日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS10] 古気候・古海洋変動

2018年5月23日(水) 13:45 〜 15:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:岡崎 裕典(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、磯辺 篤彦(九州大学応用力学研究所)、北村 晃寿(静岡大学理学部地球科学教室、共同)、佐野 雅規(早稲田大学人間科学学術院)、長谷川 精(高知大学理工学部)、岡 顕(東京大学大気海洋研究所)、加 三千宣(愛媛大学沿岸環境科学研究センター)

[MIS10-P22] 樹木年輪の酸素同位体比による韓国南部過去152年間の夏季降水量復元

*佐野 雅規1Seo Jeong-Wook2李 貞3對馬 あかね3中塚 武3 (1.早稲田大学人間科学学術院、2.忠北大学、3.総合地球環境学研究所)

キーワード:東アジアモンスーン、年輪酸素同位体比、韓国

東アジアの温暖湿潤地では、気候に加え生態学的な要因が樹木の成長に影響を及ぼすため、年輪幅から過去の気候を復元することが困難であった。他方、樹木年輪のセルロースに含まれる酸素同位体比は、生態学的な影響を受けず、相対湿度と降水の酸素同位体比によって決まることが分かっている。近年の測定技術の向上により、モンスーンアジアの各地で取得した年輪サンプルを利用して、過去の水環境を高精度で復元する研究が急速に進められている。本研究では、韓国南部に自生する針葉樹を対象として、その年輪の酸素同位体比から当地の夏季降水量を復元するとともに、既存の古気候データも利用して、夏季モンスーンの時空間変動特性を理解することを目的とした。

韓国南部のJiri山で2016年に収集したモミ(Abies koreana)、マツ(Pinus koraiensis)、イチイ(Taxus cuspidata)のコアサンプルを分析に用いた。まず、年輪幅の広狭変動のパターンを個体間で比較して年輪年代を確定させたうえで、樹種毎に4個体を選別して、樹軸方向に1mm厚の薄板を作成した。次に、薄板の形状を保ったまま化学処理によってセルロースを単離したうえで、顕微鏡を用いて1年輪ずつ精密ナイフで切り分け、熱分解式の元素分析装置を連結させた同位体比質量分析計で年輪セルロースの酸素同位体比を測定した。なお、モミとマツのサンプルについては過去50年間を、イチイについては過去152年間を分析対象とした。

得られた年輪酸素同位体比の時系列は、その経年変動パターンが同一樹種の個体間で互いに良く同調していた。また、時系列を樹種毎に平均して構築した3種のクロノロジーもまた、その経年変動パターンが樹種間で良く一致しており、年輪の酸素同位体比は樹種に依存しないことが分かった。次に、気象観測データとの比較から、1)主に6-7月の降水量が酸素同位体比の変動に寄与していること、2)西日本の降水量とも有意な相関を示すことが分かった。日本産の年輪データと比較したところ、韓国産のクロノロジーは、産地の一番近い屋久島のデータとは変動が一致しなかったものの、同じ緯度帯にある立山や木曽のデータと有意な相関を示したほか、相関の強さは、日本海側の立山で一番高くなることが分かった。梅雨前線の活動によって、南北方向よりも東西方向で年輪酸素同位体比の変動が同調していると考えられる。