日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS18] 水惑星学

2018年5月22日(火) 09:00 〜 10:30 105 (幕張メッセ国際会議場 1F)

コンビーナ:関根 康人(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、臼井 寛裕(東京工業大学地球生命研究所)、玄田 英典(東京工業大学 地球生命研究所、共同)、渋谷 岳造(海洋研究開発機構)、座長:関根 康人(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、臼井 寛裕福士 圭介

09:45 〜 10:00

[MIS18-04] 海惑星気候の太陽定数依存性に関する数値的研究: 海洋熱容量と海洋熱輸送の効果

*河合 佑太1,2高橋 芳幸1石渡 正樹5西澤 誠也2竹広 真一4中島 健介3富田 浩文2林 祥介1,6 (1.神戸大学理学研究科、2.理化学研究所計算科学研究機構、3.九州大学、4.京都大学、5.北海道大学、6.惑星科学研究センター)

キーワード:大気海洋海氷結合モデル、海惑星気候の太陽定数依存性、氷・アルベドフィードバック

1. イントロダクション
系外惑星で実現される多様な気候の理解を深めるために, 我々は, 全球が海で覆われた惑星(海惑星)を中心とする理想化した惑星の気候を調べてきた. 例えば, Ishiwatari et al. (2007) (以後INTH07)では, 大気大循環モデルを用いて海惑星の気候の太陽定数依存性を調べたが, そこでは海洋大循環は取り扱わなかった. 近年, 惑星気候の分野でも海洋大循環の効果が議論されるようになってきた. 特に, Rose (2015) は, 大気海洋海氷結合モデルを用いて海惑星気候の太陽定数依存性を調べ, 海洋熱輸送による新たな安定な気候状態の出現を示唆した. 我々もまた, 惑星気候に対する海洋の役割の理解を深めるために, INTH07の発展として, 大気海洋海氷結合モデルを用いた海惑星気候の太陽定数増減実験を進めている. 最近の成果としては, INTH07 大気設定のもとで海洋大循環を陽に考慮した気候レジーム図を得た. また, 海洋の役割を明らかにするため, swamp/60 m slab ocean実験も行ったが, 60 m slab ocean実験の部分凍結解は初期値依存性が非常に大きく, 海洋熱輸送が氷線に与える影響を議論することは困難だった. その後検証を進めると, 後述する表面アルベドの計算の工夫により問題を軽減できることが分かった. 本発表では, この表面アルベドの計算方法を用いた海惑星気候の太陽定数増減実験の結果を報告する.

2. モデルと実験設定
実験には我々が開発を進めている大気海洋海氷結合モデルを用いる. 大気モデルは惑星大気大循環モデルDCPAMである. 力学過程では, 3次元プリミティブ方程式系が解かれる. また, INTH07と同様に, Nakajima et al. (1992)の灰色大気放射スキームと Manabe et al. (1965)の湿潤対流調節スキームと大規模凝結スキーム, Mellor and Yamada level 2 スキームを用いる. 海洋海氷モデルは軸対称モデルである. 海洋の力学過程では, 静力学ブジネスク方程式系が解かれる. 海洋の中規模渦や対流による混合は, Gent and McWilliams (1990)やMarotzke (1991)のスキームを用いる. 海氷モデルは Winton (2000) に基づく鉛直3層熱力学モデルであり, 海氷輸送は水平拡散で表現する. 表面アルベドの温度依存性は階段関数(表面温度が-10度以下で0.5, それより高い場合は 0)で与えられる. ただし, 各格子点の表面アルベドの値には, 格子セル内の表面温度分布を線形関数で表現したときの表面アルベドのセル平均値を用いる. 海洋の扱いは, swamp/60 m slab/dynamic oceanの三種類を考える. 調べる太陽定数(S)の範囲は約1150~1550 W/m2である. 大気モデルの解像度は, 64x32x16 (S≦1450 W/m2 )または64x32x32 (S>1450 W/m2)に設定する. 海洋モデルの解像度は南北64点・鉛直60層, 海氷モデルの解像度は南北64点である. 初期値は基本的に280 K等温の静止した大気海洋であるが, 部分凍結解等を初期値にした実験も行う. 時間積分は, swamp/slab ocean 実験で約300年間, dynamic ocean実験では周期的同期結合により約1万年間行う.

3. 計算結果
前回の実験では部分凍結解の初期値依存性が大きな問題であったが, 原因はHeld and Suarez (1974) での議論と根源的に同じであり, 表面アルベドの不連続性とモデルの低解像度に起因するものであることが分かった. 表面アルベドの計算を工夫した場合は, 部分凍結解の初期値依存性が大幅に小さくなり, これまでは困難であった各海洋の取り扱い間で気候状態の比較が可能になってきた. 部分凍結解のブランチにおいて大部分の部分凍結解の氷線緯度は, 海洋熱輸送や海洋熱容量の有無にあまり依存しない. この結果から, 本実験設定では, 海洋の取り扱いの違いが全球平均的なエネルギー収支に本質的な影響を及ぼしていないことが分かる. 一方で, 大気場自体は, 海洋の取り扱いにより違いが生じている. 例えば, S=1380 W/m2 の時には, 大気の子午面循環強度は, 約3倍異なり, slab oceanで最も強く, dynamic ocean で最も弱い. 対応して, dynamic ocean に対する中低緯度域の大気の南北熱輸送は, swamp/slab ocean の約 2/3 である. 海洋の取り扱いにが変わっても全球的なエネルギー収支には影響がほとんど無い理由については, 大気のエネルギー方程式の各項の寄与やその緯度分布を解析することにより今後明らかにする予定である.