日本地球惑星科学連合2018年大会

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[JJ] 口頭発表

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[O-03] 地球・惑星科学トップセミナー

2018年5月20日(日) 10:15 〜 11:25 国際会議室(IC) (幕張メッセ国際会議場 2F)

コンビーナ:原 辰彦(建築研究所国際地震工学センター)、道林 克禎(名古屋大学大学院環境学研究科地球環境科学専攻地質・地球生物学講座岩石鉱物学研究室)、成瀬 元(京都大学大学院理学研究科、共同)、関根 康人(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、座長:山田 耕

10:15 〜 10:50

[O03-01] 「チバニアン」と地質時代

★招待講演

*岡田 誠1 (1.茨城大学理学部理学科)

キーワード:地質時代、前期ー中期更新世境界、GSSP

地質時代は,主に地層から産出する生物化石の変遷や気候変動の節目で区切られており,かつては,ある時代の化石相を最もよく表す地層がその時代の模式層として定められてきました.しかし,この方式ではその地質時代がいつ始まったのかを,模式層において決めることができませんでした.この問題を解決するために,地質時代 (Geologic Stage/Age) の下限(始まりの)境界を最もよく表す地層を模式層とする考え方が1976年に提案されました.具体的には,その境界を最もよく観察できる露頭(地層の重なりが見られる崖など)を国際標準模式層断面とポイント(GSSP;Global boundary Stratotype Section and Point)と定め,境界年代の確定を可能にするのです.45.6億年間の地球の歴史の中では115の地質時代区分が提唱されています.しかしGSSPの設定が可能であるのは,化石の産出が見られる顕生代(古生代カンブリア紀以降)に限られています。唯一の例外は,先カンブリア時代の最後であるエディアカラ紀です.エディアカラ紀以降の時代では101の地質時代区分が提唱され,今日(2018年1月)までに68箇所のGSSPがIUGSによって承認されてきました.

 GSSPは,ある地質時代の始まりの境界を最もよく示す模式地層なので,以下の役割が期待されます.例えば,地質時代AとBの境界を含むと思われる地層があり,その地層の中でA-Bの境界を決めたい場合,地質時代A のGSSPと比較することで決定することになります.仮にその地層が,特定の種類の化石しか含まない場合でも対応可能であるとよいわけです.そのためには,なるべく多くの種類の海洋生物化石を含む海成層であることや,それ以外でもなるべく多くの層位学的手法を用いてグローバルな地層対比ができることなどが望まれます.さらにGSSPにおける試料採取や研究の自由が保障されていないといけません.したがってGSSPとして承認されるためには,

1)海成層であり,多くの種類の海洋微化石を含むこと.

2)複数の層位学的手法で対比が出来ること.

3)地質時代境界をまたがって連続的に堆積した地層であること.

4)物理的,法的,政治的な観点からアクセスが容易であること.

などの条件を満たすことが要求されます.千葉セクションが候補地となっている,下部—中部更新統境界(L-M境界)の場合は,その層位学的位置が松山−ブルン地磁気逆転境界(MBB)の近くと定められているため,地磁気逆転境界を示す古地磁気シグナルを持っていることが必要条件として加わります.
 更新世のはじまりは,地球の気候が寒冷化し,北半球に大陸氷床が出現した約260万年前のイベント(いわゆる北半球氷河化作用:NHG)の開始を目安にすることが,2009年にIUGSによって決定されました.そして約120万年~50万年前の間では,気候変化の周期がおよそ4万年から10万年へと移り変わり,変動の振幅が大きくなりました.この変化は,中期更新世気候変遷 (MPT)などと呼ばれ,地球の気候変動史上重要な時期とされています.しかし更新世の始まりや,その期間中に見られる気候変動パターンの変化は少しずつ変わっているので特別な境界は見られません.したがって,層位学的にL-M境界をはっきり示すため最後の地磁気逆転である松山—ブルン境界(M-B境界)を目安に用いることになったのです.実際のL-M境界のGSSPは,このM-B境界と位置関係が明確な,露頭の上ではっきりとわかる地層境界を用います.千葉セクションの場合は,白尾火山灰層がGSSPとしてゴールデンスパイクを打つ地層になります.この白尾火山灰層は,露頭上で明確に確認できる地層であり,M-B境界が直上に記録されているからです.ちなみにイタリアの候補地でもGSSPは火山灰層に設置することを提案していました.2017年夏に行われた作業部会での審査では,千葉セクションの古地磁気シグナルおよび海洋微化石の産出の双方が良好であることなどが評価され,2つのイタリア候補を抑えて千葉セクションがGSSP候補として選出されました.講演では千葉セクションから得られた最新のデータについても紹介します.