11:45 〜 12:00
[MGI25-11] 日本列島の永久凍土環境―富士山頂の凍結融解プロセスからわかること―
★招待講演
キーワード:永久凍土分布、地温、富士山、大雪山、日本アルプス
温暖湿潤な日本列島において,永久凍土がまとまって分布しうるのが富士山と大雪山である。富士山ではひときわ高い標高が,大雪山ではより高緯度にあって標高2000 m前後の山頂部が台地状に広がることが,永久凍土を分布させやすくしている。一方,日本アルプスの高峰でも,地表面付近の地温から永久凍土の存在が示唆され,実際に飛驒山脈立山の1点では永久凍土が直接確認された。そのため,そうした山脈の山頂高度はちょうど永久凍土帯の下限付近に位置すると解釈されてきた。ところが2000年代末から,富士山の永久凍土とその周辺の地温を網羅的に観測しはじめたところ,1970年代の記念碑的論文が想定したよりも,また同等の気温をもつ国外の山域に比べても,富士山ははるかに永久凍土が存在しにくい環境であることが明らかになった。その結果をもとに,ここでは従来ごく限られたデータから論じられてきた日本列島の永久凍土環境について見直すこととする。
富士山では秋季に地温が特異的な急上昇をする場所が多く,その誘因は降雨であり,その素因は雨水を浸透させやすい火山砂礫層であった。一般に季節的な凍結融解層では,熱伝導が地温をほぼ支配する。しかし,富士山では移流的な熱の移動が顕著に加わるため,表層の地温勾配が極端に大きく,地表面に比べ永久凍土上端(深さ約1 m)の年平均地温が約1℃高い。永久凍土が存在しない地点の地温勾配はさらに大きく,深さ2 mの年平均地温は地表より3~5℃高い。こうした場所において,地表付近の地温を従来の知見に参照させるだけでは,永久凍土分布を過大評価してしまう。これまで日本アルプスで永久凍土が表層地温から示唆されたところは,透水性のよい岩塊地が多い。そこでは深さ2 mの年平均地温を従来の見積もりよりも3℃は高く想定すべきで,そうすると日本アルプスでは永久凍土がほとんど現存しないことになる。立山で確認された永久凍土は,8月まで残存する積雪が降雨浸透を妨げる場所で観察されており,気候的な代表性をもつ永久凍土帯下限の証拠ではなく,極端に不均一な積雪分布を反映した非成帯的な永久凍土と理解する方がよいだろう。一方,台風や秋霖の影響をほとんど受けない大雪山では,おそらく永久凍土が富士山より高い気温のもとでも存在している。つまり,日本列島では気温の南北傾度に比べて,永久凍土帯下限の南北傾度が大きい。今後,仮に気候変化により,大雪山が台風や秋霖の影響を受けやすくなれば,それに応じて永久凍土が縮小に転じると考えられる。
富士山では秋季に地温が特異的な急上昇をする場所が多く,その誘因は降雨であり,その素因は雨水を浸透させやすい火山砂礫層であった。一般に季節的な凍結融解層では,熱伝導が地温をほぼ支配する。しかし,富士山では移流的な熱の移動が顕著に加わるため,表層の地温勾配が極端に大きく,地表面に比べ永久凍土上端(深さ約1 m)の年平均地温が約1℃高い。永久凍土が存在しない地点の地温勾配はさらに大きく,深さ2 mの年平均地温は地表より3~5℃高い。こうした場所において,地表付近の地温を従来の知見に参照させるだけでは,永久凍土分布を過大評価してしまう。これまで日本アルプスで永久凍土が表層地温から示唆されたところは,透水性のよい岩塊地が多い。そこでは深さ2 mの年平均地温を従来の見積もりよりも3℃は高く想定すべきで,そうすると日本アルプスでは永久凍土がほとんど現存しないことになる。立山で確認された永久凍土は,8月まで残存する積雪が降雨浸透を妨げる場所で観察されており,気候的な代表性をもつ永久凍土帯下限の証拠ではなく,極端に不均一な積雪分布を反映した非成帯的な永久凍土と理解する方がよいだろう。一方,台風や秋霖の影響をほとんど受けない大雪山では,おそらく永久凍土が富士山より高い気温のもとでも存在している。つまり,日本列島では気温の南北傾度に比べて,永久凍土帯下限の南北傾度が大きい。今後,仮に気候変化により,大雪山が台風や秋霖の影響を受けやすくなれば,それに応じて永久凍土が縮小に転じると考えられる。