16:00 〜 16:30
[O06-05] 地域博物館の機能が後押しした糸魚川ジオパークの10年
★招待講演
キーワード:糸魚川ジオパーク、地域博物館、フォッサマグナミュージアム
糸魚川ジオパークにあるフォッサマグナミュージアム(糸魚川市教育委員会文化振興課所管)は,1994年に開館した地質系博物館である.博物館における四つの機能(研究・教育・展示・収蔵)は,ジオパーク認定前においてはジオパーク建設の基礎をつくり,また,ジオパーク認定後においてはジオパーク活動を自前で前進させることに貢献している.地域博物館とは予算や人的資源が豊富な中央の博物館に対するもので,人文・自然科学を結び付け,地域課題に博物館機能を通して市民とともに応えていくものとされる(伊藤寿朗1991).学芸員は,鉱物学2名,古生物学1名,地質学1名の4名体制である.さらに文化振興課に考古学の学芸員3名がおり,博物館学芸員との日常的な情報共有がされている.以下に博物館機能がジオパーク建設に果たしてきた役割や効果,課題をあげる.
研究分野においては,地質学(広義)に関する既存の研究論文の再評価やまとめ,新たな価値の創出(新鉱物の発見,新種化石の発見,地殻変動に対する理解など)が進み,糸魚川の地質学的価値を高めることに成功してきた.また,地形・地質と自然災害,歴史文化の関わりの調査が進んだ(ヒスイやヒスイ文化,自然災害,旧鉱山,棚田形成など).これらの成果は,博物館研究報告書や科学雑誌に公表された.後者の研究を意識したのは,生活に密着した話題を含めたほうが,市民が地質学の興味を惹きやすいし,理解もされやすいことによる.さらに学芸員が地域に密着した研究者であることを意識したことにもよる.この結果,2008年提出のGGN加盟申請書には,24ヶ所の見どころが大地と人の物語(ジオストーリー)として記述された.地域博物館の研究は,大学のような特定課題を最先端の手法で探求するような研究とは違い,地域資源のつながりを研究する総合化に特徴がある.このような研究の特徴はジオパークの地域資源研究と親和性がある.
教育分野では,地球科学セミナー(大人向け講演会),おもしろミュージアム(子ども向け体験学習),地学ハイキング(野外見学会)を三本柱に活動を進めてきた.市民の中に確実に地質ファンを広げて,彼らが将来のジオパーク支持者となった.また,ミュージアム友の会を立ち上げ,市民とともに学び,郷土の謎を解き明かす活動を進めてきた結果,市民が新鉱物や新種の化石を含む岩石を発見したり,市民が科学論文を書くようになったり,友の会会員がのちにジオパークガイドの中心として活躍するようになった.行事を重ねると市民の関心事は,一般的な地学的知識のほかに身近な大地の見方やとらえ方であり,とくに自然災害の発生や暮らしと糸魚川の大地の成り立ちの関係にあることがわかってきた.地学ハイキングによって,自然災害の爪痕を含む地質見学地の開拓が進み,のちのジオパーク見学地となっていった.また,教育プログラムや教材も開発され,ジオパーク後の教育旅行への誘致や実際の受け入れがうまくいった.出版活動に活用される,きれいな写真とわかりやすいイラストの蓄積が進められた.
展示分野では,展示手法の工夫によって不特定多数の来館者に地質学をうまく伝えられることを学ぶことができた.これらの経験は,2015年の展示リニューアルに活かされた. 1991年にそれまで「野外博物館」とされていた地質学的な見どころを「ジオパーク」と名付け(第二著者の宮島の考案),野外解説板の設置が進み,先述した地学ハイキングと合わせて,ジオツーリズムの原型ができあがっていった.また,保全と展示の視点にたったフォッサマグナパーク(糸魚川-静岡構造線断層露頭の見学公園)のリニューアルが現在進められ,2018年夏にオープン予定である.
収蔵分野では,ヒスイをはじめ貴重な岩石・鉱物・化石標本を収集・保管するとともに,市外への散逸を防ぐ役割を果たしている.
