[MTT38-P06] 小型観測気球のための準着陸誘導型ペイロードシステムの開発と評価
キーワード:成層圏、小型観測気球、観測システム
近年、高度30 km 程度の成層圏までのその場観測に用いる輸送機器として、小型観測気球を利用する事例が増加している。
直径約3 m 程度の小型ゴム気球に観測機器を搭載して浮上、目標高度で分離してパラシュートによって回収後、観測データを取得するという手法である。
小型ゴム気球を利用することで、安価で自由度が高く、搭載機器への物理的負担が小さい小規模実験が実現可能となる。
しかし、日本のように広大な平地が存在せず、市街地・山間部・海等が密集している地域では、追跡・回収が非常に困難であるため機材や人員が余計に必要となり、結果的に利点が失われてしまう。
そのため、人員や予算の少ない小規模プロジェクト(大学の単一研究室程度)においては観測気球の活用が進んでいない状況である。
その地理的な制約を解決して効率的な運用を実現するため、当研究室では、小型観測気球搭載準着陸誘導型ペイロードシステムの開発に取り組んできた。
運用方法は、分離後に、ペイロードが事前に登録した複数の安全地点の内から到達可能な着陸点を選択しつつ、サーボモーター制御のパラフォイルによって緩やかな着陸誘導制御を行うと言うものである。
最終目標として、高度 30 km から分離した場合に着陸点半径300 m 程度の精度で着陸可能であり、ペイロード質量500 g 、ペイロードサイズ60 mm 立方が搭載できる機体を製作し、飛行試験の評価を通して実運用に向けたシステム全体の完成を目指している。
当研究室では、2014年10月から2015年まで、基礎開発としてパラフォイルの基本特性(滑空比)の確認、制御アルゴリズムの検討、2016年2月までに試作機体の製作と低高度(30 m)飛行試験を行ってきた。
その結果、滑空比約3、旋回半径約15 mの簡易的な性能評価と機体の設計妥当性を確認した(1)。
一方で、搭載センサーの一部不足や飛行高度不足によって評価が簡易なものに留まったことや、着地時の回転運動に起因する機体破壊が確認された。
そこで、これまでの実験で確認した成果や課題を踏まえ、現在は、2018年5月実施予定の高高度(100 m 程度)の手動制御飛行試験に供する次期機体(図1)を製作している。
機体フレームは、国際民間航空条約に記載されている無人自由気球の軽気球の分類基準である総質量2 kg を設計目標とした。その基準を満たすため、部材にCFRPを利用し、強度を保ったまま軽量化を行い、外装はスタイロフォームとすることで断熱効果も期待できる構成とした。
更に、機能ごとに階層構造を構成することでメンテナンス性や将来のミッション機器等の拡張にも対応している。
課題であった着地時の回転運動による機体破壊に対しては、本体外部に展開脚機構を追加することにより着地安定性を改善し、機体および搭載機器へのダメージを抑制する。
フライトコントローラーには、従来の姿勢検知、位置情報取得の機能に加え、対地高度測定用レーザー距離計と機体の対気速度測定用超音波風向風速計を実装する。
次期機体を供する高高度飛行試験は、制御量に対する飛行動作の評価と、機体に搭載された各機能の動作確認、接地層における飛行性能評価を目的として行う。
400 m四方の実験地を確保し、次期機体をドローンに懸架、分離後に地上からコントローラーを使用して各種動作をロギングする。
現在、新型機体試作機のフレームが完成し、質量は1213 g (バッテリー・電装・保温外装無し)となっている。新規に追加した展開脚機構は3Dプリンターの寸法誤差と機構のバネの種類に修正点があるため、CADデータの再調整とバネの再選定をしていく。
また、次回の試験に向けて発泡スチロールの外装の製作を行う予定である。電装側は、現在までに要素の単独動作テスト、低温低圧環境下の動作確認による部品の選定、フライトコントローラとその周辺の基板設計が完了し、3月末までに実装、動作確認を予定している。
本発表では、手動飛行試験に供する機体の詳細、手動飛行試験の報告、将来の中層大気におけるマイクを用いたインフラサウンドセンシングの活用方法について発表する予定である。
参考文献
