日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-TT 計測技術・研究手法

[M-TT37] 地球化学の最前線:高度分析装置と地球惑星科学

2018年5月20日(日) 15:30 〜 17:00 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:角皆 潤(名古屋大学大学院環境学研究科)、高橋 嘉夫(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、飯塚 毅(東京大学)

[MTT37-P01] 対流圏オゾンの三酸素同位体組成の測定

*嶺野 雄登1李 一君1丁 懂1角皆 潤1中川 書子1中根 令以1佐藤 啓市2谷本 浩志3 (1.名古屋大学環境学研究科、2.アジア大気汚染研究センター、3.国立環境研究所)

キーワード:オゾン、三酸素同位体組成、対流圏

対流圏オゾン(O3)は、温室効果に寄与する他、人間の呼吸機能や植物の光合成活性に直接有害な影響を与える可能性がある。さらに、O3は強力な酸化性物質として、対流圏光化学反応系への影響力も大きい。対流圏O3の濃度は近年増加しており、対流圏O3の起源や挙動を正確に把握しておく必要がある。そこで本研究は、対流圏O3の酸素同位体組成、特に三酸素同位体異常(D17O)に着目し、これを定量化する手法を開発した。また確立した手法を用いて、対流圏O3のD17O値を含めた酸素同位体組成を定量した。

具体的には、大気試料をNaNO2含浸フィルタ-に通過させ、O3をNO2-と速やかに反応させてNO3-化し、生成したNO3-の酸素同位体組成を定量化することによってO3の酸素同位体組成を求めた。大気中のHNO3の影響を抑えるため、NaNO2含浸フィルタ-の前にナイロンフィルタ-を設置し、除去した。また、フィルタ-一枚でほぼ100%の捕集効率を達成するため、吸引流量は、0.5 L/min以下と低めに設定し、O3とNO2-の反応効率を上げた。フィルタ-上に捕集したNO3-は超純水に抽出した。一緒に抽出された未反応のNO2-はアジ化水素(N3H)を添加することで選択的にN2O化して除去した。その上で、Chemical conversion法を用いて、O3由来のO原子を持つNO3-をN2Oに変換し、さらに熱分解してO2化して同位体質量分析計(MAT252)に導入し、NO3-のD17O値を測定した。この値から、NO2-由来のO原子の酸素同位体組成を補正することで、O3の酸素同位体組成を求めた。なお本研究で求める酸素同位体組成は、O3分子中の全O原子の平均同位体組成(D17O(O3) bulk)ではなく、三原子分子であるO3の外側に位置するO原子の同位体組成(D17O(O3) terminal)である。

確立した本手法を用いて、実際の対流圏大気試料中のO3のD17O値を定量した。大気観測は名古屋大学環境共用館で2017年8月~12月の期間行った。その結果、O3のD17O値は+32‰~+39‰の範囲であり、過去に報告された対流圏オゾンのD17O値(35‰±4‰)と一致した。観測期間中のO3のD17O値は、8月に最も低く、11月に最も高い値であった。このD17O値の季節変化は、成層圏あるいは対流圏上部の低圧化で生成した高いD17O値を持つO3の流入の影響を反映している可能性が高い。一方、昼夜の違いについては、昼間は夜間に比べてO3濃度は有意に高く、D17O値は1‰程度高い値を示した。これは、夜間は逆転層の形成により地表面付近の高圧下で生成した低D17O値を持つO3が滞留しているのに対し、昼間は上層の低圧下で生成した高D17O値を持つO3が鉛直混合により下層へ運ばれたことを反映したものと考えられる。