日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-GI 地球科学一般・情報地球科学

[M-GI26] 情報地球惑星科学と大量データ処理

2018年5月21日(月) 10:45 〜 12:15 201A (幕張メッセ国際会議場 2F)

コンビーナ:村田 健史(情報通信研究機構)、堀之内 武(北海道大学地球環境科学研究院)、本田 理恵(高知大学自然科学系理工学部門、共同)、野々垣 進(国立研究開発法人 産業技術総合研究所 地質情報研究部門 情報地質研究グループ)、座長:野々垣 進村田 健史(情報通信研究機構)

11:15 〜 11:30

[MGI26-09] IIIF Curation Viewerを用いたひまわり8号・9号気象衛星画像のキュレーション

*北本 朝展1,2 (1.国立情報学研究所、2.情報・システム研究機構 データサイエンス共同利用基盤施設 人文学オープンデータ共同利用センター)

キーワード:IIIF、IIIF Curation Viewer、キュレーション、高解像度画像公開、ひまわり8号・9号、気象衛星

IIIF Curation ViewerはIIIF(International Image Interoperability Framework)に準拠した画像ビューアである。IIIFはもともとミュージアムやライブラリにおける高解像度画像の公開に相互運用性をもたらすためのコミュニティ活動から始まった。そして現在までに4つの仕様が公開されており、仕様に準拠したオープンソースソフトウェアも次々に構築されることで、IIIFを活用した画像公開は世界中に広まりつつある。ただしIIIFコミュニティは文化資源に関わる人々が中心となっているため、科学分野における利用例は未だに多いとは言えない。衛星画像や医療画像など、高解像度画像が研究の重要な素材となる割には標準化が進んでいない分野が科学分野にも多いことを考えると、そうした分野へのIIIFの適用にはまだ開拓の余地が大きいと考えられる。そこで我々は、ひまわり8号・9号の高解像度気象衛星画像を例として[1]、科学分野におけるIIIFのニーズと課題の調査を進めている。

我々はすでにTimeline APIとCursor APIという拡張仕様を提案し実装した[2]。これは文化資源における「書籍」という概念を衛星画像における「時系列」という概念に拡張するための仕様であり、Timeline APIは時系列のモデル化、Cursor APIは時系列のように要素数が長大な場合の部分アクセスという問題に対する解を提示するものである。さらに、もう一つの拡張仕様であるCuration APIは、様々なIIIFソースからテーマに沿って部分画像を収集する「キュレーション」を実現するための仕様である。これはいわば、部分画像を切り取る「ハサミ」と並べてまとめる「ノリ」の機能を合わせたものであり、文化資源に限らず科学分野においても、様々な文脈による画像の再利用を広げることができる。

これらの拡張仕様の開発は、世界の中でも我々の研究グループが先進的に取り組んでいるため、既存のIIIF準拠ソフトウェアでは対応できないという問題がある。そこで我々はIIIFの拡張仕様に対応した画像ビューアであるIIIF Curation Viewer [3]の開発を進めている。これは人文学オープンデータ共同利用センター(CODH)が推進し、本間淳氏が中心開発者となってアクティブに開発を進めるオープンソースソフトウェアである。このビューアは上記の拡張仕様に関する機能をすべて備えており、拡張仕様の参照実装にもなっている。またCuration APIで作成したキュレーションを保存するJSONストアとなるJSONkeeper [4]も、CODHが推進しTarek Saier氏が中心となって開発が進むオープンソースソフトウェアであり、これらの連携によってIIIF活用のためのソフトウェア基盤も広がりつつある。

では気象衛星画像に対してキュレーション機能はどのように活用できるだろうか?第一に研究ツールとしての活用がある。自分が興味のある現象を矩形で囲んで「お気に入り」にブックマークすれば、後から現象を一覧することができるのが利点である。例えばカルマン渦が出現した気象衛星画像だけを集めれば、カルマン渦がどのような状況でどのように出現しているかを一覧でき、個々の場面に詳しいメタデータを付与すれば検索できる機能も将来的には実現する計画である。これによって、キュレーション機能は研究素材集として活用できるようになると考えられる。

第二に、気象図鑑としての活用である。著名な現象が発生した日時の気象衛星部分画像をキュレーションに加えていくことで、「名場面集」を中心とした一種の図鑑を構築することができる。これは教育目的には有用な資源となるであろう。さらにこれを静止画だけでなく動画にすることで、時間発展する現象のダイナミクスを把握しやすい「動く図鑑」にすることも可能である。具体的には、Curation API、Timeline API、Cursor APIという3つの拡張仕様とImage APIという標準仕様を駆使し、それらをつなぐ簡単なスクリプトを開発することで、開始フレームと終了フレームをキュレーションに登録すれば、その間を線形補間でつないで動画化するシステムが構築できる。さらにIIIF Curation Viewerの固定幅切り取り機能を活用すれば、この動画を指定の大きさで作成することも可能となる。

このように画像アクセスを標準化し、ツールをオープンソースとして組み合わせ可能な形で構築することによって、より複雑な処理もツール群の組み合わせによって簡単に実現可能となることが期待できる。このように相互運用性とオープンなアクセスに基づく画像公開は、衛星画像のような科学分野においてもメリットが大きいと考えており、その一つとしてのIIIFの可能性については今後も研究を進めていく計画である。



参考文献:

[1] デジタル台風:次世代気象衛星「ひまわり8号・9号」画像/動画, http://agora.ex.nii.ac.jp/digital-typhoon/himawari-3g/

[2] IIIFを用いた高品質/高精細の画像公開と利用事例, http://codh.rois.ac.jp/iiif/

[3] IIIF Curation Viewer, http://codh.rois.ac.jp/software/iiif-curation-viewer/

[4] JSONkeeper, https://github.com/IllDepence/JSONkeeper