[PPS05-P13] 月・火星の縦孔と溶岩流から得られる降伏値と溶岩チューブ洞窟高さ
キーワード:月、火星、縦孔、溶岩流、降伏値、溶岩チューブ
[はじめに]
月の縦孔がHaruyama et al(1~3)らに発見されたのちLROにより縦孔の断面が撮像され露頭断面層のおおよその厚さがRobinson et al(4)から報告されている。また火星のArsia Monsの縦孔についても露頭断面厚さがCushing (5)から報告されている。一方、従来から月と火星の溶岩流の外観から溶岩流の厚さを推定しその溶岩降伏値が求められているがその値は大きな幅を示している。ここでは縦孔の露頭溶岩断面厚さから溶岩降伏値を求め、溶岩流外観厚さから求められている降伏値と比較を行った。その比較から、妥当と考えられる降伏値を用いて、月と火星の溶岩チューブ洞窟の空洞高さの推定を試みた。
[縦孔露頭断面から推定される溶岩降伏値]
月・Marius Hills Hole(MHH)の縦孔断面の層状溶岩は4m~12m厚(平均6m厚)の溶岩層 (Robinson(4))からなる。ここでは平均厚H=6mとRille- A 地域の傾斜角αが0.31度(Greeley(6))を使うと、Simple flowの溶岩流停止条件から、fB=ρgsinαH=131 Pa(本多(7))が得られる。ここで密度ρ=2.5g/cm3,表面重力g=162 cm/s2とした。一方、Arsia Monsの北山腹域での裾野での縦穴列Iの天井断面層の層状溶岩の厚さは 3m (Cushing(5))とされている。I地域の傾斜角が 0.28 度の場合の溶岩流Simple flowの停止条件から、降伏値fB=136 Paが得られる。ここで密度ρ=2.5g/cm3、表面重力g=371 cm/s2とした。
[溶岩流の外観厚さから得られている降伏値とその比較]
月・火星の溶岩流降伏値については溶岩流simple flow停止条件(Hulme(8))から昔から多くの推定が出されているが大きな幅を示している。月および火星の溶岩流から得られている降伏値の最小値と最大値をまとめた表をTable1.とTable2に示す。月の最小値100 Paは縦孔露頭断面から求めた降伏値131 Paに近い。それより大きな値を示すのは溶岩流がMultiple flow をなしているかInflationを起こしていると考えられる。火星Arsia Mons南麓(Moore et al(9))の溶岩流厚さ(Fig1)と傾斜度から降伏値(Fig.2)を評価すると降伏値は傾斜度が下がるほど小さな値を示している。最小値120 Paは縦孔露頭断面層から求めた136 Paに近く、おそらく真の降伏値に収斂していると思われる。
[溶岩チューブ洞窟の空洞高さの推定]
縦孔露頭断面から推定される溶岩降伏値を妥当な値として用いると、月・Marius Hillsの縦孔MHH下と火星・Arsia Monsの縦穴列-I下にあると考えられる溶岩チューブ洞窟空洞高さHcは式Hc=nfB/ρgsinαから求められる(Hulme(8))。ここでn=4の時は円管内流れ、n=2の時は無限幅並行平板間流れに対応する。月ではHcはn=4, n=2でそれぞれ24m,12m, 火星ではn=4,n=2でそれぞれ12m,6mとなる。MHH下の空洞高さは約17mと推定されているのでn=3の矩形断面チューブの可能性がある(本多(7))。
[おわりに]
溶岩流の断面の露頭観察は極めて重要である(長谷中他(10))。遠隔で外観から観察される月・火星の溶岩流はSimple flowかMultiple flowか、またInflationを起こしているかどうかの分別は困難と考えられる。したがって溶岩流の外観厚さから求められた降伏値はあくまでも「見かけの」降伏値である。「真に近い」降伏値は露頭断面から推定できると思われるが、露頭断面からもInflationを起こしていないか判断できない場合は溶岩のサンプリングによって「真の」降伏値を求めることになる。「真に近い」あるいは「真の」降伏値が得られれば溶岩チューブ洞窟の空洞高さがその位置の傾斜度にしたがって推定できるであろう。空洞高さの検証については現地探査が必要である。
参考文献:
(1)Haruyama,J. et al(2009): Geophysical Research Letters, Vol.36,L21206,2009.
(2)Haruyama,J. et al(2010): 41st Lunar Planetary Science Conference,Abstract 1285,2010.
(3)Haruyama,J.et al(2012): Moon,Chap6,pp139-163,Springer,2012.
(4)Robinson,M.S. et al(2012): Planetary and Space Science 69,pp18-27,2012
(5) Cushing,G.E.(2012):Journal of Cave and Karst Studies, v.74, no.1, p.33–47.
(6)Greeley,G(1971):The Moon 3(1971)pp289-314
(7)本多力(2017):地球惑星科学連合大会(2017),SVC50-05
(8)Hulme,G(1974).: Geophys.J.R.Astr.Soc.,Vol.39,pp361-383,1974.
(9) Moore,H.J.et al(1978):Yield strengths of flows on the Earth,Mars, and Moon,Proc.Lunar Sci.Conf.9th,pp3351-3378,1978.
