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[HTT18-02] 山梨県忍野村の地下水流動調査-第3報 2017年の調査結果から得られた忍野村の地下水流動の特徴-
キーワード:忍野村、地下水、水質、安定同位体、地下水流動
山梨県南東部に位置する忍野村は世界遺産(文化遺産)の構成資産の一つである忍野八海を有しており,東西約8 km,南北約4 km,総面積は25.05 km2で,周囲は標高1000~1400 m程度の山で囲まれた盆地地形を呈している。盆地の中央部からやや西よりの標高が低い地域には完新世の堆積岩類が分布しており,この堆積岩を取り囲むように富士山起源の玄武岩類や火砕流などの火山岩類が広く分布している。一方,都留市との境に位置する村の東部の山間部には花崗岩類が分布しており,やや特徴が異なる地質となっている。
忍野村には忍野八海を含む幾つかの湧水が存在している他に,民家所有の浅井戸が多く分布している。また水道水源や地下水観測,工場用水などに利用されている深井戸が複数存在しており,地下水が豊富な地域となっている。忍野村の洪水対策や持続可能な水利用を行うためには,地下水流動や地下水の滞留時間を把握することが重要である。本研究では忍野村の湧水や地下水の水質の把握,地下水流動および滞留時間を推定することを目的として,2017年から調査を開始した。これまでに村内の広域を対象とした一斉調査を2017年1月と8月の2回実施しており,湧水,浅井戸,深井戸(自噴井を含む),河川水など,1月では75地点,8月では96地点で調査・採水を行なった。なお,本研究では,浅井戸(浅層地下水)は深度数m~十数m,深井戸(深層地下水)は100 m前後として区分した。現地ではEC,pH,水温,ORP,可能な地点では地下水位の測定を行い,併せて水試料の採取も実施した。採取した水試料は速やかにろ過を行った後,無機イオン成分用,安定同位体分析用,微量元素用に分け,それぞれIC(ICS-3000,DIONEX社製),CRDS法(L2130-i,picarro社製),ICP-MS(7500 Series,Agilent Technology)を利用して測定した。また,滞留時間の測定のため,CFCs,SF6,および3H分析用試料についても幾つかの地点で採取した。CFCsやSF6については,先行研究において忍野八海を含む富士山の湧水では周辺の工場由来の物質のコンタミンがあるため年代推定が不可能な地点が多いことが報告されているが,忍野村の深井戸についてはこれらの分析は行われていない。そこで本研究では,深井戸の数地点を対象としてCFCsとSF6用と3H用の採水を実施し,湧水と浅井戸については3Hの結果によって年代推定を試みた。これまでの調査・研究の結果,明らかになったことを以下に記す。
(1)忍野村の地下水等の水質組成は,湧水・浅層地下水と深層地下水に大別できる。忍野八海と浅層地下水はCa-HCO3型が卓越し,深層地下水は(Na+Ca)-HCO3型とNa-HCO3型を示す地点が大部分である。また,浅層地下水には硝酸イオン(NO3-)濃度の高い地点が認められ,1月よりも8月に濃度が上昇することから,農耕地への施肥の影響があらわれていると考えられる。一方,深層地下水の水質には1月と8月の差異は殆ど認められず,一定した水質であることが示された。
(2)忍野村の水道水源と一部の浅井戸で,V(バナジウム)濃度が100 μg/Lを超える高濃度の地点が認められた。V濃度は富士山の一部地下水で高い値を示すことが指摘されていることから,富士山起源の水の推定を行う際に利用できると考えられる。
(3)村内11地点で採取している降水の安定同位体比と標高には明瞭な負の相関(高度効果)が認められる(δ18O:-0.19‰/100 m,δD:-1.6‰/100 m)。この結果を用いて,地下水等の涵養域を推定することが可能である。
(4)忍野村北西部の山間地に位置する湧水で,水温が高く,水質組成はNa-SO4型,安定同位体比は観測地点の中で最も低く,村内の他の地点とは異なる特殊な水質を示す地点が存在する。これは断層起源の鉱泉の可能性が考えられる。この水の起源については,今後更に検討を進める。
(5)地下水位の測定結果から,忍野村の地下水流動は村の西部地域と,中央~東部地域で特徴が分かれることが示された。村の西部地域では,南から北への流れがあり,富士山方面から忍野八海方面への流れを示唆している。一方,村の中央~東部地域では東から西への流れが認められた。これらの地下水流動の特徴は,浅層地下水および深層地下水で同様に認められる。
