日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS10] 古気候・古海洋変動

2018年5月24日(木) 10:45 〜 12:15 A07 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:岡崎 裕典(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、磯辺 篤彦(九州大学応用力学研究所)、北村 晃寿(静岡大学理学部地球科学教室、共同)、佐野 雅規(早稲田大学人間科学学術院)、長谷川 精(高知大学理工学部)、岡 顕(東京大学大気海洋研究所)、加 三千宣(愛媛大学沿岸環境科学研究センター)、座長:磯辺 篤彦(九州大学 応用力学研究所)

11:30 〜 11:45

[MIS10-21] 静岡県浜名湖における過去2000年間の古環境変遷史

*瀬戸 浩二1藤井 悠史2佐藤 巧2香月 興太1山田 和芳3 (1.島根大学エスチュアリー研究センター、2.島根大学総合理工学部、3.ふじのくに地球環境史ミュージアム)

キーワード:浜名湖、古環境解析、全イオウ濃度

静岡県西端に位置する浜名湖は,水域面積が64km2の沿岸性汽水湖沼である.浜名湖の湖水は,南側の今切口における幅約200mの水路から海水が流入し,都田川などの河川から淡水が流入している.今切口は1498年の地震(明応地震)に伴う津波と翌年の暴風により砂州が決壊し,海水が流入し始めたとされている(池谷ほか,1990:南ほか,1995).本研究では浜名湖においてコアを採取し,後期完新世における浜名湖の古環境変遷史について考察を行うことを目的としている.

 本研究では,浜名湖の北部湖盆域の最も水深の深い地点(東経137°34.955′,北緯34°45.912′,水深11.6m)で16Hm-1C,2Cコアを,浜名湖の引佐細江(東経137°37.362’,北緯34°45.954’,水深6.5m)で17Hm-3C,4Cコアを採取した.

16Hm-1C,2Cコアと17Hm-3C,4Cコアは上部でラミナが発達し,下部は生物擾乱を伴う泥質堆積物で構成されている.CNS元素分析の結果,17Hm-3C,4Cコアの全有機炭素(TOC)濃度は0.9~4.5%,全窒素(TN)濃度は0.1~0.5%の間で変動した. TOC濃度は16Hm-1C,2Cコアとほぼ同調的な変化を示すが上部では1~2%程度低い値を示した.これは,引佐細江が湖心と比較して,河川の影響を強く受け,無機砕屑物により希釈されたものと考えられる.全イオウ(TS)濃度は16Hm-1C,2Cコアでは,1~5%の範囲で,17Hm-3C,4Cコアでは0.1~3.3%の範囲で周期的に変動する.

16Hm-1,2Cコアでは8層準においてAMS14C年代測定を行なわれている. 17Hm-3,4Cコアも岩相および分析結果の同調性からほぼ同様な年代を示すと思われる.浜名湖の古環境についてTS濃度から判断すると,淡水湖に近いのはAD200~AD400年までで,それ以降は汽水湖であることを示す.その間でも16Hm-1CコアではTS濃度が0.7%以上を示し,淡水とは言えない値を示している.17Hm-3Cコアでは0.2%以下を示しているので,淡水環境を示していると思われる.このような深度による環境の違いから成層構造を示す低鹹汽水湖と思われる.
これらのことから,後期完新世において浜名湖が淡水化したのは,AD200~AD400の間のみである.その当時でも完全に淡水湖になっておらず,海水は遡上していたようだ.それ以降,高塩分汽水を示す厚い底層水が存在していた.しかし,珪藻化石からは淡水を示唆すること(Sato et al,2016)から,表層は淡水に近かったものと思われる.そのため,底層水は貧酸素から無酸素環境であっただろう.これはTS濃度からも支持される.AD1498年の明応地震は,表層は劇的に変化したが,底層は大きく変化していない.明応地震は確かに表層付近の環境は一変させたが,塩水化はそれ以前から進んでいたものと推定される.