日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS14] 生物地球化学

2018年5月23日(水) 09:00 〜 10:30 101 (幕張メッセ国際会議場 1F)

コンビーナ:木庭 啓介(京都大学生態学研究センター)、柴田 英昭(北海道大学北方生物圏フィールド科学センター)、大河内 直彦(海洋研究開発機構、共同)、山下 洋平(北海道大学 大学院地球環境科学研究院)、座長:山下 洋平岩田 智也大河内 直彦

10:00 〜 10:15

[MIS14-05] 燃焼由来エアロゾル中の低い鉄安定同位体比:気化による同位体分別過程の検証

*栗栖 美菜子1坂田 昂平1,2足立 光司3高橋 嘉夫1 (1.東京大学大学院理学系研究科、2.国立環境研究所、3.気象研究所 )

キーワード:鉄安定同位体比、エアロゾル中人為起源鉄、同位体分別

燃焼によって大気中に排出される人為起源鉄(Fe)は、水に対する溶解性が高いことから、鉄により生物一次生産が制限されている海域において溶存鉄の重要な供給源となる可能性がある(Sedwick et al., 2009; Takahashi et al., 2013)。一方で、黒色の酸化鉄粒子は大気中で正の放射強制力を持ち、温暖化に繋がる可能性もある(Moteki et al., 2017)。そのため、人為起源鉄の発生源、大気中での化学種や溶解性、環境中での挙動を知ることは重要な課題であり、多数の研究が行われてきた。
安定同位体比は反応過程や起源の違いを反映するため、生成プロセスや環境中での挙動を理解するために有効な情報のひとつである。しかし、エアロゾル中の人為起源鉄の鉄安定同位体比(δ56Fe (‰) = (56Fe/54Fe)試料/ (56Fe/54Fe)IRMM-014 – 1)に関する研究例は少ない(Flament et al., 2008; Mead et al., 2014)。筆者らは、東広島において粒径分画して採取したエアロゾルの分析から、微細粒子に含まれる人為起源鉄は粗大粒子中の自然起源鉄よりも4‰程度低いδ56Feを持つことを明らかにした(Kurisu et al., 2016)。低い同位体比を持つ理由として高温燃焼での気化に伴う同位体分別が考えられた。本研究では、人為起源鉄の生成時の同位体分別の過程を検証し、化学種の観点も含めてその詳細な生成プロセスを明らかにすることを目的とした。
排出源が限定される試料として千葉県の製鉄所付近で粒径7分画して採取したエアロゾルを用いた。同位体分析は多重検出器型ICP質量分析計(MC-ICP-MS; Neptune plus)、化学種解析はX線吸収微細構造(XAFS)法を用いて行った。また、形態分析や元素分析を走査型/透過型電子顕微鏡(SEM、TEM)を用いて行った。
大気中鉄濃度は、製鉄所方向からの風向きの頻度が高い期間に全ての粒径において高くなった。この間は濃縮係数([Fe/Al]エアロゾル/[Fe/Al]地殻)も高く、製鉄所由来の鉄の影響が大きいことが分かった。
XAFS法による化学種解析、また個別粒子の分析結果から、粗大粒子中にはFe(II) Oが存在し、スラグに似た組成を持つ粒子が多く、製鉄過程で発生した一次粒子を含んでいることが分かった。一方、微小粒子にはFe(II)Oは存在せず、鉄水酸化物や磁鉄鉱がより多く存在することが分かった。また、微細な鉄含有粒子の多くは球状であることから、高温の燃焼過程を経て生成したことが示唆された。
鉄同位体分析の結果、粗大粒子(δ56Fe = -0.15 ~ +0.05‰)は鉄鉱石(δ56Fe= -1 ~ +1‰; Johnson et al., 2008)や大陸地殻(0.00‰; Beard et al., 2003)と同様の値を示したが、微小粒子(粒径: 0.39-0.69 μm)は粗大粒子に対してはるかに低い値(δ56Fe = -1.43 ~ -4.07‰)を示し、燃焼過程において鉄が気化・凝縮することで同位体分別が起きていることが示唆された。この分別はレイリーの蒸留モデルで表すことができ、分別の程度は気化時の温度や化学種等によって左右されると考えられる。人為起源鉄の同位体比は他の天然の値と比べても低いため、都市大気や、海洋表層において寄与を知るためのトレーサーとして用いることができると期待される。