日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[EE] Eveningポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS01] アジア・モンスーンの進化と変動,新生代寒冷化との関連

2018年5月21日(月) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:山本 正伸(北海道大学大学院地球環境科学研究院)、多田 隆治(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)

[MIS01-P03] タリム盆地南西縁部新生界河川成堆積物の鉱物・化学組成から見た後背地変動と化学風化

*神崎 友裕1多田 隆治1烏田 明典1王 可1長谷川 精2郑 洪波3 (1.東京大学、2.高知大学、3.雲南大学)

キーワード:タリム盆地、後背地変動、化学風化

地球の表層環境において、大気中の二酸化炭素濃度の変化は様々な時間スケールの気候変動の主要な制御要因の一つと考えられている。また、数百万年程度以上の時間スケールでの大気中の二酸化炭素濃度の制御は、岩石圏と大気圏のあいだの炭素循環によってなされている(Berner, 1999)が、化学風化はその主要な素過程の一つである。そのため、長時間スケールでの気候変動の理解のためには、地質学的な時間スケールで化学風化強度の変動を理解し、その制御要因を探ることが必要である。現世における化学風化強度は、河川水を分析して風化によって溶脱された元素の溶出フラックスを定量化することで評価できるが、過去の化学風化については河川水の情報が失われているため、その強度の評価には残された河川成堆積岩を用いる必要がある。


河川成堆積岩の鉱物・化学組成は化学風化、母岩の組成、粒度の3つの要因に影響されていることが知られている。これらのうち粒度については、試料を粒度分画することでその影響を分離できる(Zhou et al., 2015など)。一方、母岩の組成の影響については、これまで無視される事が多く、適切に評価されてこなかった。


そこで本研究は、河川成堆積岩の鉱物・化学組成への母岩の組成の影響を評価、分離し、化学風化強度の変動による影響を抽出することを試みた。そのため、礫種や石英の電子スピン共鳴(ESR)信号強度などにより、後背地変動に関する研究が既になされているタリム盆地南西縁部のYechengセクション(Zheng et al., 2006、烏田、2013MS)の試料を研究対象とした。ここで採取された、河川成砂岩および扇状地成礫岩の基質をなす砂質泥、風成シルト岩を含む堆積岩試料を4つの粒度画分で分画した。これらの各画分についてX線粉末回折法(XRD)により分析を行い、リートベルト解析(Rietveld, 1969)によって鉱物組成を定量化した。加えて、蛍光X線分析(XRF)によって主要元素組成の定量を行ったほか、一部の試料についてはスミアスライドを作成し、砕屑物粒子の種類や産状を観察した。


得られた堆積岩試料の鉱物・化学組成を、礫岩から取り出した礫の種類や鉱物・化学組成、後背地変動の指標である石英のESR信号強度の変動と比較することで、母岩の種類やその組成が堆積岩の鉱物組成にどのように影響しているかを検討した。さらに、堆積岩の鉱物組成から粒度と母岩の組成の影響を取り除き、化学風化についての情報を抽出することを試みた。


その結果、河川成堆積岩試料の250-1000 μm画分には母岩に直接由来すると考えられる岩片が多く含まれているが、石英、長石、方解石といった一次鉱物の鉱物粒子の組成はむしろ<16 μm画分のものに近く、岩片中の鉱物の一部が風化の影響を受けている可能性が示唆された。これらの一次鉱物粒子が最も濃集していたのは63-250 μm画分であり、さらにこの画分の鉱物組成の変動がESR信号強度と良い相関を持つことから、母岩の種類や組成を最もよく反映しているのはこの画分だと考えられた。このことは、本研究対象においては、粗粒ほど一次鉱物が濃集しているという従来の描像(例えば、Lupker et al., 2013)が当てはまる上限は粒径250 μm付近にあることを示している。一方、<16 μm画分で見られた粘土鉱物の中には、礫岩から取り出した新鮮な礫に含まれているものがあることから、粘土鉱物種の中にも母岩に由来するものがあると考えられる。従って、細粒画分(<16 μm)の鉱物・化学組成から化学風化の影響を抽出するには、母岩の影響を評価・分離する必要がある事が明らかになった。ポスター発表では、細粒画分中の石英のESR信号強度を利用して細粒画分の鉱物・化学組成から母岩の影響を除き、化学風化の情報を抽出する方法を発表する予定である。