日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS10] 古気候・古海洋変動

2018年5月23日(水) 13:45 〜 15:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:岡崎 裕典(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、磯辺 篤彦(九州大学応用力学研究所)、北村 晃寿(静岡大学理学部地球科学教室、共同)、佐野 雅規(早稲田大学人間科学学術院)、長谷川 精(高知大学理工学部)、岡 顕(東京大学大気海洋研究所)、加 三千宣(愛媛大学沿岸環境科学研究センター)

[MIS10-P34] 水月湖に記録された古環境指標としての堆積物の擾乱強度

★招待講演

*山田 圭太郎1竹村 恵二2SG14project members . (1.京都大学大学院地球惑星科学専攻、2.京都大学大学院附属地球熱学研究施設)

キーワード:水月湖、年縞、生物擾乱、画像解析

堆積物や氷床,鍾乳石などの地質記録は過去の地球表層プロセスの重要な情報源である.これらのアーカイブは古環境変化を物理的,化学的,生物的なシグナルとして記録している.特に,堆積物は緯度や後背地の地質に制約されない,過去と現在のち地球プロセスを結ぶ重要なアーカイブである.しかしながら,実際の堆積物は堆積当時の状態だけでなく,その後の生物擾乱などの作用によってさらなる影響を受けていることが多い.一般的に,生物擾乱強度は溶存酸素や温度などの堆積場の古環境の影響を受ける.このことは堆積物の擾乱強度は古環境の重要な情報源になりうることを意味している.本研究では,福井県水月湖の年縞堆積物を例に,その堆積構造から擾乱強度を復元した.

 水月湖は福井県南部に位置する三方五湖の一つで,大きさが3 km四方,最大水深が34 mの湖である.水月湖には数多くのイベント層とともに約7万年に渡る連続的な年縞堆積物が保存されている.その種類や明瞭さは時代によって様々である.これまで2つのロングコア(SG93, SG06)が掘削されており,約800点の放射性炭素年代と緻密な年縞の計数から,極めて高精度な年代モデルが作成されている.その後2014年には福井県によって,SG06コアの約320 m東の地点で新たなコア(SG14)が掘削された.SG14コアは高精度に年代が決定されているSG06コアと精密に対比されており,それに基づいて年代が決定されている.

 堆積物の擾乱強度は相対な量であり,初期状態の推定が重要な鍵となってくる.本研究では,高解像度コア写真を用いた画像解析によって,年縞構造から堆積物の相対的な擾乱強度を復元した.水月湖の年縞堆積物は酸化が急速に進むため,掘削したコアはその場で半割し,整形後に明るさをコントロールした人工光源下の暗室で写真撮影を行った.

 葉理構造の擾乱過程は線分の分割過程と見なすことができる.線分がランダムな点で分割されるとき,その線分の長さ分布はパラメータlambdaの指数分布に従う.ここでlambdaは平均線分長の逆数で,擾乱強度の指標と見なすことができる.本研究では,画像から年縞の葉理構造の長さを測定し,そこから擾乱強度の指標としてlambdaの値を計算した.

 復元されたlambdaは層相と同期的で,年縞の層相を表現する極めてよい指標であることを意味している.lambdaの変動は,数万年スケールの変動ではNGRIPと同期的で,特に15-35 kaではその傾向は顕著である.また数百~数千年スケールの変動では,NGRIPのピークと一致する点も多い.これらの結果はlambdaは古気候変化を反映しているものと考えられる.結果として,復元されたlambda値は層相指標としてだけでなく,古環境の良い商足りうると考えられる.