日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[EJ] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS06] 南大洋・南極氷床が駆動する全球気候変動

2018年5月21日(月) 15:30 〜 17:00 302 (幕張メッセ国際会議場 3F)

コンビーナ:関 宰(北海道大学低温科学研究所)、岡 顕(東京大学大気海洋研究所)、真壁 竜介(国立極地研究所、共同)、植村 立(琉球大学 理学部)、座長:福田 洋一(京都大学)、大藪 幾美(国立極地研究所)

16:00 〜 16:15

[MIS06-14] 南極ドームふじ氷床コアのO2/N2による年代決定の高精度化

*大藪 幾美1川村 賢二1,2,3北村 享太郎1 (1.情報・システム研究機構 国立極地研究所、2.総合研究大学院大学、3.海洋研究開発機構)

キーワード:氷床コア、ドームふじ、O2/N2、年代決定

南極ドームふじ氷床コアは過去72万年間の気候変動を記録している。氷期-間氷期の気候変動のタイミングや継続時間を正確に求め、日射等の強制力との関係を知るためには、この氷床コアの正確な年代を決めることが不可欠である。Kawamura et al. (2007)は、ドームふじコアに含まれる空気中のO2/N2の変動とドームふじの夏至の日射量変動との類似性を利用し、O2/N2を日射量曲線に合わせるように年代をチューニングすることで、年代精度を向上させる手法を確立した。これによって得られた第1期ドームふじコア(34万年)の年代スケール(DFO-2006)は誤差が約±2000年以内と推定され、同程度の年代範囲をカバーするドームCやボストークコアの年代誤差(±6000年)より圧倒的に小さいとされた。しかし、火山シグナルによるコア間の詳細年代対比や、中国の石筍のU-Th放射性年代との対比から、約10万年前と13万年前において、ドームふじコアのO2/N2年代誤差が推定範囲を超えているという報告がなされた(Fujita et al., 2015)。その原因は、年代決定に用いたO2/N2データのばらつきが大きいことである可能性がある。また、22~23万年前におけるO2/N2データのばらつきが特に大きいため、年代を束縛することが難しく、ボストークコアのO2/N2データを代替として利用している。データに大きなばらつきが生じている原因として、O2/N2データの補正の問題が挙げられる。当時の分析試料は比較的温度の高い-25˚Cの冷凍庫で保管されていたため、その間に空気がコアから抜け、O2/N2の分別が生じた。その量を経験的に補正したが、保存環境やコアの状態は試料毎に異なるであろうことから、保存期間のみに依存した補正には限界がある。この問題を解決するためには、新たな分析を実施してデータの質を根本的に向上させる必要があった。そこで本研究では、輸送中以外の期間は全て-50˚Cで保管された第1期コア試料を再分析し、ドームふじ年代の高精度化を試みた。先行研究から、氷コアの保管期間中に起こる空気の抜けは氷中の分子拡散に支配されるため、その度合いは氷の表面付近で最大となり、コアの内部に向かって無視できるほど小さくなる(元の組成が保存されている)可能性が考えられる(Ikeda-Fukazawa et al., 2005)。そこで、氷表面を除去する厚さを変える試験を行った結果、氷表面を1~2cm除去することにより、もとのO2/N2が復元可能であることがわかった。この手法を用いて8~16.5万年の期間の試料を分析し、年代を再決定したした結果、中国の石筍のU-Th放射性年代との差が±1200年以内となった。特に、約13万年前の退氷期の終わりの年代が石筍のU-Th年代と1000年以内で一致し、退氷期の年代制約がより確実になったと考えられる。今後は、16.5万年より古い時代の試料の分析を進め、大会当日は新たなO2/N2データと年代決定の結果を報告する。