日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-TT 計測技術・研究手法

[H-TT18] 環境トレーサビリティー手法の開発と適用

2018年5月22日(火) 15:30 〜 17:00 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:陀安 一郎(総合地球環境学研究所)、中野 孝教(大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 総合地球環境学研究所)、木庭 啓介(京都大学生態学研究センター)

[HTT18-P03] 富山県立山室堂平の積雪表面の化学成分の空間分布

*杉山 涼1竹内 望1 (1.千葉大学大学院理学研究科)

キーワード:雪氷化学、空間分布

積雪中には,大気エアロゾル等に由来する様々な化学成分が含まれている.この化学成分は,海塩や地殻,火山噴出物,人為活動など様々な起源に由来し,供給源からの距離,供給量,また風向によって積雪中の成分の構成や濃度は異なる.したがって,ある地域の積雪の溶存化学成分の空間分布は,エアロゾルの供給過程を反映する.さらに,積雪中の化学成分は,積雪の融解によって地表面へ流出するため,周辺の植生への影響を考える上でも重要である.富山県立山は,日本有数の豪雪地帯で夏まで雪が融け残る.立山室堂平の積雪中には,2012年以降噴気活動が活発化している地獄谷からの火山噴出物や大陸起源の黄砂,国内外に由来する人為起源物質など,様々な成分が含まれている.しかしながら,これらの成分の立山一帯の空間的や融雪期の季節変動は明らかになっていない.そこで本研究では,富山県立山の表面積雪の化学成分について,立山周辺の多数の地点で試料を採取,分析を行い,GISを用いて各化学成分の空間分布を明らかにし,その空間分布を決める要因について考察した.

 調査は,2017年4,5,6,7,8月の5ヵ月行い,立山の室堂山展望台(標高2675 m)周辺から雷鳥沢キャンプ場(標高2277 m)周辺までの範囲を,できるだけ等間隔に選んだ地点で表面の積雪を採取した.採取した試料は,千葉大学に輸送し,水同位体アナライザー(LGR,DLT-100)による水素・酸素同位体比の測定,イオンクロマトグラフィー(DIONEX,ICS1000)による主要化学成分濃度の測定を行った.その後,GISを用いて,各測定要素の空間分布図を作成した.
その結果,Cl-の濃度の空間分布は,どの月においても地獄谷の噴気孔から南東方向にかけて濃度が高くなる傾向を示した.積雪表面に含まれる海塩成分の指標となる,Na+の濃度の空間分布は,Cl-とは異なる傾向を示した.このことから,立山一帯の冬季の卓越風向が西北西であることも踏まえると,Cl-の空間分布は,地獄谷からの火山ガスに含まれるHClによる影響だと考えられる.一方,Cl-以外の成分は,融雪前では室堂平の南側ほど濃度が高くなる空間分布を持つことが明らかになった.このことは,人為起源エアロゾルが南側の立山カルデラを経由して室堂平に供給されていることを示唆している.