日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[EJ] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS06] 南大洋・南極氷床が駆動する全球気候変動

2018年5月21日(月) 09:00 〜 10:30 302 (幕張メッセ国際会議場 3F)

コンビーナ:関 宰(北海道大学低温科学研究所)、岡 顕(東京大学大気海洋研究所)、真壁 竜介(国立極地研究所、共同)、植村 立(琉球大学 理学部)、座長:野木 義史(国立極地研究所)、関 宰(北海道大学低温科学研究所)、松井 浩紀(高知大学)

10:15 〜 10:30

[MIS06-06] 南大洋に産する珪質微化石に基づく後期中新世–鮮新世の古海洋環境変動復元

*加藤 悠爾1須藤 斎1 (1.名古屋大学大学院環境学研究科)

キーワード:珪藻、黄金色藻シスト、南大洋、南極周極流

南極大陸とそれを取り囲む南大洋は,南極周極流 (Antarctic Circumpolar Current: ACC) の成立や海氷生成,氷床発達などを通して全球規模の気候変動を駆動してきた.そのため,これらの変動史を地質時代に遡って解明することは,古海洋学における必須課題である.これまでのACC変動の復元は,ACCによって生成された堆積間隙などを主な根拠としていた.しかし,堆積間隙の年代決定は容易ではなく,また先行研究のほとんどがACC成立時期(漸新世)および更新世以降のみを対象としていたため,中新世から鮮新世にかけてのACC変動史に関してはほとんど手付かずの状態である.
そこで本研究では,後期中新世および鮮新世においてACC流路は変動していたのか,していたならばどのような変動であったのかを明らかにすることを主な目的として,南大洋大西洋区で掘削されたボーリングコア試料DSDP Leg 71 Site 513(南緯48度,西経28度)およびODP Leg 113 Site 689(南緯65度,東経3度)のうち後期中新世から鮮新世(約900–300万年前)について分析を行い,珪藻化石群集の変動を調べた.
その結果,Site 513(約900–500万年前)では,ACCより北側に生息する亜熱帯珪藻(主にThalassionema nitzschioides var. parva)の産出量が20–60万年程度の周期で大きく変動しており,ACCが何度も南北移動を繰り返していたことが初めて明らかになった.また,より詳細なACC流路変動を復元するため,過去に出版されたデータリポートを参照し,ODP Sites 697(南緯62度,西経40度),699(南緯52度,西経31度),704(南緯47度,東経7度)におけるThn. nitzschioides var. parvaの産出量変動との比較を行った結果,以下のことが示唆された.(1) 約900–500万年前の南大洋大西洋区におけるACC流路の緯度方向の変動幅は5度以上に及んでいた,(2) ACC流路変動の度合いには地域差があり,その結果として流路の蛇行が起こっていた.今後,この手法を他海域で応用することにより南大洋広域における長期的なACC変動史を解明できると期待される.
また,海氷関連珪藻や亜南極珪藻などの古環境指標珪藻から示唆される寒冷化・温暖化は,ACCの北・南方向への移動とほぼ同時期に起こっており,ACCの位置と気候変動が密接に関連しあっていたことが示された.さらに,寒冷化(温暖化)の開始が,ACCの北方(南方)移動よりも僅かに早く起こっていることから,高緯度域(南極大陸側)での気候変動がACCの流路変動に大きく寄与していたことが示唆された.