日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[EJ] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS07] 結晶成長、溶解における界面・ナノ現象

2018年5月23日(水) 10:45 〜 12:15 A03 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:木村 勇気(北海道大学低温科学研究所)、三浦 均(名古屋市立大学大学院システム自然科学研究科)、塚本 勝男(大阪大学大学院工学研究科、共同)、佐藤 久夫(三菱マテリアル株式会社エネルギー事業センター那珂エネルギー開発研究所)、座長:木村 勇気(北海道大学低温科学研究所)

12:00 〜 12:15

[MIS07-05] フェーズフィールド法による定比組成鉱物結晶の成長・溶解過程の数値計算

*三浦 均1 (1.名古屋市立大学大学院システム自然科学研究科)

キーワード:結晶成長、数値計算、定比組成鉱物

地球上の岩石や宇宙から飛来する石質隕石にはさまざまな珪酸塩鉱物結晶が含まれており,その多くはマグマが冷却する過程で晶出・成長したものである。その形態・化学組成・サイズなどの特徴は,これらの鉱物の成因を推測する手掛かりを与える。一般にマグマは多成分系であり,その中で成長する鉱物結晶の組成はマグマの組成と一致しない。その結果,結晶の成長に伴い,結晶相と液相との間で元素の分配が生じ,結晶相および液相の化学組成が変化する。結晶成長が極めて遅ければ,各相内の化学組成は一様だと見做すことができる(平衡結晶作用)。だが,一般に結晶相内の元素拡散は遅いため,結晶相内の化学組成は一様とは見なせないことが多い。この場合,結晶成長に伴う液相の組成変化が結晶内に組成勾配として記録される(塁帯構造)。結晶成長がさらに速いと,液相内の元素拡散が結晶成長に追いつかなくなり,液相側に排出された元素が結晶周囲に濃集する(境界層)。境界層が形成されるようになると,平坦な固液界面が不安定化して樹枝状結晶が形成したり[1],結晶内に取り込まれる液相(流体包有物)の組成に影響を及ぼしたりする [2]。このように,境界層は結晶の形態や化学組成に影響を及ぼすことから,それが結晶成長に及ぼす影響を理解することは重要である。従来は主に実験や経験に基づいて研究が進められていたが,それを理論面から検証する有効な手法がないことが素過程の理解を妨げる一因となっていた。

本研究では,金属工学分野で発達してきた合金凝固過程の数値計算法である「フェーズフィールド(PF)法」に着目し,これを定比組成の鉱物結晶に適用する方法を提案する。今回扱ったのは端成分AとBからなる二成分系であり,結晶相は成分Aのみからなる純粋物質とし,液相は成分AとBからなる正則溶体とした。PF法には,Kimらによって定式化された二成分系モデル[3]を採用した。ただし,Kimらのモデルは結晶相として固溶体を扱っており,そのままでは定比組成の結晶に適用できない。そこで,結晶組成が一定であることを前提として再定式化した。定比組成結晶を含む系の具体例としてforsterite-SiO2系を採用し,実験で得られた相図[4]を再現するように自由エネルギーを組成と温度の関数として与えた。この自由エネルギーを再定式化したPF方程式に組み込み,空間一次元の結晶成長および溶解過程の計算を行なった。

まず,固液界面における結晶相への元素取り込みが十分に速い極限(拡散律速)の場合について検証した。初期条件として過冷却状態を与えた場合,結晶の成長とともに成分Bは液相側に排出され,境界層が形成された。固液界面における液相濃度はほぼ平衡濃度と一致しており,拡散律速条件と整合的であった。その後,液相全体が平衡組成で一様となった時点で結晶成長は停止した。固液界面の移動距離は経過時間の平方根に比例しており,やはり拡散律速条件と整合的であった。一方,平衡温度よりも高温な初期条件を与えた場合は,結晶は溶解し,最終的には成長時と同様に平衡状態に達した。次に,元素取り込みが十分に遅い極限(取り込み律速)の場合について検証した。この場合,成長速度は結晶化駆動力に比例しており,取り込み律速条件と整合的であった。いずれの計算においても,系の全自由エネルギーは時間とともに単調減少しており,熱力学第二法則とも整合的であった。

自由エネルギーが定式化されている系であれば,本手法で扱うことができる。珪酸塩系はMELTS等の熱力学モデルがすでに普及しており,本手法で定比組成鉱物が扱えるようになったことで,地球惑星科学で想定される様々な状況に適用する道が拓けたと言えるだろう。今後は3つ以上の成分を含む多成分系への拡張に取り組む予定である。


参考文献:[1] W. W. Mullins and R. F. Sekerka, 1964, J. Appl. Phys. 35, 444. [2] D. Baker, 2008, Cont. Miner. Petro. 156, 377. [3] S. G. Kim et al., 1999, Phys. Rev. E 60, 7187. [4] N. L. Bowen and O. Andersen, 1914, 37, 487.