1) 平塚 丘将, 河野 紘基, 山本 真行, 超小型気球の回収に最適化された制御降下式ペイロードシステムの開発と飛行試験結果の評価, JAXA-RR, 2017
直径約3 m 程度の小型ゴム気球に観測機器を搭載して浮上、目標高度で分離してパラシュートによって回収後、観測データを取得するという手法である。
小型ゴム気球を利用することで、安価で自由度が高く、搭載機器への物理的負担が小さい小規模実験が実現可能となる。
しかし、日本のように広大な平地が存在せず、市街地・山間部・海等が密集している地域では、追跡・回収が非常に困難であるため機材や人員が余計に必要となり、結果的に利点が失われてしまう。
そのため、人員や予算の少ない小規模プロジェクト(大学の単一研究室程度)においては観測気球の活用が進んでいない状況である。
その地理的な制約を解決して効率的な運用を実現するため、当研究室では、小型観測気球搭載準着陸誘導型ペイロードシステムの開発に取り組んできた。
運用方法は、分離後に、ペイロードが事前に登録した複数の安全地点の内から到達可能な着陸点を選択しつつ、サーボモーター制御のパラフォイルによって緩やかな着陸誘導制御を行うと言うものである。
最終目標として、高度 30 km から分離した場合に着陸点半径300 m 程度の精度で着陸可能であり、ペイロード質量500 g 、ペイロードサイズ60 mm 立方が搭載できる機体を製作し、飛行試験の評価を通して実運用に向けたシステム全体の完成を目指している。
当研究室では、2014年10月から2015年まで、基礎開発としてパラフォイルの基本特性(滑空比)の確認、制御アルゴリズムの検討、2016年2月までに試作機体の製作と低高度(30 m)飛行試験を行ってきた。
その結果、滑空比約3、旋回半径約15 mの簡易的な性能評価と機体の設計妥当性を確認した(1)。
一方で、搭載センサーの一部不足や飛行高度不足によって評価が簡易なものに留まったことや、着地時の回転運動に起因する機体破壊が確認された。
そこで、これまでの実験で確認した成果や課題を踏まえ、現在は、2018年5月実施予定の高高度(100 m 程度)の手動制御飛行試験に供する次期機体(図1)を製作している。
機体フレームは、国際民間航空条約に記載されている無人自由気球の軽気球の分類基準である総質量2 kg を設計目標とした。その基準を満たすため、部材にCFRPを利用し、強度を保ったまま軽量化を行い、外装はスタイロフォームとすることで断熱効果も期待できる構成とした。
更に、機能ごとに階層構造を構成することでメンテナンス性や将来のミッション機器等の拡張にも対応している。
課題であった着地時の回転運動による機体破壊に対しては、本体外部に展開脚機構を追加することにより着地安定性を改善し、機体および搭載機器へのダメージを抑制する。
フライトコントローラーには、従来の姿勢検知、位置情報取得の機能に加え、対地高度測定用レーザー距離計と機体の対気速度測定用超音波風向風速計を実装する。
次期機体を供する高高度飛行試験は、制御量に対する飛行動作の評価と、機体に搭載された各機能の動作確認、接地層における飛行性能評価を目的として行う。
400 m四方の実験地を確保し、次期機体をドローンに懸架、分離後に地上からコントローラーを使用して各種動作をロギングする。
現在、新型機体試作機のフレームが完成し、質量は1213 g (バッテリー・電装・保温外装無し)となっている。新規に追加した展開脚機構は3Dプリンターの寸法誤差と機構のバネの種類に修正点があるため、CADデータの再調整とバネの再選定をしていく。
また、次回の試験に向けて発泡スチロールの外装の製作を行う予定である。電装側は、現在までに要素の単独動作テスト、低温低圧環境下の動作確認による部品の選定、フライトコントローラとその周辺の基板設計が完了し、3月末までに実装、動作確認を予定している。
本発表では、手動飛行試験に供する機体の詳細、手動飛行試験の報告、将来の中層大気におけるマイクを用いたインフラサウンドセンシングの活用方法について発表する予定である。
参考文献
1) 平塚 丘将, 河野 紘基, 山本 真行, 超小型気球の回収に最適化された制御降下式ペイロードシステムの開発と飛行試験結果の評価, JAXA-RR, 2017