日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS10] 古気候・古海洋変動

2018年5月23日(水) 15:30 〜 17:00 A07 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:岡崎 裕典(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、磯辺 篤彦(九州大学応用力学研究所)、北村 晃寿(静岡大学理学部地球科学教室、共同)、佐野 雅規(早稲田大学人間科学学術院)、長谷川 精(高知大学理工学部)、岡 顕(東京大学大気海洋研究所)、加 三千宣(愛媛大学沿岸環境科学研究センター)、座長:佐野 雅規

16:22 〜 16:37

[MIS10-16] 中海における藻類バイオマーカーを用いた古環境復元~特にアルケノン古水温に注目して

*服部 由季1沢田 健2安藤 卓人3中村 英人4廣瀬 孝太郎5 (1.北海道大学理学院自然史科学専攻、2.北海道大学大学院理学研究院地球惑星科学部門、3.北海道大学 北極域研究センター、4.大阪市立大学大学院理学研究科、5.早稲田大学 大学院創造理工学研究科 地球・環境資源理工学専攻)

キーワード:汽水域、中海、藻類バイオマーカー、アルケノン、アルキルジオール、古環境復元

藻類は多様性に富み、環境の変化に応じて群集が変化する。また、バイオマーカーの組成を環境に応じて変化させる種も存在することから水圏の古環境復元に利用されている。特にハプト藻のバイオマーカーである長鎖アルケノンは海洋の温度復元に用いられる強力な指標であるが、近年、大陸の塩湖・淡水湖など湖沼でも報告されている。このアルケノンは、日本列島では北海道えりも町豊似湖でしか確認されていない。本研究では、本邦で初の汽水湖環境である島根県中海で長鎖アルケノンを確認することができた。私たちはアルケノンも含め藻類由来バイオマーカーを網羅的に分析し、藻類の種の構成とその変遷を調査した。また、特に、汽水環境でのアルケノン古水温の信頼性について検討した。

本研究の調査地である中海は高度経済成長による人為的な影響を強く受け、特に、1960~1980年代の干拓・淡水化計画により生態系が大きな影響を受けた。堆積物コアは中海の中心部Nk3C地点で2017年に回収された。コアの年代はCs、Pb同位体により決定し、最下部はおよそ600年前を示した。バイオマーカー分析は抽出した溶媒をカラムで分けた画分ごとにGC-MS、GC-FIDで分析した。

藻類バイオマーカーとして、長鎖アルケノン、アルキルジオール、ステロイドが今回分析した全ての深度から発見された。長鎖アルケノンは干拓・淡水化事業の開始を記録している層準の上下で傾向が異なった。下位では C37:4, C40 が存在せず2不飽和が優勢であるため アルケノン不飽和指数 (UK’37) が大きい。一方で、上位では C37:4, C40 が存在し、3不飽和が優勢であるため UK’37,UK37 が小さい。アルケノン生産種は、C37:4, C40の有無や、C37/C38 の値から、下位では外洋や沿岸に広く分布するEmiliania huxleyiGephyrocapsa oceanica上位では内陸塩湖や沿岸に分布するChrysotila lamellosa と推定した。 また、アルキルジオール組成もアルケノン組成の大きく変化する深度を挟んで下位では海水生の真正眼点藻由来のC30 1,15-diolが優勢であり浅海的、上位では淡水生真正眼点藻由来のC32 1,15-diolが優勢で河川的という結果となった。これはアルケノン組成から推測された起源種の生息環境と一致する。ステロイド組成は、渦鞭毛藻由来であるDinosterol の割合が下位で多く、過去の方が渦鞭毛藻の生産が盛んであったことが示唆された。これらのことから、中海では干拓・淡水化事業により藻類の種組成が変化したこと、また、その影響が現在も見られることが明らかになった。