日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS10] 古気候・古海洋変動

2018年5月24日(木) 15:30 〜 17:00 A07 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:岡崎 裕典(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、磯辺 篤彦(九州大学応用力学研究所)、北村 晃寿(静岡大学理学部地球科学教室、共同)、佐野 雅規(早稲田大学人間科学学術院)、長谷川 精(高知大学理工学部)、岡 顕(東京大学大気海洋研究所)、加 三千宣(愛媛大学沿岸環境科学研究センター)、座長:加 三千宣(愛媛大学沿岸環境科学研究センター)

16:45 〜 17:00

[MIS10-34] 氷期の大気中二酸化炭素濃度低下における海洋炭素循環の役割

★招待講演

*小林 英貴1岡 顕1 (1.東京大学大気海洋研究所)

キーワード:海洋炭素循環、氷期/間氷期サイクル、海洋子午面循環、炭酸塩補償過程

約 2 万年前の最終氷期最盛期の大気中二酸化炭素濃度(pCO2)は、氷床コアデータに含まれる気泡を用いた気候復元から、産業革命前の現代と比較して 100 ppm 程度低かったことが知られ、この大気中 pCO2 の変化は、海洋炭素循環の違いに起因すると考えられている。海底堆積物分析からは、最終氷期最盛期の南大洋深層が、現代と比べて高塩分で古い水塊で占められていたことが示されており、これに伴う成層の変化が大気中二酸化炭素濃度低下の原因の一つと考えられている(南大洋仮説) 。海洋大循環モデルを用いた先行研究では、氷期の大気中 pCO2 の低下の振幅を再現できていないが、南大洋仮説の前提となる南大洋の水塊特性が十分に再現されていないことが、その過小評価の要因である可能性が考えられる。そこで本研究は南大洋仮説に着目し、海洋大循環モデルを用いて氷期の南大洋深層での高塩分化の再現を図り、さらに海洋トレーサーモデルと本研究で新たに開発した海洋堆積モデルを用いて、このような南大洋の変化が、海洋炭素循環の変化を介して大気中二酸化炭素濃度に及ぼす影響を、数値実験により定量的に評価した。
本研究では、まずプロキシデータが示すような氷期の海洋物理場を再現し、その上で海洋炭素循環の応答を介した大気中 pCO2 の変化を調べた。氷期に関する数値実験において、南大洋の海洋最深層における塩分を古海洋データによる復元値に緩和し、さらに南大洋での成層強化の再現を目的として、理想的に小さい鉛直拡散係数を与えた。再現された氷期の南大洋深層では、南極周辺で塩分成層が強まり、深層の水塊も古くなった。その結果、全球海洋で溶存無機炭素の鉛直勾配が増加し、大気中 pCO2 の低下がもたらされた。しかしながら、この氷期実験における大気中 pCO2 の低下は、約 47 ppm にとどまっていた。
炭酸塩補償過程は、氷期における大気中 pCO2 の低下に貢献することが知られているが、これまでの数値的研究では、その定量的な評価に大きなばらつきがあった。本研究は、新たに作成した堆積モデルを海洋大循環モデルと組み合わせることで、その寄与の定量的な評価を試みた。炭酸塩補償過程による氷期の大気中 pCO2 に対する寄与は、南大洋の成層強化を考慮することによりさらに拡大することがわかった。氷期の南大洋深層の高塩化で、南極周辺で水塊が古くなり、深層全体の溶存無機炭素が増加すると、深層水における炭酸塩の飽和度が低下する。その結果、堆積層に埋没する炭酸塩が減少するため、炭酸塩の河川流入との間に不均衡が生じ、海洋全体のアルカリ度が上昇した。それは、大気中 pCO2 のより大きな低下をもたらしていた。炭酸塩補償過程は、南大洋における成層の強化により効果的にはたらき、これらの過程を考慮することで、氷期の大気中 pCO2 の低下は約 73 ppm にまで達し、過去の OGCM 研究で得られた結果と比較して大きな応答が得られた。