[MIS14-P03] 富士山麓森林におけるオゾンフラックスの観測
キーワード:オゾン、森林生態系、フラックス
【はじめに】森林生態系における微量気体の吸収・放出は炭素循環や気候変動に直接的・間接的な影響を及ぼす(Ollinger et al., 2002)。森林生態系内部の反応性窒素ガスおよびオゾンの吸収・沈着・放出量とその時間変動の要因を知るには、フラックスおよび森林内部における濃度変化の日変化・季節変化を明らかにすることが有用である。本発表では、森林生態系におけるオゾンフラックスの通年観測を、傾度法を用いて富士山麓森林にて行った結果を報告する。またより計測精度の高い渦相関法を用いたフラックス計測を目的に、高時間分解能にてオゾン濃度を計測可能な、装置の開発・改良を行った結果について報告する。
【方法】富士吉田アカマツ林微気象観測タワー(FJY)にて、CO2濃度とO3濃度を2016年1月から2017年12月にかけて2年間観測し、物質の濃度勾配より輸送量を計測する傾度法を用いてこれら微量気体のフラックスを計測した。微気象観測タワーと樹冠の高さはそれぞれ32 mと24 mである。O3とCO2の計測には、それぞれ紫外吸収分析装置(49i, Thermo Scientific)と赤外吸収分析装置(Li-820, Li-cor)を用いた。大気サンプル口は、アカマツ林の樹冠上である26 mと34 mに設置し、各高度の大気をPFAチューブで地上の分析装置まで吸引しバルブを用いて交互に各5分間計測を実施した。同時に高度27.2 mに設置したクローズトパス非分散型赤外線吸収分析装置(LI-6262, Li-cor)により、CO2フラックスを渦相関法により求め(森林総合研究所CO2フラックス観測データ)、傾度法で求めたCO2フラックスと比較した。オゾンの高時間分解計測の検討には、O3にNOを添加して励起状態のNO2を生成し、基底状態のNO2に戻る際に発する光を検出することでO3濃度を求める化学発光分析法(名古屋大学・自作)を用いた。標準試料を用いてNOガスと外気流量の最適条件を検討し、最適化した条件で(2017年2月12日~17日の5日間)上野原キャンパスにて実大気のテスト計測を行った。市販の紫外吸収分析装置(島津社、UVAD-1000A)の計測結果と比較した。
【結果・考察】2017年1月~2017年12月の日中積算CO2フラックス(9:00-16:00)は、傾度法と渦相関法によりそれぞれ-0.14±0.12 mol m-2 d-1、-0.21±0.16 mol m-2 d-1(±の後ろの数値は観測値の標準偏差)と得た。傾度法で得られた日中積算CO2フラックスは渦相関法で得られた値と、エラーバーの範囲にて一致した。2016年、2017年のO3濃度は5月に最大となる季節変化を示した。一方日中積算O3沈着フラックス(9:00-16:00)は6月~7月に最大となる季節変化を示し、2016年2017年ともにオゾン濃度とオゾン沈着フラックスのピーク時期にずれがあることが明らかとなった。化学発光法を用いたオゾン検出のための流量は、NOガス(10 % NO/N2)50 sccm、外気500 sccmが最適であった。このときの検出下限は、0.34 ppb s-1であった。市販の分析装置の検出下限は1.0 ppb min-1であり、時間分解能および感度が市販の分析装置に比べて優位にあることが分かった。改良した分析装置を用いた実大気の観測結果は、市販の分析装置、および環境省大気汚染物質広域監視システムの観測結果とよく一致した。化学発光法による分析装置が正しく稼働していることを確認した。
参考文献 Ollinger et al., 2002, Global Change Biology 8, 545-562.
【方法】富士吉田アカマツ林微気象観測タワー(FJY)にて、CO2濃度とO3濃度を2016年1月から2017年12月にかけて2年間観測し、物質の濃度勾配より輸送量を計測する傾度法を用いてこれら微量気体のフラックスを計測した。微気象観測タワーと樹冠の高さはそれぞれ32 mと24 mである。O3とCO2の計測には、それぞれ紫外吸収分析装置(49i, Thermo Scientific)と赤外吸収分析装置(Li-820, Li-cor)を用いた。大気サンプル口は、アカマツ林の樹冠上である26 mと34 mに設置し、各高度の大気をPFAチューブで地上の分析装置まで吸引しバルブを用いて交互に各5分間計測を実施した。同時に高度27.2 mに設置したクローズトパス非分散型赤外線吸収分析装置(LI-6262, Li-cor)により、CO2フラックスを渦相関法により求め(森林総合研究所CO2フラックス観測データ)、傾度法で求めたCO2フラックスと比較した。オゾンの高時間分解計測の検討には、O3にNOを添加して励起状態のNO2を生成し、基底状態のNO2に戻る際に発する光を検出することでO3濃度を求める化学発光分析法(名古屋大学・自作)を用いた。標準試料を用いてNOガスと外気流量の最適条件を検討し、最適化した条件で(2017年2月12日~17日の5日間)上野原キャンパスにて実大気のテスト計測を行った。市販の紫外吸収分析装置(島津社、UVAD-1000A)の計測結果と比較した。
【結果・考察】2017年1月~2017年12月の日中積算CO2フラックス(9:00-16:00)は、傾度法と渦相関法によりそれぞれ-0.14±0.12 mol m-2 d-1、-0.21±0.16 mol m-2 d-1(±の後ろの数値は観測値の標準偏差)と得た。傾度法で得られた日中積算CO2フラックスは渦相関法で得られた値と、エラーバーの範囲にて一致した。2016年、2017年のO3濃度は5月に最大となる季節変化を示した。一方日中積算O3沈着フラックス(9:00-16:00)は6月~7月に最大となる季節変化を示し、2016年2017年ともにオゾン濃度とオゾン沈着フラックスのピーク時期にずれがあることが明らかとなった。化学発光法を用いたオゾン検出のための流量は、NOガス(10 % NO/N2)50 sccm、外気500 sccmが最適であった。このときの検出下限は、0.34 ppb s-1であった。市販の分析装置の検出下限は1.0 ppb min-1であり、時間分解能および感度が市販の分析装置に比べて優位にあることが分かった。改良した分析装置を用いた実大気の観測結果は、市販の分析装置、および環境省大気汚染物質広域監視システムの観測結果とよく一致した。化学発光法による分析装置が正しく稼働していることを確認した。
参考文献 Ollinger et al., 2002, Global Change Biology 8, 545-562.