日本地球惑星科学連合2018年大会

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[JJ] 口頭発表

セッション記号 O (パブリック) » パブリック

[O-01] これからの高校における地球惑星科学教育―「地理総合」と「地学基礎」―

2018年5月20日(日) 10:45 〜 12:15 103 (幕張メッセ国際会議場 1F)

コンビーナ:秋本 弘章(獨協大学経済学部)、田口 康博(千葉県立銚子高等学校)、小林 則彦(西武学園文理中学高等学校、共同)、尾方 隆幸(琉球大学島嶼防災研究センター)、座長:尾方 隆幸小林 則彦宮嶋 敏

11:05 〜 11:20

[O01-06] 地理・地学教育の中で気候・気象学のうち何を扱うか

★招待講演

*増田 耕一1 (1.首都大学東京 (客員))

キーワード:全球規模の気候変化、時空間スケール、天気、地表面熱収支・水収支、気候帯、植生を制約する気候要因

気象学は地学の、気候学は地理の、それぞれ部分と考えられてきたけれども、両者の内容は大きく重なっている。ここでは両者をあわせて、何を必修事項としたらよいかを考えてみたい。

地理にも関連するのだが、ひとまず理科の地学を念頭において、内容を分類するための、いくつかの軸をあげてみる。
1. 基礎と応用。地学の場合とくに、防災や環境問題解決などの公益につながる応用が重要だろう。
2. 過去・現在・未来。現在は、近代科学による観測データが得られる時代をさす。過去はヒトが出現してからの時代も含むが、地学ではそれよりも古い時代を扱うことが重要だ。未来についてできるのは不確かな予測だが、それがほしいこともある。
3. 注目する空間スケール。
4. 対象を単純化したとらえかたと、多様性や個別事実を重視したとらえかた。
5. 数理物理的考えかた、つまり物理法則に基づいて原因から結果に向かう態度と、博物学的考えかた、つまり現実世界の観察で得られる物証からそれが生じた原因を考えていく態度。

最重要と主張するつもりはないが、全地球規模の気候変化のしくみを理解することは、地球温暖化の「緩和」(温室効果気体排出削減)が世界の政治課題となった現代の民主主義国家の主権者がもつべき知識項目だと思う。

文部科学省が2018年2月14日に出した次期高校学習指導要領の案の「地学基礎」での大気・水圏関係の内容は、これに合っている。基礎として、「大気と海洋」のうち「地球の熱収支」で、太陽放射と地球放射の収支を扱い、温室効果にふれ、「大気と海洋の運動」では海洋の層構造と深層循環にもふれる。その応用として「地球環境の科学」のところで地球温暖化を扱うことができる。ただし、地球温暖化とエルニーニョ現象が単純に並列されているのはうまくない。気候変動には内部変動と外部強制による変動があり地球温暖化は後者だという認識が必要だ。(「地学基礎」の範囲でエルニーニョ現象を扱うのは無理があると思う。)

ただしこの主題は、さきほどあげた軸3では全地球規模、軸4では単純化したとらえかた、軸2では数理物理的アプローチに偏っている。

人為起源の地球温暖化があろうがなかろうが、人は気候に適応することが必要だ。そしてその適応する対象は、世界平均値ではなく、それぞれの場所のローカルな気候なのだ。また、地理学の観点で、人間社会と、また地形・水文・植生などとの相互作用を考えるとき問題になる気候も、おもにローカルなものだ。ただし、ローカルな気候には多様性がある。また、ローカルな気候の変化を因果関係を追って述べることはむずかしい。教科内容のすべてが必修ではなくoptionalな項目もあることを前提として、
ローカルな気候に関する学習はoptionalな項目とし、その基礎となりうることがらを必修項目にすることを考えるべきだろう。

●大気・水圏の現象にはさまざまな空間・時間スケールのものがあること。そして、空間スケールの大きいものは時間スケールも大きい傾向があること。

●天気。気温、気圧、風向風速、降水量などの数値はどのように表現されるか、温帯低気圧とはどんなものか、など、テレビなどの天気予報を理解できるための基礎知識。(次期学習指導要領案では「地学基礎」ではなく「地学」のほうに含まれている。) 空間スケールは数百kmから数千kmであって、地球全体よりは小さいが、ローカルよりは大きい。

●地表面(地面・海面)での熱収支・水収支。ここでいう「熱」とはエネルギーのうち運動エネルギーを省略したものの便宜的表現である。熱収支は、放射と、顕熱・潜熱の乱流輸送からなる。水収支は、降水・蒸発・流出からなる。蒸発の潜熱が両方にはいっている。雪氷がからむ場合はもう少し複雑になる。

●気候帯の概略。熱帯、温帯、寒帯と 乾燥地帯が地球上でどのように分布するか。「地学基礎」の「大気と海洋」で教えられる「大気の大循環」とリンクさせたい。

●気候と植生(陸上生態系)の関係。ケッペンから引き継ぐべきことは、気候区分ではなく、植生のタイプが気候によって制約されているという認識だと思う。制約要因としては、生育期間の温度または利用可能なエネルギー、利用可能な水分、最低温度があげられる。