日本地球惑星科学連合2018年大会

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[JJ] 口頭発表

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[O-06] ジオパークがつなぐ地球科学と社会 ー10年の成果と課題ー

2018年5月20日(日) 13:45 〜 15:15 国際会議室(IC) (幕張メッセ国際会議場 2F)

コンビーナ:松原 典孝(兵庫県立大学大学院 地域資源マネジメント研究科)、市橋 弥生(佐渡市教育委員会)、小原 北士(Mine秋吉台ジオパーク推進協議会、共同)、大野 希一(島原半島ジオパーク協議会事務局)、座長:市橋 弥生小原 北士平田 和彦今井 ひろこ松原 典孝(兵庫県立大学大学院)

13:45 〜 14:15

[O06-01] ジオパークの10年を振り返る

★招待講演

*渡辺 真人1 (1.産業技術総合研究所地質情報研究部門)

キーワード:ジオパーク、持続可能な社会、社会と地球科学

2008年に日本ジオパーク委員会が設立されてから,地球科学者,地域住民,地方自治体などの関係者の協力により,日本のジオパーク活動は大きく進展してきた.この10年間の成果と課題について講演する.
 この10年間で様々な進展があった.地形・地質遺産の保全と研究・教育,観光振興による地域活性化,およびそれらを通じた持続可能な社会に向けた努力といったUNESCOのガイドラインに基づくジオパークの理念は、ジオパークに関わる人たちの間に一定程度浸透しつつある。ジオパークの設立をきっかけに地域の自然と文化について学ぶ人が増え、地域に誇りを持つ人が増えている。ジオサイトの保全についても少しずつではあるが進展が見られる。ジオサイトのリストを作成し現状を把握し、ジオサイトの保全に向けた計画を立案するジオパークが増えている。ジオパークのサイトを利用した地元の子供たちへの野外での教育、さらにはその教育プログラムを活かした児童生徒の見学旅行の誘致は各地のジオパークで進んでいる。保全と観光を両立させる,持続可能な観光へ向けた試みも行われている.ジオサイトを含む地域の様々な自然・文化遺産をめぐる有料のガイドツアーが軌道に乗りつつある地域,ジオパークのエッセンスを取り入れた有料の野外活動が人気となっている地域もある.
 一方で課題は多い.行政主導で始まり、それを一因として急速に広まった日本のジオパークであるが、行政主導の活動には限界がある。審査基準を形式的にでも満たして日本ジオパークに認定されることを目指し,日本ジオパークになれば何かが起こる,と期待する地域は相変わらずなくならない.修了後のスキルアップと活躍の場が考慮されていない形式的なガイド養成講座や、実績作りのための中身の練られていないジオツアーなどが、「認定のために」申請準備地域で行われている場合がいまだにある。UNESCOのガイドラインと日本ジオパーク委員会の審査基準において,ジオパークの運営組織に地球科学者が必要であるとしているので,多くのジオパークで若い地球科学者を雇用しているが,その能力が十分に活用されていない例もある.地質・地形遺産をはじめとする各種自然・文化遺産の魅力をわかりやすく伝え,観光に活かすには科学者・地域住民・行政のコミュニケーションと連携が不可欠であるが,コミュニケーション不全や連携不足はしばしば見受けられる.その結果,ジオパークが自らの本質的な魅力をきちんとアピールできず、他の地域と代わり映えのしないゆるキャラや、安易なジオ関連商品のみでジオパークの売り込みを図ることにもなる.ただ,以上のような問題に象徴される地域における様々な課題がジオパークにより表面化すること自体は良いことであり,地域の関係者の間で課題解決に向かう動きが出てくることを期待したい.
 以上のようにジオパークの現状に課題は多い.しかし,幸いなことにジオパークは国内ネットワークと国際的なネットワークの傘下で活動している.ジオパーク間の交流により,課題解決の糸口をつかんでいる例もある.今後もジオパークのネットワークに多くの関係者が参加することで,ジオパークの本来の理念に近い活動に近づいていくことを期待したい.