日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-TT 計測技術・研究手法

[H-TT17] 地理情報システムと地図・空間表現

2018年5月24日(木) 09:00 〜 10:30 102 (幕張メッセ国際会議場 1F)

コンビーナ:小荒井 衛(茨城大学理学部理学科地球環境科学コース)、田中 一成(大阪工業大学工学部都市デザイン工学科)、中村 和彦(東京大学空間情報科学研究センター)、座長:小荒井 衛(茨城大学)、田中 一成(大阪工業大学)

09:00 〜 09:15

[HTT17-01] 東日本大震災以降の津波対策に対する行政の取り組み-静岡県浜松市での取り組みを事例に―

*佐野 浩彬1 (1.筑波大学大学院)

キーワード:東日本大震災、津波対策、津波避難施設、静岡県浜松市

2011年3月11日に発生した東日本大震災は,東北地方を中心に甚大な津波被害をもたらした.こうした巨大津波被害は,従来の防潮堤建設といったハード対策による津波災害への対応の限界を指摘している.一方で,東日本大震災以降は,住民の防災活動や計画づくりに焦点をあてたソフト対策が進み,その重要性が増している.現在,太平洋側の地域では,南海トラフ巨大地震の発生が懸念されており,甚大な津波被害が生じることが予想されている.ハード対策のみでは十分に防御できない現在においては,ソフト対策も含めた津波への対策が喫緊の課題である.

 こうした課題を踏まえて,国では津波対策に関する法律が整備された.2011年12月27日に施行された「津波防災地域づくりに関する法律」では,(1)津波浸水想定の設定,(2)推進計画の作成,(3)津波防護施設の管理,(4)津波災害警戒区域および津波災害特別警戒区域の指定が定められている.特に,市町村レベルの規模では(2)推進計画の作成において,津波防護施設の整備,民間施設も活用した避難施設の確保,既存のまちづくり方針などを踏まえた総合的なハード・ソフトの施策を効果的に組み合わせて計画を作成することが基本方針とされている.

 本報告では,東日本大震災以降に行われた静岡県浜松市での津波対策を事例に、津波避難施設の立地と各種計画策定の取り組みの動向を明らかにする.なお,本報告では津波対策の中でも,「津波避難」をテーマとして取り上げることとする.

 対象地域の選定にあたっては,以下の3点を考慮した.第1に,南海トラフ巨大地震によって,津波による甚大な被害が想定される地域であること.第2に,津波災害でよく取り上げられるリアス海岸ではなく,平野部に位置すること.東日本大震災では,リアス海岸を有する三陸地域だけでなく,仙台平野でも津波が遡上し甚大な被害を生じたことが指摘されている.第3に,住宅地が立ち並んでおり,交通インフラなどの都市整備が進んでいる地域であること.これらの条件を満たす地域として,浜松市を選定した.

 浜松市における南海トラフ巨大地震の被害想定は,静岡県が2013(平成25)年6月に公表した静岡県第4次地震被害想定(第4次想定)のレベル2の地震・津波にもとづいている.第4次想定では,津波高は西区で最大14m,第一波の50cm程度の津波であれば,沿岸部に4~5分で到達すると考えられているが,内陸への流入は発生から22分後だとされている.新川より南側がほぼ全面的に浸水すると想定されており,とくに浸水深2m以上の浸水が想定される場所は海岸線から約1kmの国道1号線より南側に集中している.津波による死者数は,全体で約16,610人と想定されている.

 浜松市における津波避難の取り組みについては,津波避難施設の立地状況と区版避難行動計画策定,津波地域づくり推進計画を取り上げる.

 津波避難施設の立地では,避難圏域を算出することで検討した(図1).以下の計算は2014年時点の津波避難施設の整備状況(52施設)における想定避難可能人口である.なお,想定津波浸水域内の人口と面積は,本研究において空間統計で算出された数値であることに注意されたい.想定津波浸水域(~0.3m)内には44,223人が居住しているが,GISを用いてネットワーク上での移動や避難への制約を負荷条件として考慮すると, 17,206人という結果が算出された.この数値は居住人口の約4割に値する.浜松市西区における津波避難施設の立地・指定はその後も拡大しており,津波避難困難者数を減らす方策が行われている.
 平成25年度に実施された区版避難行動計画策定では,東日本大震災を受けて静岡県により第4次被害想定が公表される前から取り組みを開始し,地域住民から選定された代表者が区ごとに,地域に応じた防災マニュアルとして策定し公開した.その後、「津波防災地域づくりに関する法律」および静岡県が公表した第4次被害想定に基づいて,津波防災地域づくり推進計画が作成され,津波対策に向けた防災教育や早期復旧などの6つの視点が提示された.また,より細かい地区単位での課題や対策の進捗を確認できる津波防災地域づくり地区カルテが作成されている.それを踏まえて,現在浜松市内では10地区で地区の津波避難計画が作成されている.以上のように,行政の取り組みにより津波避難に対する対策が進められている.発表では,各種計画の内容を踏まえて今後の津波対策の展開についても述べる.