[O02-P23] 花崗岩体での植生による土砂災害抑制効果と危険地域の指摘
キーワード:土砂災害、花崗岩、植生
はじめに
現在,土砂災害の対策として,植樹や砂防ダムの設置が行われているが,植樹の効果については未だ各地域での最適な樹種やその抑制メカニズムは全て明らかにはされていない。また,筆者らは2015年度の研究で,花崗岩体では幾層もの厚い風化層を形成する特徴的な風化が土砂災害に影響を及ぼすことを明らかにした(図1)。そこで本研究では,土砂災害発生の条件の一つに考えられる植生に着目し,現地調査と模型実験により,花崗岩体での土砂災害発生を抑制する最適な樹種とそのメカニズムを明らかにし,土砂災害発生危険地点と危険地点での植樹と間伐の有効性を調査した。
動機と目的
2011年9月に,兵庫県加古川市志方町の大藤山(図2)で大規模な土砂災害が発生した。土砂災害発生時,麓では大量のヒノキの流木が見られ,土石流発生跡(以下土石流跡)地点(図3)にはヒノキが分布していた。一方,土石流跡付近の風化層の見られる露頭(図3)では傾斜が土石流跡と同様に大きいが,当時,土石流は発生せず,コナラが植生していた。また,花崗岩体である神戸市の六甲山ではコナラ植樹活動により,土砂災害被害が減少したことから,露頭で土石流が発生しなかった要因に植生を考えた。そこで,土砂災害と植生のより密接な関連性を明らかにし,花崗岩体の特徴的な土砂災害発生を抑制する最適な樹種とそのメカニズムの考察,さらに土砂災害発生の危険地点の指摘を目的とした。今回は大藤山に植生する,ヒノキとコナラの土砂災害抑制効果を比較した。
方法
まず,実際に大藤山での土砂災害と植生との関連性を確かめるために,現地調査を行なった。ドローンを用いたUAS‐sfM測量により,土石流によって形成された地形を分析し,植生図と重ねあわせると(図4),植生分布の境界と土石流によって形成された地形の境界に一致が見られた。このことから,土砂災害と植生には密接な関連があることが明らかになった。
次に,ヒノキとコナラの土砂災害抑制効果の差は,主に根系の違いによるものだと考えた。文献では,根系による土層自縛力はヒノキよりもコナラの方が大きいと示唆されていた。そこで,大藤山に植生するヒノキとコナラの掘り起こし調査を行なうと,ヒノキの根は浅く,コナラの根は深く伸長していた。このことは根系図とも一致した。
これらを踏まえ,ヒノキとコナラの根系による土砂災害抑制効果の差を土砂災害発生の瞬間とともに観察するために,模型実験を行なった。現地調査での樹高,胸高直径の実測値より,地上部分の重量を算出し,根系は掘り起こし調査のデータをもとに,ヒノキとコナラに見立てた模型(図5)を作製した。土砂は粒径別割合を算出し,粒径別に分類した土砂層を二層重ね,花崗岩体での土砂災害発生の境界面となるすべり面を作成し,露頭と土石流跡の土砂層を再現した。傾斜は露頭のものとし,降雨は集中豪雨時を想定した。
結果,ヒノキでは露頭と土石流跡の双方の土砂層で,すべり面からの大規模な崩壊が発生した。一方,コナラでは表層からの小規模な崩壊にとどまった。このことから,ヒノキは根が浅く分布し,すべり面に根が到達していないため,すべり面からの大規模な崩壊を引き起こす。一方,コナラは根が深く分布しているため,すべり面上の土砂を保持し,大規模な土砂災害を抑制したと考えられる。したがって,コナラには花崗岩体での土砂災害抑制効果がある。
これまでの調査と実験結果を応用し,大藤山において土砂災害発生の危険地点を指摘できないかと考えた。また,危険地点での植林や間伐の有効性を示すことを目的とした。まず,QGISを用いて,傾斜,谷地形,植生,過去の土砂災害発生場所,の四点をもとに危険地域を抽出した。この中で特に危険と判断した土石流跡周辺で,ドローンを用いて航空写真を撮影し,Drone Deployを用いて(図6),現在植生するヒノキの樹間密度を求め,コナラと間伐の有効性を確認する模型実験を行なった。ここでは,危険地域においての理想的な間伐でのコナラによる土砂災害抑制効果を確かめる。実験の結果,間伐手入れのないヒノキではすべり面からの大規模な崩壊が発生した(図7)。ヒノキは樹間密度が小さい状態でも,すべり面からの崩壊を引き起こす。このことから,ヒノキは花崗岩体のすべり面からの大規模な崩壊を抑制できないといえる。間伐を入れたコナラは,現在実験中である。
結論
本研究より,コナラはヒノキよりも根を深く伸長し,すべり面上の土砂を保持することが分かり,花崗岩体の特徴的な土砂災害抑制に適することを実験的に示した。これらを踏まえ,QGISを用いた地形調査とドローンを用いた植生調査から,危険地点を指摘した。また,コナラ樹種の植林と間伐を行なうことで土砂災害発生の危険状態を改善できると考える。今後は,身近な地域での周知活動や植林ボランティアに参加し,土砂災害発生の危険状態改善に貢献したい。
