日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-EM 太陽地球系科学・宇宙電磁気学・宇宙環境

[P-EM18] 大気圏・電離圏

2018年5月22日(火) 15:30 〜 17:00 304 (幕張メッセ国際会議場 3F)

コンビーナ:大塚 雄一(名古屋大学宇宙地球環境研究所)、津川 卓也(情報通信研究機構)、川村 誠治(国立研究開発法人 情報通信研究機構)、座長:高橋 透(極地研究所)、垰 千尋

16:45 〜 17:00

[PEM18-12] 帯電する飛翔体で使用可能なラングミューアプローブの開発

*田寺 慶樹1阿部 琢美2三宅 亙1 (1.東海大学大学院、2.宇宙科学研究所)

キーワード:ラングミューアプローブ、プラズマパラメーター、人工衛星、浮動電位

宇宙空間の飛翔体の浮動電位はその表面への荷電粒子の入射と放出の数によって変化する.低高度の人工衛星の場合,電離圏中の熱電子の入射により負に帯電する.その電位はプラズマ空間電位に対して負に数ボルトにまでなることがある.また,人工衛星表面にはその電位に対応した厚さ約数センチのシースが形成されることが知られている.衛星上で能動的な実験を行う場合は,電位はより大きくなる可能性があり,シースの厚さも数十センチにまでなる可能性が考えられる.衛星上で電子温度や密度の推定を目的としてラングミューアプローブを用いる場合,電流―電圧特性を得るための掃引電圧振幅は数ボルト程度であるため,大きく帯電した衛星電位を基準にこの程度の掃引を行ってもプラズマパラメーターの推定に必要な情報を得ることは困難である.したがって,一般的なラングミューアプローブではプラズマパラメーターを推定することができない.さらに,飛翔体表面に形成されたシースがラングミューアプローブの設置された位置にまで成長し,プラズマパラメーターの推定に影響を及ぼす可能性があることが考えられる.

本研究の目的は大きく帯電する飛翔体上で使用可能なラングミューアプローブのための回路の開発である.この回路ではプローブに二種類の掃引電圧振幅を印加し,最終的にプラズマパラメーターの推定に必要な電流―電圧特性を取得する.一つ目の掃引では,周囲のプラズマに対する飛翔体の電位を見つけるために広い範囲を粗い電圧ステップで測定し,イオン飽和領域,減速電界領域から飽和電子電流領域の三つの領域からなる電流―電圧特性を得る.そして,得られた電流―電圧特性の対数を取りその中で傾きが最大となった時の電位を次の電圧掃引のための基準電位とする.二つ目の掃引では,一つ目の電圧掃引で決定したプラズマ空間電位を基準に狭い電圧幅を細かい電圧ステップで測定し,プラズマパラメーターの推定に必要な電流―電圧特性を取得する. 次に,開発した回路を電離圏プラズマ環境を模擬した真空チャンバー内に設置し,衛星が負に数十ボルト帯電した状況を作り出して,所定の動作が行われるかどうかの実験を行った.しかし,開発された回路は基準電位を決定する際にプローブ電流中の混入したノイズに大きく影響を受け適切に決定できず,正常に機能しなかった.

本研究では,上記問題を解決するために取得したプローブ電流に混入したノイズに影響を受けずに狭い電圧幅の電圧掃引のための基準電位を決定できる回路内のFPGAプログラムロジックの改修を行った.その上で,プラズマ空間電位を決定できるかどうかを確認することによって本研究で開発した回路が正常に動作するかの実証実験を行った.

今後は,飛翔体の電位が空間電位に対して負の方向に大きく変動した飛翔体表面に形成されるイオン鞘がプローブ法を用いたプラズマ測定から推定したプラズマパラメーターにどのような影響を及ぼすのかについての検証も行うために真空チャンバー内に低高度の電離圏プラズマ環境を作り出し,帯電した飛翔体の表面を模擬する円筒型の導体を設置し,その周辺でプラズマ測定を行う予定である.