日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-TT 計測技術・研究手法

[H-TT18] 環境トレーサビリティー手法の開発と適用

2018年5月22日(火) 10:45 〜 12:15 103 (幕張メッセ国際会議場 1F)

コンビーナ:陀安 一郎(総合地球環境学研究所)、中野 孝教(大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 総合地球環境学研究所)、木庭 啓介(京都大学生態学研究センター)、座長:陀安 一郎(総合地球環境学研究所)

11:30 〜 11:45

[HTT18-10] 歴史標本から読み取る魚類の食性の長期変遷

*加藤 義和1奥田 昇1由水 千景1陀安 一郎1 (1.総合地球環境学研究所)

キーワード:アミノ酸窒素安定同位体比、食物網解析、生態系管理

湖沼生態系は、さまざまな生態系サービスを人類にもたらす一方、乱獲や汚染、開発といった人間活動の影響を最も受けやすい生態系の一つである。湖沼における食物網構造の長期的な変遷を明らかにすることは、過去に受けた人為的な影響を評価し、適切な保全策や漁業計画を立てる上でも重要である。本研究では、琵琶湖で100年以上にわたり採集・蓄積されてきた魚類標本を対象に、アミノ酸窒素安定同位体比(δ15NAA)を用いて過去の栄養学的位置(trophic position: TP)の変遷を明らかにすることを目的とした。対象としたのは、琵琶湖を代表する捕食魚であるハス(Opsariichthys uncirostris uncirostris)である。1910年代以降に湖内で採集、保管されてきたハスの液浸標本についてδ15NAAを測定し、2ソース混合モデルによる栄養起源(水域起源・陸域起源)の寄与率およびTPを推定した。この際、過去の琵琶湖における水域栄養起源の代用物として、遊泳性のハゼであるイサザ(Gymnogobius isaza)の液浸標本を用いた。δ15NAAによる推定では、ハスのTPは1910~1960年代にはほぼ横ばい(3.0–4.0)であったが、1970年代に上昇し(4.0)、その後、1980年代~2010年代に下降、横ばいの傾向にあった(3.0–3.5)。バルク窒素安定同位体比を用いた解析でも、同様の傾向が得られた。以上の結果から、食物網構造の長期的な変遷を明らかにする上で、δ15NAAが有効なツールとなることが示唆された。今回観察されたハスのTPの長期変動は、琵琶湖の環境変化(1960年代以降の富栄養化とその後の水質改善、1980年代以降に急増した侵略的外来魚との種間競争、近年の自然護岸や内湖の復元といった環境保全策)とも密接に関係している可能性がある。今後、さまざまな機関に保管されている生物標本を用い、δ15NAAによる解析を行うことで、過去の食物網構造の復元、さらには生態系管理等への応用が期待される。