13:45 〜 14:00
[MIS20-01] 秩父帯北帯ジュラ紀付加コンプレックス中の叶山石灰岩に見られる石炭紀末パンサラッサ海の造礁生物
キーワード:パンサラッサ海、海山、石灰岩、造礁生物、石炭系
西南日本内帯の秋吉帯に分布するパンサラッサ海起源の海山型石灰岩には,石炭紀最後期–ペルム紀再前期に北方型要素を伴う造礁生物群集が記録されている.Nakazawa et al. (2011) は,それをもとにパンサラッサ海の熱帯–亜寒帯地域でのゴンドワナ氷床の発達に伴った寒冷化の影響を議論した.しかしながら,この群集が当時のパンサラッサ海の中でどれくらいの地理的な広がりを持っていたのかは明らかにされてこなかった.本研究では,ジュラ紀付加体コンプレックス中に分布する叶山石灰岩において堆積相および生相を記載し,それをもとにパンサラッサ遠洋域における北方型群集の空間的な広がりを考察する.
叶山石灰岩は関東山地の秩父帯北帯ジュラ紀付加コンプレックスの蛇木ユニットに属しており(Kamikawa et al., 1997),蛇木ユニットの泥岩からは前期ジュラ紀の放散虫化石が報告されている(久田・岸田, 1987).叶山石灰岩からは後期石炭紀Moscovianから中期ペルム紀Wordianのフズリナ化石が産出しているが(例えば高岡, 1977),本研究で扱った叶山鉱山内のセクションからはDaixina sokensisや “Pseudofusulina” kumoasoanaなど概ね石炭紀末のGzhelianを示すフズリナ化石が得られている.また,叶山石灰岩南縁付近の泥岩中には玄武岩のブロックが含まれており,海洋島玄武岩と類似した全岩化学組成を示す.
叶山石灰岩は明灰色,塊状の石灰岩で,algal bafflestone(MF1),microbial bindstone(MF2),crinoidal packstone-rudstone(MF3),fusuline packstone(MF4),wackestone-mudstone(MF5),bioclastic grainstone(MF6),oolitic grainstone(MF7)の7種類の微岩相が識別された.生物による結合組織が観察されるMF1,MF2は,石灰藻AnthracoporellaやPalaeoaplysinaが生息時の姿勢を保った状態で保存されており,石灰質微生物であるArchaeolothoporellaやTubiphytesによって結合されている.生物骨格の間を埋める堆積物は,石灰泥のほか生砕物,ペロイドを含み,セメントが発達する空間も存在する.MF3–5は石灰泥を豊富に含む堆積物であり,ウミユリ骨片やフズリナを中心とした生砕物を含む.一方で,MF6とMF7は石灰泥を欠き淘汰の良い砂サイズの粒子の間にはセメントが発達する.
叶山石灰岩には外洋に面した礁斜面が崩壊・再堆積したことを示す巨大な角礫状のイントラクラストや混濁流による級化構造が存在しないことから,いずれの岩相も背礁環境の堆積物に相当すると考えられる.MF1–5は礁湖堆積物に相当し,MF1とMF2は礁湖にパッチ状に存在する石灰藻や微生物によるマウンドであると考えられる.一方で, MF6とMF7は,波浪の影響を受ける砂堆堆積物である.叶山石灰岩のMF1,MF2の産状から,AnthracoporellaおよびPalaeoaplysina等の石灰藻がバッフラー,ArchaeolithoplrellaやTubiphytesといった石灰質微生物がバインダーの役割を果たしていたであろう.これらの群集は秋吉石灰岩のPalaeoaplysina-microencruster群集(Nakazawa et al., 2011)と類似している.
