日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS10] 古気候・古海洋変動

2018年5月23日(水) 13:45 〜 15:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:岡崎 裕典(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、磯辺 篤彦(九州大学応用力学研究所)、北村 晃寿(静岡大学理学部地球科学教室、共同)、佐野 雅規(早稲田大学人間科学学術院)、長谷川 精(高知大学理工学部)、岡 顕(東京大学大気海洋研究所)、加 三千宣(愛媛大学沿岸環境科学研究センター)

[MIS10-P28] 海洋酸性化に対するウニ(Mesocentrotus nudus, Strongylocentrotus intermedius)の成長と棘の骨格組成の変化

*宮井 里紀1黒田 剛志1村岡 大祐2高見 秀輝2鈴木 淳3野尻 幸宏4井上 麻夕里1 (1.岡山大学大学院自然科学研究科、2.東北区水産研究所、3.産業技術総合研究所、4.弘前大学)

キーワード:ウニ、微量元素、海洋酸性化

産業革命以降、大気に放出された人為起源の二酸化炭素(CO2)が海水に溶解することで海洋酸性化が進み、現在多くの海洋生態系への影響が懸念されている。中でも炭酸カルシウム(CaCO3)の殻や骨格を形成する生物にとっては、炭酸イオン濃度が減少するため骨格形成が難しくなり悪影響が及ぶと予測される。しかし、その影響評価がなされていない生物も多い。そこで、本研究では方解石を棘や殻の主成分とするキタムラサキウニ(Mesocentrotus nudus)とエゾバフンウニ(Strongylocentrotus intermedius)を対象とし、酸性化の影響について、棘の化学組成や構造の変化から考察する。
本実験で用いたウニは、以下の5つの二酸化炭素分圧(pCO2, µatm)条件で飼育したものである。(1)2000, (2)1000, (3)700, (4)350 (原海水), (5)250(アルカリ添加区)。各濃度区でウニ5~7個体ずつを個別の飼育瓶に入れ、6ヶ月以上の長期飼育を実施した。殻長と体重は毎月計測を行い、同時に微量元素測定用の棘の採取も行った。その後、棘に含まれるMg, Sr, Caを誘導プラズマ発光分光分析装置(ICP-OES)で測定した。また、走査電子顕微鏡(SEM)を用いて棘の表面および断面構造の観察も行った。
エゾバフンウニ、キタムラサキウニともに、その殻長や体重は、pCO2が高い環境下では成長が減少する傾向が見られた。また両種の棘のMg/Ca比は、高い酸性化条件になるにつれて相対的に高くなっていく傾向があり、特に2000 µatmではその他の飼育区と比べて高い値を示した。種ごとに棘のMg/Ca比を比較すると、キタムラサキウニはエゾバフンウニと比べて平均で約1.4倍高い値を示した。Mg含有量が多い方解石は溶解度も高くなるので、棘のMg/Ca比測定の結果から、キタムラサキウニの棘の方が、今後の海洋酸性化に対して石灰化が起きにくくなることが示唆される。SEMによる棘の観察では、コントロール区である350 µatmで成長した棘の表面は規則正しい筋状の凹凸が見られたが、2000 µatmでは表面に突起が出ていて、荒い構造となっていた。また、ウニの棘の断面は無数の穴が空いたステレオム構造をしていて、250, 350, 700 µatmではおおむねその様子が確認できたが、高pCO2環境下(1000, 2000 µatm)では、ステレオム構造内の隙間が埋められていることが観察された。このことから、高いpCO2環境下では棘の微細構造に異常が生じることが示された。