日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-CG 宇宙惑星科学複合領域・一般

[P-CG22] アルマによる惑星科学の新展開

2018年5月23日(水) 09:00 〜 10:30 A02 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:武藤 恭之(工学院大学 教育推進機構)、百瀬 宗武(茨城大学理学部)、佐川 英夫(京都産業大学理学部、共同)、下条 圭美(国立天文台チリ観測所)、座長:武藤 恭之

09:15 〜 09:30

[PCG22-02] ALMA高分散分光観測による、原始惑星系円盤のH2Oスノーラインの同定可能性

★招待講演

*野津 翔太1野村 英子2秋山 永治3廣田 朋也3本田 充彦4Walsh Catherine5Booth Alice5Millar T.J.6 (1.京都大学 大学院理学研究科 物理学・宇宙物理学専攻 宇宙物理学教室、2.東京工業大学理学院地球惑星科学系、3.国立天文台、4.久留米大学医学部物理学教室、5.School of Physics and Astronomy, University of Leeds, UK、6.Astrophysics Research Centre, School of Mathematics and Physics, Queenʼs University Belfast, UK)

キーワード:H2O スノーライン、原始惑星系円盤、惑星形成、分子輝線、ALMA、化学反応

原始惑星系円盤(以後、"円盤")において、中心星近傍では高温のためH2Oはダスト表面から脱離し気体となるが、遠方では低温のためダスト表面に凍結する。この境界がH2Oスノーラインであり、ダストの合体成長で惑星を作る際、H2Oスノーラインの内側では地球型の岩石惑星が形成される。一方外側ではダストの総量が増加する。このため重力で周りのガスを大量に集める事が可能となり、木星型のガス惑星が形成される。(Hayashi et al. 1981, 1985) よってH2Oスノーラインを観測的に同定する事は、微惑星・惑星形成過程や、地球上の水の起源を考える上で重要である。


これまで我々は、円盤の化学反応ネットワーク計算と放射輸送計算の手法を用いて、 ortho-H216O輝線プロファイルの観測から円盤内のH2O分布、特にH2Oスノーラインを同定する方法を提案してきた。(Notsu et al. 2016&2017, ApJ) その結果、アインシュタインA係数(放射係数) が小さく(~10-6−10-3 s-1) 励起エネルギーが比較的高い(~1000K) 輝線のプロファイルを高分散分光観測で調べる事で、H2Oスノーラインを同定できる可能性がある事が分かった。そしてこの様な特徴を持つortho-H216O 輝線が、中間赤外線からサブミリ波までの幅広い波長帯に多数存在し、その強度は波長が短い程大きい事が分かった。


我々は最近、新たにpara-H216O輝線やH218O輝線に対しても計算を行い、ALMA Band 7やCycle 5から観測を開始したBand 5などの周波数領域に、H2Oスノーライン観測に適した輝線を多数発見した。(Notsu et al. 2018, ApJ) また、サブミリ波帯のH2O輝線はA係数が赤外線帯の輝線より小さい傾向にあり(<10-4 s-1) 、円盤外側の光学的に十分薄い領域からの放射強度がより小さくなる傾向が見えた。そしてH216O分子と比べH218O分子の数密度は1/560なので、ダストの光学的厚みが赤道面で非常に大きい円盤でなければ、H218O輝線の方がより赤道面に近い領域のH2Oガスを捉える事ができ、赤道面のH2Oスノーライン位置を同定するのにより適している事が分かった。さらに、赤外線帯の輝線に比べより低い励起温度(>200K)の輝線の中にも、H2Oスノーライン観測に使用可能なものがある事が分かった。


また、我々は円盤からのH2O輝線検出を目指したALMA観測も提案しており、Cycle 3 でHerbig Ae 星HD163296に対し一部のデータが取得済みである。本発表では、これまでのモデル計算結果とALMA Cycle 3 観測結果の紹介を行った上で、今後のALMA高分散分光観測(Band 5-10)でのH2Oスノーラインの同定可能性の議論を行う。