現在,土砂災害の対策として,植樹や砂防ダムの設置が行われているが,植樹の効果については未だ各地域での最適な樹種やその抑制メカニズムは全て明らかにはされていない。また,筆者らは2015年度の研究で,花崗岩体では幾層もの厚い風化層を形成する特徴的な風化が土砂災害に影響を及ぼすことを明らかにした(図1)。そこで本研究では,土砂災害発生の条件の一つに考えられる植生に着目し,現地調査と模型実験により,花崗岩体での土砂災害発生を抑制する最適な樹種とそのメカニズムを明らかにし,土砂災害発生危険地点と危険地点での植樹と間伐の有効性を調査した。
動機と目的
2011年9月に,兵庫県加古川市志方町の大藤山(図2)で大規模な土砂災害が発生した。土砂災害発生時,麓では大量のヒノキの流木が見られ,土石流発生跡(以下土石流跡)地点(図3)にはヒノキが分布していた。一方,土石流跡付近の風化層の見られる露頭(図3)では傾斜が土石流跡と同様に大きいが,当時,土石流は発生せず,コナラが植生していた。また,花崗岩体である神戸市の六甲山ではコナラ植樹活動により,土砂災害被害が減少したことから,露頭で土石流が発生しなかった要因に植生を考えた。そこで,土砂災害と植生のより密接な関連性を明らかにし,花崗岩体の特徴的な土砂災害発生を抑制する最適な樹種とそのメカニズムの考察,さらに土砂災害発生の危険地点の指摘を目的とした。今回は大藤山に植生する,ヒノキとコナラの土砂災害抑制効果を比較した。
方法
まず,実際に大藤山での土砂災害と植生との関連性を確かめるために,現地調査を行なった。ドローンを用いたUAS‐sfM測量により,土石流によって形成された地形を分析し,植生図と重ねあわせると(図4),植生分布の境界と土石流によって形成された地形の境界に一致が見られた。このことから,土砂災害と植生には密接な関連があることが明らかになった。
次に,ヒノキとコナラの土砂災害抑制効果の差は,主に根系の違いによるものだと考えた。文献では,根系による土層自縛力はヒノキよりもコナラの方が大きいと示唆されていた。そこで,大藤山に植生するヒノキとコナラの掘り起こし調査を行なうと,ヒノキの根は浅く,コナラの根は深く伸長していた。このことは根系図とも一致した。
これらを踏まえ,ヒノキとコナラの根系による土砂災害抑制効果の差を土砂災害発生の瞬間とともに観察するために,模型実験を行なった。現地調査での樹高,胸高直径の実測値より,地上部分の重量を算出し,根系は掘り起こし調査のデータをもとに,ヒノキとコナラに見立てた模型(図5)を作製した。土砂は粒径別割合を算出し,粒径別に分類した土砂層を二層重ね,花崗岩体での土砂災害発生の境界面となるすべり面を作成し,露頭と土石流跡の土砂層を再現した。傾斜は露頭のものとし,降雨は集中豪雨時を想定した。
結果,ヒノキでは露頭と土石流跡の双方の土砂層で,すべり面からの大規模な崩壊が発生した。一方,コナラでは表層からの小規模な崩壊にとどまった。このことから,ヒノキは根が浅く分布し,すべり面に根が到達していないため,すべり面からの大規模な崩壊を引き起こす。一方,コナラは根が深く分布しているため,すべり面上の土砂を保持し,大規模な土砂災害を抑制したと考えられる。したがって,コナラには花崗岩体での土砂災害抑制効果がある。
これまでの調査と実験結果を応用し,大藤山において土砂災害発生の危険地点を指摘できないかと考えた。また,危険地点での植林や間伐の有効性を示すことを目的とした。まず,QGISを用いて,傾斜,谷地形,植生,過去の土砂災害発生場所,の四点をもとに危険地域を抽出した。この中で特に危険と判断した土石流跡周辺で,ドローンを用いて航空写真を撮影し,Drone Deployを用いて(図6),現在植生するヒノキの樹間密度を求め,コナラと間伐の有効性を確認する模型実験を行なった。ここでは,危険地域においての理想的な間伐でのコナラによる土砂災害抑制効果を確かめる。実験の結果,間伐手入れのないヒノキではすべり面からの大規模な崩壊が発生した(図7)。ヒノキは樹間密度が小さい状態でも,すべり面からの崩壊を引き起こす。このことから,ヒノキは花崗岩体のすべり面からの大規模な崩壊を抑制できないといえる。間伐を入れたコナラは,現在実験中である。
結論
本研究より,コナラはヒノキよりも根を深く伸長し,すべり面上の土砂を保持することが分かり,花崗岩体の特徴的な土砂災害抑制に適することを実験的に示した。これらを踏まえ,QGISを用いた地形調査とドローンを用いた植生調査から,危険地点を指摘した。また,コナラ樹種の植林と間伐を行なうことで土砂災害発生の危険状態を改善できると考える。今後は,身近な地域での周知活動や植林ボランティアに参加し,土砂災害発生の危険状態改善に貢献したい。