日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS14] 生物地球化学

2018年5月23日(水) 10:45 〜 12:15 101 (幕張メッセ国際会議場 1F)

コンビーナ:木庭 啓介(京都大学生態学研究センター)、柴田 英昭(北海道大学北方生物圏フィールド科学センター)、大河内 直彦(海洋研究開発機構、共同)、山下 洋平(北海道大学 大学院地球環境科学研究院)、座長:仁科 一哉柴田 英昭(北海道大学北方生物圏フィールド科学センター)

11:30 〜 11:45

[MIS14-10] 酸素同位体比とK-Ar年代を利用した火山灰-黄砂混合比の推定

*中尾 淳1寺島 真惟1エリオット クロフォード2ワンプラー マリオン2田中 亮吏3矢内 純太1 (1.京都府立大学生命環境科学研究科、2.ジョージア州立大学地球科学科、3.岡山大学惑星物質研究所)

キーワード:黄砂、K-Ar 年代、酸素の安定同位体比、火山灰

【背景・目的】土壌生成に必要な無機素材は,足元に存在する岩石や堆積物だけではない.むしろ,造山運動が活発な弧状列島であり偏西風の影響を強く受ける日本では,火山灰や黄砂といった飛来性の細粒子が重要な役割を果たしている.火山灰を主たる無機素材として生成した土壌がリン酸固定や炭素蓄積などの特徴を発現するのとは対照的に,黄砂由来の土壌には目立った物理・化学的な特徴が無い.さらに単位面積あたりの年間降下量が数 g m-2と僅かであるため,黄砂が日本の土壌生成に及ぼす影響は火山灰と比べて判別困難であり,かつその寄与を同定することの意義は必ずしも大きいものでは無かった.しかし福島原発事故を契機に,その重要性が見直されようとしている.放射性セシウムを静電気的に強く吸着し,作物への移行を抑制することのできる鉱物,雲母系の層状ケイ酸塩は,火山灰にはほとんど存在しない一方で,黄砂には主成分として含まれているためである.そのため火山灰と黄砂の混合比は,その土壌で生産された作物への放射性セシウム移行リスクを規定する主要因だと考えられるが,これを実際に調べた研究は存在しなかった.そこで本研究では,安定同位体比と放射年代を指紋に用いた火山灰-黄砂混合比の推定を試みた.

【材料・方法】後期更新世に流紋岩~デイサイト質な火山灰の噴火が活発であった三瓶山から北西約20kmの島根県雲南市掛合町の露頭において,堆積年代が判明している4つのテフラ鍵層(三瓶池田;0.04 Ma,三瓶砂原;0.05 Ma,三瓶雲南;0.07 Ma,三瓶木次;0.11 Ma)を含む厚さ約3 mの累積層を現場観察に基づいて15層に区分し,各層から土壌を採取した.三瓶木次層を除く全ての土壌に対して風乾・有機物除去を行った後に篩別・沈降法を行い,2-20μm粒子を分画した.この2-20μm粒子から化学処理にて単離した1~2 mgのSiO2について,レーザー誘導フッ素化法により酸素を遊離させ,質量分析装置を用いて18O/16O比を求め,標準海水18O/16O比との相対値(δ18O)を算出した.同じ土壌から分画した約15 mgの2-20μm粒子を混酸で分解し,分解液中のK濃度を原子吸光法により求めた.さらに,約30 mgの2-20μm粒子を銅箔に封入し,1060℃以上に加熱した後に試料から放出される40Ar量を,38Arスパイクを用いた質量分析により求めた.

【結果・考察】単離したSiO2のδ18O値は8.64~15.14‰であった.最小値は流紋岩~デイサイト中のSiO2のδ18O値(6~9‰)の範囲内であり,最大値は黄砂そのものの値(14~16‰)に近づいた.一方K-Ar年代は33~400 Maであり,全層で火山灰の降下年代よりもはるかに古い年代が得られた.ただし極端に古い値を示した1層を除けば,先行研究で得られた黄砂のK-Ar年代(180-200 Ma)と同じか,やや新しい年代を示した.さらにδ18O値とK-Ar年代は直線的な比例関係を示し,それぞれをy,xにおいた直線回帰式はy = 0.034x + 7.93 (R2 = 0.88)となった.仮に本研究で用いた土壌が,固有のδ18O値とK-Ar年代を持つ2成分,すなわち火山灰と黄砂の混合系である場合,2-20μm粒子中の黄砂の割合は15~95%と幅広い値を取ることが推定された.