日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 O (パブリック) » パブリック

[O-01] これからの高校における地球惑星科学教育―「地理総合」と「地学基礎」―

2018年5月20日(日) 10:45 〜 12:15 103 (幕張メッセ国際会議場 1F)

コンビーナ:秋本 弘章(獨協大学経済学部)、田口 康博(千葉県立銚子高等学校)、小林 則彦(西武学園文理中学高等学校、共同)、尾方 隆幸(琉球大学島嶼防災研究センター)、座長:尾方 隆幸小林 則彦宮嶋 敏

11:20 〜 11:35

[O01-07] ジオパークからの支援の可能性:「地理総合」と「地学基礎」の場合

★招待講演

*林 信太郎1 (1.秋田大学大学院教育学研究科)

キーワード:ジオパーク、地学基礎、地理総合

日本のジオパークは高校教育での地球惑星科学教育を支援できるのだろうか?答えはイエスである。

ジオパークの高校への支援はジオパークにとって大きな意味がある。また,ジオパークからの支援は高校にとって有用である。はじめに,「地学基礎」,「地理総合」のカリキュラムについて述べ,その後ジオパークヘのメリット,高校へのメリットについて述べる。なお,カリキュラムについては2018年2月14日に示された新学習指導要領(案)に基づいて述べる。また,「地学基礎」と「地理A」の現行の教科書も参考にした。

<「地学基礎」,「地理総合」のカリキュラムとジオパークによる支援可能な要素>

「地学基礎」:大きく「地球のすがた」「変動する地球」に区分されている。これらのうち「地球のすがた」のプレートの運動や火山活動と地震,「変動する地球」の古生物の変遷,「地球の環境」の日本の自然環境のもたらす恩恵や災害,それらと人間生活との関わりについて,ジオパークには良い教材があり,探究活動のテーマも豊富である。

「地理総合」:「地理総合」の内容は大きく3つに分けられる。すなわち「地図や地理情報システムで捉える現代世界」「国際理解と国際協力」「持続可能な地域づくりと私たち」である。このうち,「持続可能な地域づくりと私たち」は,さらに「自然環境と防災」「生活圏の調査と地域の展望」に区分される。「自然環境と防災」は課題探究活動の中で,自然災害,それへの備えや対応について知識を身につけ,ハザードマップや新旧地形図を読み取りまとめる技能を身につける。日本のジオパークの中には自然災害を主要なテーマとするものが多く(洞爺湖有珠山ジオパーク,三陸ジオパークなど)「自然環境と防災」分野では多くの支援が可能である。また,「生活圏の調査と地域の展望」の課題探究では,地域の成り立ちや変容,持続可能な地域づくりについて多面的・多角的に考察することとなっている。ジオパークの活動は持続可能な地域づくりを目的としている。したがって,ジオパークそのものが,「生活圏の調査と地域の展望」の教材となり,多くの支援が可能である。

「地学基礎」と「地理総合」の相補的関係:従来の「地理 A」と「地学基礎」は,地形分野に関して相補的である。「地学基礎」では,地球内部の力が扱われるが,地形への言及は少ない。一方地形については「地理 A」で学ぶことができた。しかし,「地理総合」でどのように地形が扱われるか,詳細はわからない。学習指導要領(案)では地形への言及は少ない。ただし,「地理 A」の教科書と対応する学習指導要領とを比較すると,学習指導要領にほとんど言及のない地形に関する内容が教科書には含まれている。もし同様に「地理総合」の教科書に地形に関する内容が含まれているとすれば,「地学基礎」と「地理総合」の両方を学ぶことで相補的な地形理解が可能であろう。また,「地理総合」の自然災害に関する探究活動では,地形を題材にする可能性が高い。したがって,ジオパークにによる地形についての学習支援が重要であろう。

また,「地学基礎」では地震や火山について災害の要因は学ぶが,災害そのものの学習は十分ではない。例えば,土石流や豪雪については,現行「地学基礎」の教科書には記述が見られない。一方「地理総合」では,地域の自然災害が探究活動の大きなテーマとなる。災害を多面的・多角的に理解するためには,「地学基礎」と「地理総合」の両者の学習が必要である。両者の学習が困難な場合は,ジオパークによる支援が有効である。

<「地学基礎」,「地理総合」への支援:ジオパークのメリット>

高等学校の「地学基礎」,「地理総合」の授業を支援することは,そもそもジオパークの3つの活動(保全,教育,地域の持続可能な発達)の一つの「教育」そのものである。このほかに,「地学基礎」,「地理総合」の授業支援には,ジオパークにとって3つのメリットがある。

第1にジオパークを支える人材を生み出す効果がある。「地学基礎」,「地理総合」の探究的学習が行われた場合,地域の課題やジオパークの活動に関心のある人材が生まれる可能性が高い。第2に「地理総合」の探究的活動は地域活性化に直接貢献する可能性があり,その成果をジオパークに活かせる可能性がある。第3に「地学基礎」,「地理総合」の授業支援は,防災・減災にも有用である。したがって,防災・減災に関わる人材を生み出す可能性がある。

<「地学基礎」,「地理総合」への支援:高校側のメリット>

「地学基礎」,「地理総合」への支援は高校にとって3つのメリットがある。

第1にジオパークの専門員や大学の教員を授業に活用できることである。ジオパーク関係の学術関係者は,対話やグループ活動を通じた授業を行える人材が多い。日常的にガイド教育を行うとともに,対話的に進行するNHKの人気番組「ブラタモリ」の影響を受けているためである。第2に,地球惑星科学を総合的に学ぶことが可能になる。「地学基礎」,「地理総合」を単独で学んだ場合,地学的現象を総合的な地球惑星科学の視点から学ぶことはむずかしい。第3にジオパークそのものに探究的活動の素材を見つけることができることである。

以上のように,「地学基礎」,「地理総合」への支援はジオパーク側にも高校側にもメリットがある。したがって,ジオパークからの「地理総合」と「地学基礎」への支援は可能である。支援を活発化させるためには,ジオパークから高校への働きかけが重要であろう。