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[PPS06-08] ホルモース型反応によって生成する可溶性有機分子の特徴と反応機構
キーワード:隕石、可溶性有機分子、高分解能質量分析計、分子進化、ホルモース反応
地球外有機物は, 惑星への揮発性元素の供給源として, また初期太陽系物質進化の記録媒体として, 太陽系物質科学における重要な研究対象である. Codyら[1]とKebukawaら[2]はホルムアルデヒドを出発物質としたホルモース型反応によって生成する固体有機物と隕石中固体有機物との間に類似性が認められることを報告している. さらにホルムアルデヒドは, 隕石中の可溶性有機分子生成にも関与した可能性が考えられている [3, 4, 5]. しかしホルムアルデヒドを出発物質とした可溶性の反応生成物全体の特徴は十分に明らかになっていない. 本研究では, 異なる温度条件でのホルモース型反応によって生成した可溶性有機分子群の特徴づけをおこない, 反応機構,および隕石中有機分子との関連性を検討した.
水熱反応による有機物合成実験をKebukawaら[2]に従い, おこなった. パラホルムアルデヒド, グリコールアルデヒド, 水酸化カルシウム, 超純水を含む出発物質をガラス管封入し,オーブンを用いて,90, 150, 200°Cで1-30日の期間,加熱した. アンモニアを加えた出発物質も作成し, 同様に加熱をおこなった. 生成物の上澄みをろ過し, 1000倍量の純水で希釈したのち, 北海道大学FMI国際拠点設置の高質量分解能LCMS(Orbitrap Elite)を用い,陽イオン検出モードで分析した. 得られた質量スペクトルは, ソフトウェアATTRIBUTORを用いて解析した.
実験生成物の全電流強度値 (TIC) はブランクと比べて高く, また, 高温条件生成物のTICは低温生成物よりも高かった.すなわち,高温条件ほど分子生成量が多いことを示す.すべての実験条件で, 質量電荷比50-650にわたるイオン化された分子が検出された(質量電荷比50は装置で設定した最低値). 質量スペクトル中の高強度ピーク3000本を抽出し, その組成式を計算したところ, 数百から千以上のピークに対し,組成式を決定できた. アンモニアを加えた試料からはCHO組成の分子だけてなく, CHNやCHNO組成の分子もみつかった. 得られた組成式から強度の重み付き元素組成比を求めた. この元素組成比はバルク元素組成比とよく一致することが知られている[6]. アンモニアなし条件の実験で得られた元素組成比(H/C, O/C)は, 90, 150, 200°Cに対し,それぞれ, (1.10~1.11, 0.38~0.39), (1.15~1.16, 0.29~0.30), (1.24~1.23, 0.24~0.23)であった. また,可溶性分子群の組成式に含まれるH, C, Oの原子数と質量電荷比に単調増加の傾向が確認された.これは分子生成に対し,ある仮想的な成長単元の存在を示唆する.H, C, O増加の傾向に基づき,成長単元の組成を推定したところ, 90, 150, 200°Cにおける成長単元の(H/C, O/C)は(1.19-1.21, ~0.4), (1.20-1.22, 0.32-0.33), (1.25-1.26, 0.28-0.29)であった. 温度上昇にしたがって, 重み付元素組成比と成長単元の組成はどちらもH/Cが増加し, O/Cが減少する傾向がみられた. アンモニアを加えた実験試料中のCHO組成の分子群でも同様の傾向がみられた. このH/Cの増加とO/Cの減少は高温ほど還元的な分子が生成することを示唆している. 高温条件では, ギ酸の還元作用が強まることが報告されており[7], ホルモース型反応においても, ホルムアルデヒドの不均化反応生成物であるギ酸が還元剤として作用し, 生成分子の多様性や分子進化に影響したと考えられる.
本研究の実験条件におけるホルモース型反応生成物のバルク組成は,マーチソン隕石中の可溶性分子(バルク組成C100H155O20N3S3 [8])に比べて酸化的であり, マーチソン隕石中の可溶性有機物は本実験条件では生成されず,ホルモース型反応で生成される場合には,より還元的な条件が必要であると考えられる.
