日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[EE] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS03] 太陽系小天体研究:現状の理解と将来の展望

2018年5月24日(木) 09:00 〜 10:30 A02 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:石黒 正晃(ソウル大学物理天文学科)、中本 泰史(東京工業大学)、荒川 政彦(神戸大学大学院理学研究科、共同)、安部 正真(宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所)、座長:Arakawa Masahiko(Kobe University)

10:00 〜 10:15

[PPS03-16] 等質量微惑星衝突による多様な小惑星形状の形成とその応用

*杉浦 圭祐1小林 浩1犬塚 修一郎1 (1.名古屋大学大学院理学研究科)

キーワード:小惑星形状、微惑星衝突、SPH法

探査機のその場観測やライトカーブの詳細な解析により1000個程度の小惑星の形状が得られ, 小惑星の形状を用いた過去の太陽系に関する統計的な議論も可能となってきた. 約60%の小惑星が短軸-長軸比が0.6以下の形状をしており, 多くの小惑星がイトカワのような不規則な形状をしていることが明らかとなってきた. このような不規則な形状は微惑星の衝突破壊・合体によって形成された可能性が高く, 衝突速度や衝突角度といった衝突条件とその結果できる天体の形状を関連付けることにより, その形状を形成した衝突環境や年代に制限を与えられることが期待される.

 微惑星のような比較的小さい天体の場合, 自己重力だけではなく物質強度や粉々になった岩石間の摩擦力も重要となってくる. 我々は微惑星の衝突破壊, 及び重力再集積によってできる天体の形状を調べるため, 弾性体力学に拡張されたSmoothed Particle Hydrodynamics法の計算コードを開発した (Sugiura and Inutsuka 2016, 2017). さらにひび割れ破壊のモデル (Benz and Asphaug 1995) 及び摩擦のモデル (Jutzi 2015) も計算コードに導入した. 摩擦のモデルを導入することにより, 衝突で粉々になった岩石が自己重力で集積してできるラブルパイル天体の形状形成も再現することができる.

 開発したコードを用いて, 半径50 kmの球形状の岩石微惑星どうしの衝突を衝突速度と衝突角度を系統的に変化させて再現した. 衝突速度を50 m/sから400 m/sまで25 m/sごとに, 衝突角度を5°から45°まで5°ごとに変化させて合計135通りの計算を実行し, 各衝突計算で得られた最大天体の形状を調べた. その結果, 衝突条件に応じて最大天体の形状を, 頭が二つある形状, 球形状, 平たい形状, 細長い形状, 半球形状の5つに分類できることが分かった. また短軸-長軸比が0.4を下回るような極めて平たい形状や, 中間軸-長軸比が0.2程度の極めて細長い形状といった極端に不規則な形状も, 等質量の微惑星の衝突で形成されることが分かった.

 小惑星帯には (471) Papagena や (1633) Chimay といった極めて平たい形状をした小惑星が実在している. しかしながら, 現在の小惑星帯の平均衝突速度は約4 km/sであり, ~100 m/sの衝突速度で衝突するのは困難である. そのような高速度で等質量程度の微惑星が衝突した場合は大規模破壊が起きるが, 我々が行なった大規模破壊の高解像度数値計算では平たい形状はできなかった. またインパクタがターゲットに比べて小さい衝突では大規模破壊にはならないが, クレータリング衝突に近くなるためやはり平たい形状を生むのは難しい. 従って, 小惑星帯の極めて平たい小惑星の形状は, 木星形成以前の始原的な環境で等質量程度の衝突によってできたと考えられる.