(6)CFCs,SF6,3H等の分析結果を用いて忍野村の湧水や地下水の滞留時間を推定した結果,忍野八海では20年程度,深層地下水では30~40年程度であることが示された。
今後は,水質の季節変化の把握(定点での連続観測),涵養域の把握(高度別降水同位体比のとりまとめ),滞留時間を推定する地点の追加,流域内の地下水貯留量の推定などをおこない,忍野村の地下水流動について更に詳検討を進めてゆく予定である。
忍野村には忍野八海を含む幾つかの湧水が存在している他に,民家所有の浅井戸が多く分布している。また水道水源や地下水観測,工場用水などに利用されている深井戸が複数存在しており,地下水が豊富な地域となっている。忍野村の洪水対策や持続可能な水利用を行うためには,地下水流動や地下水の滞留時間を把握することが重要である。本研究では忍野村の湧水や地下水の水質の把握,地下水流動および滞留時間を推定することを目的として,2017年から調査を開始した。これまでに村内の広域を対象とした一斉調査を2017年1月と8月の2回実施しており,湧水,浅井戸,深井戸(自噴井を含む),河川水など,1月では75地点,8月では96地点で調査・採水を行なった。なお,本研究では,浅井戸(浅層地下水)は深度数m~十数m,深井戸(深層地下水)は100 m前後として区分した。現地ではEC,pH,水温,ORP,可能な地点では地下水位の測定を行い,併せて水試料の採取も実施した。採取した水試料は速やかにろ過を行った後,無機イオン成分用,安定同位体分析用,微量元素用に分け,それぞれIC(ICS-3000,DIONEX社製),CRDS法(L2130-i,picarro社製),ICP-MS(7500 Series,Agilent Technology)を利用して測定した。また,滞留時間の測定のため,CFCs,SF6,および3H分析用試料についても幾つかの地点で採取した。CFCsやSF6については,先行研究において忍野八海を含む富士山の湧水では周辺の工場由来の物質のコンタミンがあるため年代推定が不可能な地点が多いことが報告されているが,忍野村の深井戸についてはこれらの分析は行われていない。そこで本研究では,深井戸の数地点を対象としてCFCsとSF6用と3H用の採水を実施し,湧水と浅井戸については3Hの結果によって年代推定を試みた。これまでの調査・研究の結果,明らかになったことを以下に記す。
(1)忍野村の地下水等の水質組成は,湧水・浅層地下水と深層地下水に大別できる。忍野八海と浅層地下水はCa-HCO3型が卓越し,深層地下水は(Na+Ca)-HCO3型とNa-HCO3型を示す地点が大部分である。また,浅層地下水には硝酸イオン(NO3-)濃度の高い地点が認められ,1月よりも8月に濃度が上昇することから,農耕地への施肥の影響があらわれていると考えられる。一方,深層地下水の水質には1月と8月の差異は殆ど認められず,一定した水質であることが示された。
(2)忍野村の水道水源と一部の浅井戸で,V(バナジウム)濃度が100 μg/Lを超える高濃度の地点が認められた。V濃度は富士山の一部地下水で高い値を示すことが指摘されていることから,富士山起源の水の推定を行う際に利用できると考えられる。
(3)村内11地点で採取している降水の安定同位体比と標高には明瞭な負の相関(高度効果)が認められる(δ18O:-0.19‰/100 m,δD:-1.6‰/100 m)。この結果を用いて,地下水等の涵養域を推定することが可能である。
(4)忍野村北西部の山間地に位置する湧水で,水温が高く,水質組成はNa-SO4型,安定同位体比は観測地点の中で最も低く,村内の他の地点とは異なる特殊な水質を示す地点が存在する。これは断層起源の鉱泉の可能性が考えられる。この水の起源については,今後更に検討を進める。
(5)地下水位の測定結果から,忍野村の地下水流動は村の西部地域と,中央~東部地域で特徴が分かれることが示された。村の西部地域では,南から北への流れがあり,富士山方面から忍野八海方面への流れを示唆している。一方,村の中央~東部地域では東から西への流れが認められた。これらの地下水流動の特徴は,浅層地下水および深層地下水で同様に認められる。
(6)CFCs,SF6,3H等の分析結果を用いて忍野村の湧水や地下水の滞留時間を推定した結果,忍野八海では20年程度,深層地下水では30~40年程度であることが示された。
今後は,水質の季節変化の把握(定点での連続観測),涵養域の把握(高度別降水同位体比のとりまとめ),滞留時間を推定する地点の追加,流域内の地下水貯留量の推定などをおこない,忍野村の地下水流動について更に詳検討を進めてゆく予定である。