石炭紀末から前期ジュラ紀にかけてのイザナギプレートの移動速度(Müller et al., 2016; Matthews et al., 2016)に基づくと,叶山石灰岩はパンサラッサ海を5,000 km以上移動してきたことになる.秋吉帯ペルム紀付加コンプレックスの泥岩の年代は中期–後期ペルム紀のWordianからWchapingian(260–270 Ma)であるとされており(Kanmera et al., 1990),秋吉石灰岩は石炭紀末から沈み込みまでの期間はわずか40万年程度であると推定できる.よって,石炭紀末には叶山石灰岩よりも沈み込み帯により近い場所に存在していたと推定される.本研究により,秋吉帯の海山起源石灰岩だけでなく,秋吉石灰岩と離れた位置に存在した叶山石灰岩からも Palaeoaplysinaから成る造礁生物が見られた.このことから,Palaeoaplysina-microencruster群集は石炭紀最後期からペルム紀再前期にかけてパンサラッサ海に広く分布した群集であったと考えることができる.
叶山石灰岩は関東山地の秩父帯北帯ジュラ紀付加コンプレックスの蛇木ユニットに属しており(Kamikawa et al., 1997),蛇木ユニットの泥岩からは前期ジュラ紀の放散虫化石が報告されている(久田・岸田, 1987).叶山石灰岩からは後期石炭紀Moscovianから中期ペルム紀Wordianのフズリナ化石が産出しているが(例えば高岡, 1977),本研究で扱った叶山鉱山内のセクションからはDaixina sokensisや “Pseudofusulina” kumoasoanaなど概ね石炭紀末のGzhelianを示すフズリナ化石が得られている.また,叶山石灰岩南縁付近の泥岩中には玄武岩のブロックが含まれており,海洋島玄武岩と類似した全岩化学組成を示す.
叶山石灰岩は明灰色,塊状の石灰岩で,algal bafflestone(MF1),microbial bindstone(MF2),crinoidal packstone-rudstone(MF3),fusuline packstone(MF4),wackestone-mudstone(MF5),bioclastic grainstone(MF6),oolitic grainstone(MF7)の7種類の微岩相が識別された.生物による結合組織が観察されるMF1,MF2は,石灰藻AnthracoporellaやPalaeoaplysinaが生息時の姿勢を保った状態で保存されており,石灰質微生物であるArchaeolothoporellaやTubiphytesによって結合されている.生物骨格の間を埋める堆積物は,石灰泥のほか生砕物,ペロイドを含み,セメントが発達する空間も存在する.MF3–5は石灰泥を豊富に含む堆積物であり,ウミユリ骨片やフズリナを中心とした生砕物を含む.一方で,MF6とMF7は石灰泥を欠き淘汰の良い砂サイズの粒子の間にはセメントが発達する.
叶山石灰岩には外洋に面した礁斜面が崩壊・再堆積したことを示す巨大な角礫状のイントラクラストや混濁流による級化構造が存在しないことから,いずれの岩相も背礁環境の堆積物に相当すると考えられる.MF1–5は礁湖堆積物に相当し,MF1とMF2は礁湖にパッチ状に存在する石灰藻や微生物によるマウンドであると考えられる.一方で, MF6とMF7は,波浪の影響を受ける砂堆堆積物である.叶山石灰岩のMF1,MF2の産状から,AnthracoporellaおよびPalaeoaplysina等の石灰藻がバッフラー,ArchaeolithoplrellaやTubiphytesといった石灰質微生物がバインダーの役割を果たしていたであろう.これらの群集は秋吉石灰岩のPalaeoaplysina-microencruster群集(Nakazawa et al., 2011)と類似している.
石炭紀末から前期ジュラ紀にかけてのイザナギプレートの移動速度(Müller et al., 2016; Matthews et al., 2016)に基づくと,叶山石灰岩はパンサラッサ海を5,000 km以上移動してきたことになる.秋吉帯ペルム紀付加コンプレックスの泥岩の年代は中期–後期ペルム紀のWordianからWchapingian(260–270 Ma)であるとされており(Kanmera et al., 1990),秋吉石灰岩は石炭紀末から沈み込みまでの期間はわずか40万年程度であると推定できる.よって,石炭紀末には叶山石灰岩よりも沈み込み帯により近い場所に存在していたと推定される.本研究により,秋吉帯の海山起源石灰岩だけでなく,秋吉石灰岩と離れた位置に存在した叶山石灰岩からも Palaeoaplysinaから成る造礁生物が見られた.このことから,Palaeoaplysina-microencruster群集は石炭紀最後期からペルム紀再前期にかけてパンサラッサ海に広く分布した群集であったと考えることができる.