日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[EJ] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-AG 応用地球科学

[M-AG32] 海洋地球インフォマティクス

2018年5月23日(水) 13:45 〜 15:15 301B (幕張メッセ国際会議場 3F)

コンビーナ:坪井 誠司(海洋研究開発機構)、高橋 桂子(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、金尾 政紀(国立極地研究所)、座長:坪井 誠司松岡 大祐

14:05 〜 14:20

[MAG32-02] 海底の地図化における深層学習の活用:画像認識によるクモヒトデ類の抽出、海草藻場分布の画像-画像変換による地図化

*山北 剛久1,6横岡 博之2袖山 史彰1藤原 義弘1河戸 勝1土田 真二1石橋 正二郎1黒川 忠之2ドゥーグル リンズィー1仲岡 雅裕3渡辺 健太郎4ナパクワン ワンペッチ5屋良 由美子1松葉 史紗子1藤倉 克則1 (1.国立研究開発法人海洋研究開発機構、2.いであ株式会社、3.北海道大学、4.一般財団法人 みなと総合研究財団、5.カセサート大学、6.広島大学)

キーワード:アマモ場、ベントス、機械学習、地理情報システム、ビッグデータ、東日本大震災

近年、パターン認識技術は日進月歩である。この技術の応用は、より簡単で正確な画像処理を可能にすることが期待されている。ここでは、海底の地図化に活用できる2つの異なる画像認識手法の事例を紹介する。

最初の事例は、オブジェクト認識による海底生物の分布の地図化である。 2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震の後、東北太平洋沖の海洋生態系モニタリングが実施されている。地震が観測された大陸棚とその斜面の広い範囲で影響評価をするためには、生物の分布データの抽出が必要である。水中探査機を用いた調査が実施され、その中で取得した画像や動画データを活用した。

こうした画像または動画などの非構造化データから、生物を計数した構造化データを得る作業は、手作業で行われることがおおく、通常膨大な時間を要する。ここではHaar-like特徴量を用いた従来型の物体認識、および畳み込みニューラルネットワーク(CNN)のような、多層ニューラルネットワークを用いた自動認識(深層学習)を含む機械学習手法を応用して、画像や動画中の様々なオブジェクトを抽出した。

こうしたオブジェクトの抽出を行うにあたり、その教師データとして自然画像データセットはあるが、画像データセットに適用されたラベルより細かく分類することはできない。そこで、我々はまず、自動認識のための教師データとして、クモヒトデ類(Ophiuroidea)を主に含む東北地方の海洋生物の画像データセットを作成した(Yamakita et al. 2018、山北 2018)。

このデータセットを活用して、クモヒトデ類11368枚、その他5264枚を教師としたHaar-like特徴量によって抽出した結果では、解析対象画像636枚に対して、目視による抽出と比較して平均の正答率(感度)82%、誤検出率(偽陽性率)12%が得られた。発表では深層学習による結果も紹介する。


2番目の例として、画像から画像への変換を紹介する。 上記のCNNの技術は画像の生成にも使用できる。画像生成の応用例として、画像から同じ特徴を持つ別の画像を生成する手法であるpix2pixを用いて、航空写真から地図や土地被覆図を自動で生成することができる。

そこで我々は、海草藻場(アマモ場)の抽出を例として用いた。海草藻場は生産性が高く、稚仔魚にとって重要な育成場として知られるが、世界中で減少している現状にある。ここでは特に情報が少ない東南アジアのうち、タイのトランにあるハットチャオマイ国立公園の海洋保護区の比較的人為的影響の少ない海草藻場の長期変動を対象とした。

リモートセンシングは長期変動パターンを観察する最良の方法の1つであり、本研究では1970年代以降に収集された航空写真と衛星画像データが活用し、海草の分布範囲のモニタリングを行った。画像分類の手法として、ピクセルベース/オブジェクトベースの半自動的な教師あり分類と、深層学習による自動的な画像分類方法の2種類を用い、結果の精度を比較・検証した。

その結果、砂か藻場かを識別した分類の精度は、半自動分類では84%±6.48%、自動分類では89%±6.6であった。藻場の投影被度の密度を2段階に分けて検討した結果順に55%±15.8%および63%±4.48であった。通常、半自動分類は各画像ごとに用意した教師データで実施され、その作成に長時間を要するが、学習済モデルによる自動分類では迅速な(10数秒の)抽出を可能であり、ディープラーニング技術の適用が、リモートセンシングに一層の進歩をもたらすことを示した。しかし、解析単位の端に誤差が生じるなどの課題も残っている。

海草藻場の動態については、全体で比較的安定した結果を示した。しかし、一部地域の海草、特に河口に近い浅い地域の分布は、砂と流路の動きによって大きく変動した。この変動は主に自然要因によるものと考えられるが、河川は陸上の人間活動の影響を受けやく、どのように評価するかが今後の課題である。また、発表では過去30年以上にわたって分析した東京湾富津干潟における藻場の例も紹介する(Yamakita et al. 2005; 2011)。


-山北 (2018). 東日本大震災後の海の変化を知る. e-種生物学研究, 2 in press

-Yamakita et al. (2018). Image dataset of ophiuroid and other deep sea benthic organisms in 2015 extracted from the survey off Sanriku, Japan. Ecol Res. doi:10.1007/s11284-018-1571-7

-Yamakita et al.(2011) Asynchronous local dynamics contributes to stability of a seagrass bed in Tokyo Bay. Ecography 34:519-528.

-山北 他 (2005). 東京湾富津干潟における海草藻場の長期空間動態. 保全生態学研究10(2), 129-138.