日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-EM 太陽地球系科学・宇宙電磁気学・宇宙環境

[P-EM17] 宇宙プラズマ理論・シミュレーション

2018年5月23日(水) 10:45 〜 12:15 304 (幕張メッセ国際会議場 3F)

コンビーナ:梅田 隆行(名古屋大学 宇宙地球環境研究所)、三宅 洋平(神戸大学計算科学教育センター)、成行 泰裕(富山大学人間発達科学部、共同)、中村 匡(福井県立大学)、座長:中村 匡(福井県立大学)、天野 孝伸(東京大学 地球惑星科学専攻)

11:00 〜 11:15

[PEM17-08] 衝撃波遷移層における電子の統計的ドリフト加速のモデリング

*加藤 拓馬1天野 孝伸1 (1.東京大学)

キーワード:粒子加速、無衝突衝撃波

宇宙線の加速は, 宇宙物理学における重要なテーマの一つである. これらの粒子のうちエネルギーが1015eV以下の銀河宇宙線は, 超新星残骸におけるFermi加速によって生成されていると広く信じられている. 実際, この加速過程は広く観測されているべき型のエネルギースペクトルを自然に説明することができる. しかし超新星残骸では, Fermi加速は非相対論的電子(<1MeV)に関しては非効率であり, Fermi加速を用いて超新星残骸における電子のシンクロトロン放射の観測結果を説明するためには, 非相対論的な電子を相対論的なエネルギーまで加速させる別の過程が必要である. この問題は電子注入問題と呼ばれていて, 現在においても未解決である. これらの電子の加速において重要と考えられている加速過程の一つとして衝撃波ドリフト加速(Wu 1984, Leroy and Mangeney 1984)がある. これは, 衝撃波遷移層の磁場勾配による磁場勾配ドリフトによって, 電子が対流電場の逆方向に運動することで加速される過程である. しかし, この加速過程には地球バウショックなどの観測で見られるようなべき型のスペクトルを再現することができないという問題がある. 一方, 最近の地球バウショックにおける衛星データの統計研究(Oka et al., 2006)によって, 電子分布の性質がホイッスラー臨界マッハ数を境界として変化することがわかった. このことは電子加速にホイッスラー波が関係していることを示唆している.

これらの結果を踏まえて, 本研究では新しい電子加速過程として, 衝撃波ドリフト加速にホイッスラー波によるピッチ角散乱の効果を取り入れた統計的な加速過程を考える. ここでは簡単のために, 電子分布関数を空間方向に積分し, エネルギーとピッチ角に関する依存性のみを考えるボックス近似を用いる. このモデルにおいて電子分布関数は, 散乱が十分強く電子分布が等方とみなせる場合は解析的な計算で求めることができ, その結果電子のエネルギースペクトルが観測結果と整合するようなべき型の分布をとることがわかった. また, 散乱が弱くピッチ角分布の異方性の考慮が必要な場合は, モンテカルロ法を用いたシミュレーションによって電子分布関数を求めた. この結果, 電子分布が等方とみなせる場所では, 先に述べた解析的な計算結果と合致することが確認できた. また, この加速過程には上限が存在し, その上限エネルギーはピッチ角散乱周波数に比例することがわかった. 本発表ではこれらの結果を提示した上で, 地球バウショックなどの実際の系への応用について議論する.