域上総層群調査研究プロジェクト」で進められている研究で得られたものである.
東大和市蔵敷に産出する蔵敷テフラは,上位でホルンブレンド,チタン磁鉄鉱,微量に含まれる斜方輝石を特徴とし,ホルンブレンドの屈折率(n2)は1.672–1.682を示し,下位でホルンブレンド,チタン磁鉄鉱を特徴とし,ホルンブレンドの屈折率(n2)は1.675–1.682を示す.こうした特徴と,SGO–屏風ヶ浦Ob4b‑1(1.63 Ma)の上位という層位に基づき,ホルンブレンドを含む候補対比テフラを,狭山丘陵からみて東方地域の東京地下の上総層群および千葉県屏風ヶ浦の犬吠層群(上総層群相当)で探索した結果,板橋区赤塚コア中のA10テフラ(佐藤ほか,2004),千葉県屏風ヶ浦のOb5.1テフラ(藤岡・亀尾,2004)が対比候補としてあげられた.A10テフラは深度168.71–169.13 mに産出する層厚42 cm,平均最大粒径 10 mmの降下軽石層でホルンブレンド,チタン磁鉄鉱,少量の斜方輝石を含み,火山・ホルンブレンド・斜方輝石の屈折率がそれぞれ1.510–1.512,1.676–1.685,1.702–1.706であることが報告されており(佐藤ほか,2004),蔵敷テフラと類似した特徴をもつことがわかる.今回,蔵敷テフラ,A10テフラ,Ob5.1テフラについてホルンブレンドおよびチタン磁鉄鉱の主成分化学組成分析を実施した.その結果,ホルンブレンドについては,Mg/(Mg +Fe)およびSi,Al,Fe,Mg,Caの含有率がいずれも狭い範囲で一致した組成を示し,チタン磁鉄鉱についてはFeO,TiO2,Al2O3,MgO,ZnOでほぼ類似した含有率が得られた.したがって蔵敷,A10,Ob5.1の各テフラの対比が可能であると判断した.
Ob5.1は藤岡・亀尾(2004)により示されている上下の石灰質ナンノ化石対比基準面(基準8/9間)からその降下年代が1.182–1.219 Ma(Suzuki et al. 2011)と推定されている.以上から狭山層上位の堆積年代が約1.2 Maとなる.今後この年代について古生物学的考察を加えることが必要である.
このうちSGOは,狭山丘陵北西約7 kmの阿須山丘陵の仏子層中のE1テフラへ対比されている(田浦ほか,2004)ほか,多摩丘陵から武蔵野台地地下で広く追跡されている第1堀之内テフラ(HU1,高野,1994)や屏風ヶ浦Ob4b‑1テフラ(Ob4b‑1鈴木・村田,2011; Suzuki et al., 2011)とも対比された(中島・鈴木,2014;Suzuki et al., 2016).その降下年代は,千葉県東端に位置する屏風ヶ浦の犬吠層群小浜層中での層位と石灰質ナンノ化石対比層準面との層位関係から1.63 Maと推定されている(鈴木・村田,2011).またSYGは新潟地域の1.7 Ma の津池火山灰単層(坂井・黒川,2002)に対比され(正田ほか,2005), 関東では1.706–1.763 Maと年代推定されている(Suzuki et al., 2011).
一方で狭山層上部に含まれる芋窪テフラ,蔵敷テフラについては不明な点が多く,同層の年代の上限が未解明なままである原因でもあった.芋窪テフラ・蔵敷テフラを定義した福嶋・植木(2007)によれば,芋窪テフラは東大和市多摩湖3 丁目の多摩湖南岸で見出された層厚約15 cm の軽石質テフラであり,蔵敷テフラは,東大和市蔵敷の狭山丘陵南縁で見出された層厚約30 cm の軽石質テフラで,多摩湖から狭山湖東部の湖底にも露出し,芋窪テフラの約10 m 下位にある.また同時に福嶋・植木(2007)は芋窪テフラおよび蔵敷テフラのFT 年代として,それぞれ1.7±0.2 Ma,1.4±0.2 Maの年代を報告し,両テフラに含まれるジルコン結晶には外来結晶と思われる不均質なものは少なく,ウラン濃度は十分に高かったことを述べた上で,上位の芋窪テフラの方がやや古いが,誤差の範囲で2 枚のテフラのFT年代は一致するとした.蔵敷テフラの特性を検討した結果,本テフラが千葉県屏風ヶ浦のOb5.1,板橋区赤塚コア中のA10テフラと対比することができ,年代値を得ることができたので報告する.なお,本成果の一部は「多摩川中上流域上総層群調査研究プロジェクト」で進められている研究で得られたものである.
東大和市蔵敷に産出する蔵敷テフラは,上位でホルンブレンド,チタン磁鉄鉱,微量に含まれる斜方輝石を特徴とし,ホルンブレンドの屈折率(n2)は1.672–1.682を示し,下位でホルンブレンド,チタン磁鉄鉱を特徴とし,ホルンブレンドの屈折率(n2)は1.675–1.682を示す.こうした特徴と,SGO–屏風ヶ浦Ob4b‑1(1.63 Ma)の上位という層位に基づき,ホルンブレンドを含む候補対比テフラを,狭山丘陵からみて東方地域の東京地下の上総層群および千葉県屏風ヶ浦の犬吠層群(上総層群相当)で探索した結果,板橋区赤塚コア中のA10テフラ(佐藤ほか,2004),千葉県屏風ヶ浦のOb5.1テフラ(藤岡・亀尾,2004)が対比候補としてあげられた.A10テフラは深度168.71–169.13 mに産出する層厚42 cm,平均最大粒径 10 mmの降下軽石層でホルンブレンド,チタン磁鉄鉱,少量の斜方輝石を含み,火山・ホルンブレンド・斜方輝石の屈折率がそれぞれ1.510–1.512,1.676–1.685,1.702–1.706であることが報告されており(佐藤ほか,2004),蔵敷テフラと類似した特徴をもつことがわかる.今回,蔵敷テフラ,A10テフラ,Ob5.1テフラについてホルンブレンドおよびチタン磁鉄鉱の主成分化学組成分析を実施した.その結果,ホルンブレンドについては,Mg/(Mg +Fe)およびSi,Al,Fe,Mg,Caの含有率がいずれも狭い範囲で一致した組成を示し,チタン磁鉄鉱についてはFeO,TiO2,Al2O3,MgO,ZnOでほぼ類似した含有率が得られた.したがって蔵敷,A10,Ob5.1の各テフラの対比が可能であると判断した.
Ob5.1は藤岡・亀尾(2004)により示されている上下の石灰質ナンノ化石対比基準面(基準8/9間)からその降下年代が1.182–1.219 Ma(Suzuki et al. 2011)と推定されている.以上から狭山層上位の堆積年代が約1.2 Maとなる.今後この年代について古生物学的考察を加えることが必要である.