日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[EJ] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS07] 結晶成長、溶解における界面・ナノ現象

2018年5月23日(水) 10:45 〜 12:15 A03 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:木村 勇気(北海道大学低温科学研究所)、三浦 均(名古屋市立大学大学院システム自然科学研究科)、塚本 勝男(大阪大学大学院工学研究科、共同)、佐藤 久夫(三菱マテリアル株式会社エネルギー事業センター那珂エネルギー開発研究所)、座長:木村 勇気(北海道大学低温科学研究所)

11:15 〜 11:45

[MIS07-03] 機械学習と原子分解能計測による結晶界面の構造解析

★招待講演

*溝口 照康1 (1.東京大学生産技術研究所)

キーワード:結晶界面、粒界、機械学習、原子構造、理論計算、クリギング

界面はバルクと異なる原子配列を伴うために機械的・機能的物性に多大な影響を与えることが知られている.また,人工超格子のヘテロ界面では二次元電子ガスの形成など特異的な物性の発現も報告されている.これら様々な界面における機能発現を理解するためには,界面の原子構造を明らかにし,その構造と機能との相関性を明らかにする必要がある.しかしながら界面がもつ構造の自由度のために,たった一種類の対応格子理論に基づくモデル化されたΣ粒界であっても,数百から数万の候補構造が存在し,それらすべて計算することは困難である.さらに,界面は対称傾角,非対称傾角,さらにはねじりや,ランダム粒界など,その種類は無数である.

近年,物質研究に機械学習などの情報科学手法を利用する「マテリアルズインフォマティクス」が注目を集めている.マテリアルズインフォマティクスでは,人間が解析できないような複雑なデータ空間を,機械学習によって解析し,物質開発において有益な情報を得ることを目的としている.これまでに高性能な電池材料や有機EL分子の発見などに利用されており,今後の物質開発における大きな潮流になると考えられている.

以上のような背景を踏まえ,我々は仮想スクリーニング法とベイズ最適化という2つの機械学習手法を活用して結晶の界面構造を高速かつ正確に決定する手法の開発を行ってきた.さらに,それらの手法を拡張し,転移学習の考え方を取り入れることで,より高速な手法の開発を行っている[1-4].

まず仮想スクリーニングは,全てのデータを網羅的に取得することが困難な場合に一部のデータを用いて回帰によって予測モデル(回帰器,Predictorと称す)を作成し,得られたPredictorによって残りのデータ部分を推定して最適値(ここでは最安定構造)を決定する手法である.今回,FCC-Cuの[001]軸対称傾角粒界の構造を仮想スクリーニングによって決定した.4つの粒界で学習(Training)を実施することでPredictorを作成し,得られたPredictorを用いて他の粒界構造を網羅的に決定した[1].

最近では,仮想スクリーニングをさらに拡張し,様々な物質の粒界構造を決定可能な“Universal”なPredictorの作成も試みている.

また,ベイズ最適化を用いた界面構造探索も行っている.得られたデータを用いてデータ空間全体を推定し,予測分散も考慮して次の探索点を決める.次にその探索点で実際に得られたデータも用いて空間全体を推定しなおして次の探索点をきめる.そのような探索と推定を繰り返すことで最適値をいち早く決定する手法である.同手法は地球の資源探索の領域で用いられておりクリギング(Kriging)とも称される.

KrigingをFCC-Cuや,BCC-Fe,酸化物の対称傾角粒界に利用した.その結果,数百倍効率的に最安定界面構造を決定することに成功した[2, 3].また, Krigingにより得られた推定結果は,構造と界面エネルギーとの相関性に関する情報が含まれている.その結果を別の新しい粒界に利用することで新しい粒界をより効率的に探索することが出来る.さらにそのような知識を再利用(転移,transfer)する転移学習(Transfer learning)とKrigingを組み合わせることでさらなる高速化も実現できる[4].

さらに,発表者らは走査透過型電子顕微鏡法を利用して,ガラス材料や液体の原子分解能計測に加え[5-7],電子分光法とシミュレーションを複合利用した液体および気体分子の振動解析についても取り組んでいる[8-10].当日はこれらの内容について発表する予定である[11].



[1] S. Kiyohara, H. Oda, T. Miyata, and T. Mizoguchi, Sci. Adv. 2, e1600746 (2016).

[2] S. Kiyohara, H. Oda, K. Tsuda, and T. Mizoguchi, Jpn. J. Appl. Phys. 55, 2 (2016).

[3] S. Kikuchi, H. Oda, S. Kiyohara, and T. Mizoguchi, Phys. B Condens. Matter in press (2017).

[4] H. Oda, S. Kiyohara, K. Tsuda, and T. Mizoguchi, J. Phys. Soc. Jpn, (Letter) 86, 123601 (2017).

[5] T. Mizoguchi et al., ACS nano, 7 (2013) 5058-5063.

[6] T. Miyata et al., Ultramicroscopy, 178 (2017) 81.

[7] T. Miyata et al., Science Adv., 3 (2017) e1701546.

[8] H. Katsukura et al., Sci. Rep., 7 (2017), 16434.

[9] Y. Matsui et al., Chem. Phys. Lett., 649 (2016) 92.

[10] Y. Matsui et al., Sci. Rep., 3 (2013) 3503.

[11] 本発表の研究は,東京大学院生の清原慎,小田尋美,菊地駿,宮田智衆により実施された.また,MEXT, JSPS, JST-PRESTOおよび展開研究のサポートを受けて実施された.