日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[EE] ポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-CG 宇宙惑星科学複合領域・一般

[P-CG21] 宇宙・惑星探査の将来計画と関連する機器開発の展望

2018年5月21日(月) 10:45 〜 12:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:亀田 真吾(立教大学理学部)、笠原 慧(東京大学)、尾崎 光紀(金沢大学理工研究域電子情報学系、共同)、吉岡 和夫(東京大学大学院新領域創成科学研究科)

[PCG21-P10] 探査機搭載をめざした超小型ミュオグラフィ装置の原理実証モデルの開発

*小池 幸人1洪 鵬1田中 宏幸1宮本 英昭1 (1.東京大学)

キーワード:ミュオグラフィ、火星、ミュオン、惑星探査

宇宙線と大気の相互作用によって生成される素粒子ミュオンを用いて、巨大物体の密度分布を可視化する技術が「ミュオグラフィ」である。これまで地球の火山や洞窟(Tanaka et al., 2007)、原子炉(Normile, D. 2015)、ピラミッド(Morishima et al., 2017) 等の内部構造探査に利用されてきたが、ミュオンが生成される環境であれば原理的にはどこでも適用可能であり、火星表面(Kedar et al., 2013) 、小天体(Prettyman et al., 2014) 、火星衛星(Miyamoto et al., 2016) でのミュオグラフィ観測が提案されている。固体天体の浅部地下構造を探査することは、天体の進化や起源を理解する上で不可欠であるが、電波探査や地震波探査などの従来の地下構造探査手法では適用対象に制約があったり、装置が巨大化・複雑化する傾向があった。ミュオグラフィは従来の手法と比べて、省電力・小型化が容易であり、また少ないデータ転送量や可動部が少ないことなど、探査機に搭載する上で有利な点がある(Tanaka, 2012)。
 太陽系探査においてミュオグラフィを適用するには、探査機搭載に向けた装置の小型化が必要になるが、装置を小型化すると検出器の受光面が小さくなり、ミュオンの検出効率が大きく下がることなどから、超小型の検出装置が開発された例はない。本研究では、近年地球科学で発展してきたミュオグラフィの技術を応用して、探査機搭載を目指した超小型ミュオグラフィ装置の原理実証モデルを設計・開発した。
 超小型ミュオグラフィ装置は主に小型光電子増倍管、プラスチック・シンチレータ、小型高圧電源ユニットから成る。入射したミュオンがシンチレータと反応して発光し、その微弱な光を光電子増倍管で増幅し、オシロスコープで読みだした。開発した検出器の大きさは1個あたり4 cm×4 cm×7 cmであり、重量は約500 g、消費電力は約0.03 W(電圧 -0.8 kV、電流 35 μA)である。
 検出装置は2台製作し、トリガーレベルを-60 mVに設定し、2つの検出器の向きや距離を変え、また入射する粒子をエネルギーを選別するため鉛板を挟むなど、計4パターンの測定を行った。実際にミュオグラフィを行う際の設定(縦向き、検出器間の距離を近づけた場合)での測定は5日間行った。結果、6 mm×6 mmのシンチレータ 1 pixあたりに11個の粒子が入射した(得られた信号のピークは-500 ~ -150 mV)。これより装置全体(64 pix)で得られる粒子の検出率を求めると138.24±41.60 /dayとなり、これは地上での鉛直ミュオン強度(7.3±0.1)×10-3 /cm2/s/sr(S.Fukui et al., 1976)と調和的である。また鉛を挟んだ場合には、検出率が約30 %低下し、これは理論的に予測される検出率の減少割合1/4 (理科年表2014)と調和的である。これらの結果から、本研究で開発した超小型ミュオグラフィ装置で実際にミュオンが検出できることを確認した。
 また、開発した超小型装置を火星で運用した際、密度差の検出を現実的なタイムスケールで行うことができるかを調べるために、理論計算を行った。平均的な火星の岩石組成(Gellert et al., 2004)を持つ幅100 mの岩石を仮定し、片側半分の密度を1.0 ~ 5.0 g/cm3で変化させたときの、岩石を透過するのに必要なミュオンの最小エネルギーは46.0 ~ 88.0 GeVになることがわかった。これによって、ミュオンの検出率がポアソン分布に基づく分散を持つと仮定した場合、今回開発した超小型ミュオグラフィ装置を火星上で運用した場合には、12時間から16日程度の観測時間で、密度差0.1 ~ 2.0 g/cm3を検出できる可能性があることを示した。