(10)長谷中利昭他(2015): 3D01:月の地下空洞の火山学的興味,第59回宇宙科学技術連合講演会
月の縦孔がHaruyama et al(1~3)らに発見されたのちLROにより縦孔の断面が撮像され露頭断面層のおおよその厚さがRobinson et al(4)から報告されている。また火星のArsia Monsの縦孔についても露頭断面厚さがCushing (5)から報告されている。一方、従来から月と火星の溶岩流の外観から溶岩流の厚さを推定しその溶岩降伏値が求められているがその値は大きな幅を示している。ここでは縦孔の露頭溶岩断面厚さから溶岩降伏値を求め、溶岩流外観厚さから求められている降伏値と比較を行った。その比較から、妥当と考えられる降伏値を用いて、月と火星の溶岩チューブ洞窟の空洞高さの推定を試みた。
[縦孔露頭断面から推定される溶岩降伏値]
月・Marius Hills Hole(MHH)の縦孔断面の層状溶岩は4m~12m厚(平均6m厚)の溶岩層 (Robinson(4))からなる。ここでは平均厚H=6mとRille- A 地域の傾斜角αが0.31度(Greeley(6))を使うと、Simple flowの溶岩流停止条件から、fB=ρgsinαH=131 Pa(本多(7))が得られる。ここで密度ρ=2.5g/cm3,表面重力g=162 cm/s2とした。一方、Arsia Monsの北山腹域での裾野での縦穴列Iの天井断面層の層状溶岩の厚さは 3m (Cushing(5))とされている。I地域の傾斜角が 0.28 度の場合の溶岩流Simple flowの停止条件から、降伏値fB=136 Paが得られる。ここで密度ρ=2.5g/cm3、表面重力g=371 cm/s2とした。
[溶岩流の外観厚さから得られている降伏値とその比較]
月・火星の溶岩流降伏値については溶岩流simple flow停止条件(Hulme(8))から昔から多くの推定が出されているが大きな幅を示している。月および火星の溶岩流から得られている降伏値の最小値と最大値をまとめた表をTable1.とTable2に示す。月の最小値100 Paは縦孔露頭断面から求めた降伏値131 Paに近い。それより大きな値を示すのは溶岩流がMultiple flow をなしているかInflationを起こしていると考えられる。火星Arsia Mons南麓(Moore et al(9))の溶岩流厚さ(Fig1)と傾斜度から降伏値(Fig.2)を評価すると降伏値は傾斜度が下がるほど小さな値を示している。最小値120 Paは縦孔露頭断面層から求めた136 Paに近く、おそらく真の降伏値に収斂していると思われる。
[溶岩チューブ洞窟の空洞高さの推定]
縦孔露頭断面から推定される溶岩降伏値を妥当な値として用いると、月・Marius Hillsの縦孔MHH下と火星・Arsia Monsの縦穴列-I下にあると考えられる溶岩チューブ洞窟空洞高さHcは式Hc=nfB/ρgsinαから求められる(Hulme(8))。ここでn=4の時は円管内流れ、n=2の時は無限幅並行平板間流れに対応する。月ではHcはn=4, n=2でそれぞれ24m,12m, 火星ではn=4,n=2でそれぞれ12m,6mとなる。MHH下の空洞高さは約17mと推定されているのでn=3の矩形断面チューブの可能性がある(本多(7))。
[おわりに]
溶岩流の断面の露頭観察は極めて重要である(長谷中他(10))。遠隔で外観から観察される月・火星の溶岩流はSimple flowかMultiple flowか、またInflationを起こしているかどうかの分別は困難と考えられる。したがって溶岩流の外観厚さから求められた降伏値はあくまでも「見かけの」降伏値である。「真に近い」降伏値は露頭断面から推定できると思われるが、露頭断面からもInflationを起こしていないか判断できない場合は溶岩のサンプリングによって「真の」降伏値を求めることになる。「真に近い」あるいは「真の」降伏値が得られれば溶岩チューブ洞窟の空洞高さがその位置の傾斜度にしたがって推定できるであろう。空洞高さの検証については現地探査が必要である。
参考文献:
(1)Haruyama,J. et al(2009): Geophysical Research Letters, Vol.36,L21206,2009.
(2)Haruyama,J. et al(2010): 41st Lunar Planetary Science Conference,Abstract 1285,2010.
(3)Haruyama,J.et al(2012): Moon,Chap6,pp139-163,Springer,2012.
(4)Robinson,M.S. et al(2012): Planetary and Space Science 69,pp18-27,2012
(5) Cushing,G.E.(2012):Journal of Cave and Karst Studies, v.74, no.1, p.33–47.
(6)Greeley,G(1971):The Moon 3(1971)pp289-314
(7)本多力(2017):地球惑星科学連合大会(2017),SVC50-05
(8)Hulme,G(1974).: Geophys.J.R.Astr.Soc.,Vol.39,pp361-383,1974.
(9) Moore,H.J.et al(1978):Yield strengths of flows on the Earth,Mars, and Moon,Proc.Lunar Sci.Conf.9th,pp3351-3378,1978.
(10)長谷中利昭他(2015): 3D01:月の地下空洞の火山学的興味,第59回宇宙科学技術連合講演会