日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-GI 地球科学一般・情報地球科学

[M-GI25] 山岳地域の自然環境変動

2018年5月22日(火) 15:30 〜 17:00 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:鈴木 啓助(信州大学理学部)、苅谷 愛彦(専修大学文学部環境地理学科)、奈良間 千之(新潟大学理学部理学科、共同)、佐々木 明彦(国士舘大学文学部史学地理学科 地理・環境コース)

[MGI25-P07] 多雪山地亜高山帯の火山性台地上における湿原と森林の指交関係の成因

榎本 壮平1、*池田 敦2 (1.筑波大学 地球学類、2.筑波大学生命環境系)

キーワード:湿原、苗場山、地生態学

多雪山地亜高山帯の火山性緩斜面上には数多くの湿原があり、その一部では、湿原と森林が交互に並ぶ分布パターンが見られる。これを湿原と森林の指交関係と名付け、その成因を明らかにすることを研究目的とした。

苗場山山頂付近には、ほぼ平坦な湿原に高さ数mの段差が接するところで、ササ地の斜面を挟んで凸部が森林となった指交関係が多く見られる。ただし、そうした微起伏が存在しなくても指交関係を呈する場所もある。また、苗場山の約3 km北の小松原という火山性緩斜面に点在する湿原では,指交関係がほとんど見られない。そこで、苗場山と小松原の2地域を対象に、各植生と、地形、積雪深、土壌水分との関係を定量的に検討した。それらに土層厚や土壌構造のデータも加味し、指交関係の成因を議論した。

GIS上で空中写真を表示させ、苗場山と小松原における総観植生図を作成した。また、5 mメッシュの標高データから、標高、斜面傾斜、曲率、斜面方位を算出し、各地形量と植生の関係を統計的に解析した。苗場山の4カ所、小松原の1カ所に、森林の帯状分布に対して垂直な測線を設け、それらに沿って積雪深、土壌水分、土層厚を測定し、また植生ごとの土壌構造も調べた。

苗場山では,微起伏による斜面方位,傾斜、曲率に応じて、積雪深や土壌水分が異なり,植生が異なっていた。森林がある凸状部とその風上側斜面では、積雪が浅く,秋季の土壌水分も低かった。そこは消雪が早いため植物の生育期間が長く、樹木の生育に適していると考えられた。一方,湿原のある平坦面は風下に位置し,積雪が厚く,秋季も湛水していた。そこでは消雪時期が遅く,植物の生育期間が短いうえ,緩傾斜で排水しにくいために湿原になったと考えられる。凸状部の主に風下斜面では、積雪は厚いが、排水されるため夏季にはやや乾燥し、ササが生育していた。つまり、何列もあるこうした微起伏によって、湿原と森林の生育適地が交互に現れるために指交関係が成立していた。

一方、苗場山では標高が下がると湿原の分布域が縮小し,より湿原が少ない小松原も含め,指交関係は不明瞭になる。しかし,苗場山と小松原のいずれでも,湿原が泥炭からなるだけでなく、ササ地と森林の腐植土の下にも泥炭が見られ,かつて湿原がより広範囲にあったことを示唆した。低標高ほど,森林の侵入開始が早かったことと、融雪が早く乾燥しやすかったことにより,森林の侵入が進んでいると思われた。また、微起伏が存在しない平坦面に指交関係が成立する地点では、湿原の土層が森林やササ地に比べ厚かった。そうした場所では、泥炭が堆積して微起伏を平坦化させたが,先に形成された指交関係は残存していると考えられた。