一方,課題として以下があげられる.ジオパークになって10年経過した現在,博物館の四つの機能のうち,教育活動の比重が極めて高くなった.これはフォッサマグナミュージアムへ訪れる一般来館者と教育旅行の団体が多くなった結果である.学芸員が博物館機能のうちの研究,資料整理,出版,本来の研究成果を土台にした展示などの活動にあてる時間がとれない現状があり,博物館活動の持続可能性が危惧される.仕事を減らすか学芸員を増やすか,あるいは市民や大学などが一緒に博物館活動に関わっていく新たな仕組みをつくっていくか,なんらかの対応が急がれる.
研究分野においては,地質学(広義)に関する既存の研究論文の再評価やまとめ,新たな価値の創出(新鉱物の発見,新種化石の発見,地殻変動に対する理解など)が進み,糸魚川の地質学的価値を高めることに成功してきた.また,地形・地質と自然災害,歴史文化の関わりの調査が進んだ(ヒスイやヒスイ文化,自然災害,旧鉱山,棚田形成など).これらの成果は,博物館研究報告書や科学雑誌に公表された.後者の研究を意識したのは,生活に密着した話題を含めたほうが,市民が地質学の興味を惹きやすいし,理解もされやすいことによる.さらに学芸員が地域に密着した研究者であることを意識したことにもよる.この結果,2008年提出のGGN加盟申請書には,24ヶ所の見どころが大地と人の物語(ジオストーリー)として記述された.地域博物館の研究は,大学のような特定課題を最先端の手法で探求するような研究とは違い,地域資源のつながりを研究する総合化に特徴がある.このような研究の特徴はジオパークの地域資源研究と親和性がある.
教育分野では,地球科学セミナー(大人向け講演会),おもしろミュージアム(子ども向け体験学習),地学ハイキング(野外見学会)を三本柱に活動を進めてきた.市民の中に確実に地質ファンを広げて,彼らが将来のジオパーク支持者となった.また,ミュージアム友の会を立ち上げ,市民とともに学び,郷土の謎を解き明かす活動を進めてきた結果,市民が新鉱物や新種の化石を含む岩石を発見したり,市民が科学論文を書くようになったり,友の会会員がのちにジオパークガイドの中心として活躍するようになった.行事を重ねると市民の関心事は,一般的な地学的知識のほかに身近な大地の見方やとらえ方であり,とくに自然災害の発生や暮らしと糸魚川の大地の成り立ちの関係にあることがわかってきた.地学ハイキングによって,自然災害の爪痕を含む地質見学地の開拓が進み,のちのジオパーク見学地となっていった.また,教育プログラムや教材も開発され,ジオパーク後の教育旅行への誘致や実際の受け入れがうまくいった.出版活動に活用される,きれいな写真とわかりやすいイラストの蓄積が進められた.
展示分野では,展示手法の工夫によって不特定多数の来館者に地質学をうまく伝えられることを学ぶことができた.これらの経験は,2015年の展示リニューアルに活かされた. 1991年にそれまで「野外博物館」とされていた地質学的な見どころを「ジオパーク」と名付け(第二著者の宮島の考案),野外解説板の設置が進み,先述した地学ハイキングと合わせて,ジオツーリズムの原型ができあがっていった.また,保全と展示の視点にたったフォッサマグナパーク(糸魚川-静岡構造線断層露頭の見学公園)のリニューアルが現在進められ,2018年夏にオープン予定である.
収蔵分野では,ヒスイをはじめ貴重な岩石・鉱物・化石標本を収集・保管するとともに,市外への散逸を防ぐ役割を果たしている.
一方,課題として以下があげられる.ジオパークになって10年経過した現在,博物館の四つの機能のうち,教育活動の比重が極めて高くなった.これはフォッサマグナミュージアムへ訪れる一般来館者と教育旅行の団体が多くなった結果である.学芸員が博物館機能のうちの研究,資料整理,出版,本来の研究成果を土台にした展示などの活動にあてる時間がとれない現状があり,博物館活動の持続可能性が危惧される.仕事を減らすか学芸員を増やすか,あるいは市民や大学などが一緒に博物館活動に関わっていく新たな仕組みをつくっていくか,なんらかの対応が急がれる.