日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[EJ] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS08] 地球掘削科学

2018年5月22日(火) 13:45 〜 15:15 コンベンションホールB(CH-B) (幕張メッセ国際会議場 2F)

コンビーナ:山田 泰広(海洋研究開発機構 海洋掘削科学研究開発センター)、黒田 潤一郎(東京大学大気海洋研究所 海洋底科学部門)、氏家 恒太郎(筑波大学生命環境系、共同)、菅沼 悠介(国立極地研究所)、座長:稲垣 史生菅沼 悠介

15:00 〜 15:15

[MIS08-18] モホのつくり方

*田村 芳彦1高澤 栄一1,2セレナ ジョージ3道林 克禎4佐藤 智紀1小平 秀一5三浦 誠一5 (1.海洋研究開発機構 海洋掘削科学研究開発センター、2.新潟大学、3.トルース大学、4.静岡大学、5.海洋研究開発機構 地震津波海域観測研究開発センター)

キーワード:モホ、オマーンオフィオライト、地震波の反射、地殻ーマントル境界、ダナイト

「地殻とマントルとの境界面は1909年クロアチアのモホロビチッチによって発見された。それ以来この境界面は、モホロビチッチ不連続面(モホ面)とよばれる(第一学習社高等学校地学基礎)」。モホロビチッチは地震波の速さが急変する境界を発見したのであるが、海洋観測では「地殻とマントルの境界面における地震波の反射面」をモホ面と呼んでいる。地殻とマントルの境界では音響インピーダンス(地震波の速度と岩石の密度を掛算したもの)が急変するので、地震波の反射が生じる、と考えられるからである。しかし、この海洋モホは、本当に地殻とマントルの境界だろうか。

Ohira et al. (2017, EPSL)は北西太平洋で、1130kmにわたり地震波の反射面をしらべた。この測線は128Maから148Maの2千万年にかけて太平洋プレートとファラロンプレートとの発散境界で形成された海洋底にあたる。この測線で明瞭なモホがあるのは60km(全体の6%のみ)であった。換言すれば、上記の海洋底のうち、モホがつくられたのは最初の200万年のみであった。一方、Aghaei et al. (2014, G3)は、最近18万年間の高速拡大境界(東太平洋海嶺:太平洋プレートとココスプレートの境界)におけるモホの形成過程を明らかにした。海嶺に沿って約40kmの狭い範囲であるが、この地域の北部ではモホはないか、弱い。一方、南部は強いモホがある。マントルの低速度ゾーン(MLVZ)はこの地域の北部にも南部にも存在し(Toomey et al., 2007, nature)、マントルの湧昇流とモホの有無は無関係である。モホは中央海嶺で直ちにつくられるか、または形成されない、ということになる。

地殻とマントルの境界面は至る所に存在するはずであるが、モホは限定的に存在する。一方、地震波の屈折法からモホの反射面は地殻とマントルの間に存在する。そうすると、モホは、地殻とマントルの境界ではなく、その間に存在する実態を持つ何かである、と考えた方がよさそうである。つまり、地殻とマントルの境界において、普遍的ではないが、ある特殊条件下でつくられるものがモホではないか。

中東のオマーンには海洋プレートがアラビア半島に乗り上げた世界最大のオフィオライトが露出している。これまでのオマーンの調査により、下部地殻を形成する層状はんれい岩(ガブロ)と上部マントルを形成するかんらん岩(ハルツバージャイト)の間にはダナイト(ほぼかんらん石とスピネルからなる岩石、少量のガブロなどの貫入岩を含む)が存在することが知られているが、その厚さは地域によって異なり、数メートルから数百メートルにおよぶ様々な厚さを持つ(Abily & Ceuleneer, 2013 Geology、Akizawa et al., 2012 CMPなど)。また昨年行われたICDPオマーン掘削プロジェクトでは厚い(>150 m)ダナイトが地殻マントル境界で掘削されている。この分厚いダナイトがモホそのものではないだろうか。なぜなら、一般的にダナイトのかんらん石はハルツバージャイトのものよりも鉄にとみ、ハルツバージャイトは20パーセント前後の輝石を含む。そうなると音響インピーダンスはダナイトの方がハルツバージャイトよりも格段に高いことが予想され、さらに150m以上の厚さを持てば、ハルツバージャイトよりも明瞭な反射が認識されるはずである。一方、数メートルのダナイト層は地震波では認識できない。ダナイト層の厚さがモホの有無を決定することになる。

どのようにして分厚いダナイト層(モホ)を、局所的につくるか?

オマーンオフィオライトでは、中央海嶺における断層により、海水がマントルに到達したことが示唆されている(Abily, Ceuleneer, & Launeau, 2011, Geology; Rospabe et al., 2017, Geology)。また、Koepke et al. (2005, Terra Nova; 2007, CMP)は下部地殻のはんれい岩が海水により含水融解をおこしたと結論している。普遍的ではないが、このような特殊な条件下であれば、地殻の下のマントルにまで水が入る可能性がある。その結果、引き起こされるのは中央海嶺下のマントルの含水融解であり、低圧下におけるマントルの含水融解においては、厚いダナイト層が形成されるだろう。興味深いことに、沈み込み帯で大陸ができるメカニズム(Tamura et al., Sci. Rep. 2016)とモホができるメカニズムは同じということになる。沈み込み帯で、マントルへ水が下から入るか、中央海嶺で海水が上から入るかの違いである。この仮説の検証にはオマーン掘削コアのちきゅう船上における精密分析(ChikyuOman2018)が必要である。