日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-TT 計測技術・研究手法

[H-TT18] 環境トレーサビリティー手法の開発と適用

2018年5月22日(火) 09:00 〜 10:30 103 (幕張メッセ国際会議場 1F)

コンビーナ:陀安 一郎(総合地球環境学研究所)、中野 孝教(大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 総合地球環境学研究所)、木庭 啓介(京都大学生態学研究センター)、座長:中野 孝教(総合地球環境学研究所)

09:30 〜 09:45

[HTT18-03] 硫酸イオンの硫黄安定同位体比および硝酸イオンの窒素・酸素安定同位体比を用いた兵庫県千種川流域における溶存イオンの動態研究

*藤吉 麗1大串 健一2山本 雄大3陀安 一郎1横山 正4三橋 弘宗5古川 文美子2伊藤 真之2 (1.総合地球環境学研究所、2.神戸大学、3.名古屋大学、4.兵庫県立赤穂特別支援学校、5.兵庫県立大学)

キーワード:硫酸イオン、硝酸イオン、硫黄安定同位体比、窒素・酸素安定同位体比、兵庫県千種川

兵庫県西播磨地域を流域圏とする千種川は、日本名水百選に選定された清流として知られている。流域を通じて比較的大きな土地改変や人為影響が少なく、従来から地域住民の参画による一斉水温・水質調査が継続されている。一方で、近年行われた河川工事による水質や生態系への影響が懸念されている。本研究は、硫酸イオンの硫黄安定同位体比、および硝酸イオンの窒素・酸素安定同位体比を用いて、千種川流域における硫酸イオンおよび硝酸イオンの起源と動態を解明し、本地域の水環境の科学的評価に資することを目的とした。

2017年8月6日に、流域住民の方たちと共同で、源流部から河口部まで全94地点の河川水試料を採取した。採取後、溶存イオン濃度測定用試料は現地でろ過を行い(Advantec 25CS020AN)、総合地球環境学研究所にてイオンクロマトグラフ(ICS-3000, Dionex社)を用いて測定を行った。硫酸イオンの硫黄安定同位体比測定用試料は、総合地球環境学研究所にてろ過後(Advantec C020A047A)、6M HClと10% BaCl2 を添加してBaSO4 を生成させ、 溶液をろ過してBaSO4 を回収し(Whatman Nucleopore 110609)、 元素分析計付質量分析計(DELTA V and Flash2000, Thermo Fisher Scientific)を用いて硫黄安定同位体比(δ34S)の測定を行った。硝酸イオンの窒素・酸素安定同位体比用試料は、脱窒菌法によりN2Oに還元した後、パージ&トラップ装置を装備した同位体比質量分析計(GasBench/DELTAplusXP, Thermo Fisher Scientific)を用いて、窒素同位体比(δ15N)、酸素安定同位体比(δ18O)を測定した。

硫酸イオン濃度は1.7 mgl-1から40 mgl-1の範囲内で変動し、源流部から河口部にかけて高濃度となる傾向がみられた。また河口に最も近い地点では局所的な高濃度(1156 mgl-1)が観測された。一方硝酸イオン濃度は0.06 mgl-1から13 mgl-1の変動幅を示し、源流部から河口部にかけて低濃度となる傾向がみられた。硫酸イオンの起源と動態についてδ34Sを用いて解析した結果、河口に最も近い地点の硫酸イオンは海水由来であること、また千種川本川では、源流部に起源をもつ硫酸イオンが、支流の一つである志文川付近の地質(付加体)に起源をもつ硫酸イオンと混合して下流へ向かう動態が推定された。硝酸イオンの起源と動態についてδ15N,δ18Oを解析した結果、3つの支流(大日山川、江川川、矢野川)の硝酸イオンは有機質肥料や排水に含まれる窒素の硝化に由来すること、また千種川本川では、源流部から河口部にかけて、有機質肥料や排水の窒素の硝化が、硝酸イオンの主要な源となる動態が推定された。