日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS14] 生物地球化学

2018年5月23日(水) 09:00 〜 10:30 101 (幕張メッセ国際会議場 1F)

コンビーナ:木庭 啓介(京都大学生態学研究センター)、柴田 英昭(北海道大学北方生物圏フィールド科学センター)、大河内 直彦(海洋研究開発機構、共同)、山下 洋平(北海道大学 大学院地球環境科学研究院)、座長:山下 洋平岩田 智也大河内 直彦

09:30 〜 09:45

[MIS14-03] 北太平洋亜熱帯域における亜表層クロロフィル極大付近の窒素循環に及ぼす鉄の影響

*武田 重信1藤田 裕也1 (1.長崎大学大学院水産・環境科学総合研究科)

キーワード:亜硝酸塩極大、植物プランクトン、鉄

海洋における窒素循環の中間生成物である亜硝酸塩は、一般に海水中濃度が低くなっているが、亜熱帯域の亜表層クロロフィル極大(SCM)の下部には、亜硝酸塩が高濃度で存在する層がみられる。この亜硝酸塩極大の形成機構として、微生物によるアンモニア酸化と亜硝酸塩酸化の不均衡、植物プランクトンからの亜硝酸塩放出の二つが考えられ、後者には光や鉄の不足が関与している可能性が指摘されている。本研究では、北太平洋亜熱帯域のSCM付近における亜硝酸塩極大の形成状況を把握するとともに、現場のプランクトン群集を用いた船上培養実験を行い、亜硝酸塩の蓄積に関わる窒素循環に及ぼす鉄の影響を明らかにすることを目的とした。
2017年9~10月の北太平洋亜熱帯域での白鳳丸航海において、23~24N線に沿った170 ° Wから137 ° Eまでの7測点で、SCMを含む計11層の高分解能(5 m間隔)鉛直採水を行い、栄養塩およびクロロフィルа等を測定した。東部(170 ° W)と西部(160 ° E)の2測点では、SCMから採取した海水を用いて、植物プランクトン窒素代謝への鉄と光の影響を調べるため鉄添加培養実験と、微生物硝化を調べるための窒素添加培養実験を実施した。鉄添加培養実験では、少量の硝酸塩とリン酸塩を加えて予備培養した後、鉄無添加+弱光区、鉄無添加+強光区、鉄添加+弱光区、鉄添加+強光区の4つの実験区を設定し、植物プランクトンの増殖応答ならびに栄養塩濃度の変化を調べた。窒素添加培養実験では、フィルターで植物プランクトンを除去した後、アンモニウム塩もしくは亜硝酸塩を添加して培養し、無機態窒素の濃度変化を調べた。
23~24 ° N度線に沿った断面観測では、 SCMが有光層深度よりやや深い0.3~0.7 %光量層に認められ、SCMと硝酸塩躍層の深度はほぼ一致していた。 亜硝酸塩極大はSCMの5~25 m下層にみられた。鉄添加培養実験では、東部と西部ともに鉄添加区のクロロフィルа濃度が鉄無添加区と比べて増加したことから、現場の植物プランクトン群集は鉄制限状態にあったと判断される。亜硝酸塩極大とSCMが近接していた東部では、鉄無添加+弱光区における亜硝酸塩濃度の増加が、他の実験区の3倍以上を示し、窒素添加培養実験において亜硝酸塩の蓄積はみられなかったことから、鉄および光制限を受けていた植物プランクトンからの亜硝酸塩放出が、亜硝酸塩極大の主な形成要因となっていた可能性が高い。亜硝酸塩極大とSCMが離れていた西部では、鉄無添加+弱光区で亜硝酸塩濃度がわずかに増加したものの、いずれの実験区においても硝酸塩および亜硝酸塩の消費傾向が強く表れていたことから、東部海域と比べて植物プランクトンの窒素代謝への鉄制限の影響が弱くなっていたと推察される。