日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS10] 古気候・古海洋変動

2018年5月23日(水) 10:45 〜 12:15 A08 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:岡崎 裕典(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、磯辺 篤彦(九州大学応用力学研究所)、北村 晃寿(静岡大学理学部地球科学教室、共同)、佐野 雅規(早稲田大学人間科学学術院)、長谷川 精(高知大学理工学部)、岡 顕(東京大学大気海洋研究所)、加 三千宣(愛媛大学沿岸環境科学研究センター)、座長:長谷川 精

11:30 〜 11:45

[MIS10-10] 微化石分析の新たなツール:人工知能と連携した顕微鏡画像の自動取得システム

*板木 拓也1河地 正伸4平 陽介2鍬守 直樹2斎藤 仁志2星野 辰彦3 (1.産業技術総合研究所、2.NEC、3.海洋開発研究機構、4.国立環境研究所 )

キーワード:微古生物学、機械学習、自動分類

微化石種の分類作業は,本来なら専門家の豊富な知識と経験が必要であるが,人工知能技術のひとつであるディープラーニング(深層学習)を使って自動化することにより,専門家が不在でも信頼できるデータの取得が可能となることが期待されている(星野ほか,2017).2種の放散虫(Cycladophora davisianaCycladophora sphaeris)を用いた自動分類の先行実験においては,それぞれ80画像を特徴量抽出のための教師データとして使用し,テスト用画像の分類では93%以上の正答率を示した(板木ほか,2018).この実験では,顕微鏡写真から切り出した画像をデータとして使用しており,典型的な形態の個体に関する高い正答率を得る結果となっていた.しかし,実際の運用を想定した場合,産出する多数の種を網羅した教師データの整備や群集組成データの取得に際しては,手作業による画像の切り出し作業は大きな労力を要する.そこで,顕微鏡画像を自動的に取得出来る装置を用いて微化石(放散虫)の画像を大量に取得し,それらをディープラーニングで分類する実験を行った.
今回の実験では,画像の取得に電動X-Yステージ付き顕微鏡「Collection Pro」(改)を用いた.ステージ上のプレパラートや粒子を散布したトレイをスキャンし,画像処理により個々の粒子イメージを個別に保管することが出来る.日本海及び南極海から得られた堆積物試料を処理して作成されたスライド1枚につき1,000~10,000粒子の画像データを取得することが出来た.また,流体中に分散した個々の粒子の画像を取得できるイメージングフローサイトメトリー画像解析装置「FlowCam」も微化石画像の取得に有効である.
「Collection Pro」で得られた画像から,Actinomma bolealeLarcopyle buetschliiCycladophora davisiana,その他の放散虫,円盤珪藻,針状珪藻,砕屑粒子のカテゴリーに区分して教師データを構築し,ディープラーニングソフト「RAPID機械学習」(NEC)により分類モデルを構築した.分類モデルは,カテゴリー数が多くなると正答率が低下するが,各カテゴリーの教師データの数を増やしていくことでそれらの正答率は向上する傾向がある.現段階の実験データは少ないものの, 教師データの比較的に多いL. buetschliiの正答率は約80%で,教師データの少ないA. bolealeC. davisianaは60%程度であった.今後,教師データの充実によって精度の高い分類モデルを構築することが課題である.
上記の実験では,画像の取得と分類は別々に行っているが,現在,顕微鏡画像の自動取得装置にディープラーニングを実装できるプログラムを開発している.粒子画像の大量取得とそれらの分類を同時に行うことの出来るこのシステムは,将来的に群集組成データの自動取得も可能となる他,医療や材料試験など様々な分野での応用が期待される.

星野辰彦・平陽介・斎藤 仁志・萩野恭子・小野寺丈尚太郎・板木拓也・山口龍彦・稲垣史生(2017)自動年代決定AIシステム開発を目指した画像認識・機械学習による微化石分類.JpGU-AGU共同大会2017要旨.
板木拓也・平 陽介・鍬守直樹・斎藤 仁志・河地正伸・星野辰彦(2018)人工知能による放散虫の自動分類と今後の展望.日本古生物学会第167回例会要旨.