[1] Cody G. D. et al. (2011) PNAS, 108, 19171. [2] Kebukawa Y. et al. (2013) Astrophys. J. 771, 19. [3] Kebukawa Y. et al. (2017) Sci. Adv. 3, e1602093. [4] Yamashita and Naraoka (2014) Geochem. J. 48, 519. [5] Koga and Naraoka (2017) Sci. Rep. 7, 636 [6] Hockaday et al. (2007) Limnol. Oceanogr.: Methods 7, 81. [7] Morooka et al., (2008) J. Phys. Chem. A, 112, 6950. [8] Schmitt-Kopplin et al. (2010) PNAS, 107, 2763.
水熱反応による有機物合成実験をKebukawaら[2]に従い, おこなった. パラホルムアルデヒド, グリコールアルデヒド, 水酸化カルシウム, 超純水を含む出発物質をガラス管封入し,オーブンを用いて,90, 150, 200°Cで1-30日の期間,加熱した. アンモニアを加えた出発物質も作成し, 同様に加熱をおこなった. 生成物の上澄みをろ過し, 1000倍量の純水で希釈したのち, 北海道大学FMI国際拠点設置の高質量分解能LCMS(Orbitrap Elite)を用い,陽イオン検出モードで分析した. 得られた質量スペクトルは, ソフトウェアATTRIBUTORを用いて解析した.
実験生成物の全電流強度値 (TIC) はブランクと比べて高く, また, 高温条件生成物のTICは低温生成物よりも高かった.すなわち,高温条件ほど分子生成量が多いことを示す.すべての実験条件で, 質量電荷比50-650にわたるイオン化された分子が検出された(質量電荷比50は装置で設定した最低値). 質量スペクトル中の高強度ピーク3000本を抽出し, その組成式を計算したところ, 数百から千以上のピークに対し,組成式を決定できた. アンモニアを加えた試料からはCHO組成の分子だけてなく, CHNやCHNO組成の分子もみつかった. 得られた組成式から強度の重み付き元素組成比を求めた. この元素組成比はバルク元素組成比とよく一致することが知られている[6]. アンモニアなし条件の実験で得られた元素組成比(H/C, O/C)は, 90, 150, 200°Cに対し,それぞれ, (1.10~1.11, 0.38~0.39), (1.15~1.16, 0.29~0.30), (1.24~1.23, 0.24~0.23)であった. また,可溶性分子群の組成式に含まれるH, C, Oの原子数と質量電荷比に単調増加の傾向が確認された.これは分子生成に対し,ある仮想的な成長単元の存在を示唆する.H, C, O増加の傾向に基づき,成長単元の組成を推定したところ, 90, 150, 200°Cにおける成長単元の(H/C, O/C)は(1.19-1.21, ~0.4), (1.20-1.22, 0.32-0.33), (1.25-1.26, 0.28-0.29)であった. 温度上昇にしたがって, 重み付元素組成比と成長単元の組成はどちらもH/Cが増加し, O/Cが減少する傾向がみられた. アンモニアを加えた実験試料中のCHO組成の分子群でも同様の傾向がみられた. このH/Cの増加とO/Cの減少は高温ほど還元的な分子が生成することを示唆している. 高温条件では, ギ酸の還元作用が強まることが報告されており[7], ホルモース型反応においても, ホルムアルデヒドの不均化反応生成物であるギ酸が還元剤として作用し, 生成分子の多様性や分子進化に影響したと考えられる.
本研究の実験条件におけるホルモース型反応生成物のバルク組成は,マーチソン隕石中の可溶性分子(バルク組成C100H155O20N3S3 [8])に比べて酸化的であり, マーチソン隕石中の可溶性有機物は本実験条件では生成されず,ホルモース型反応で生成される場合には,より還元的な条件が必要であると考えられる.
[1] Cody G. D. et al. (2011) PNAS, 108, 19171. [2] Kebukawa Y. et al. (2013) Astrophys. J. 771, 19. [3] Kebukawa Y. et al. (2017) Sci. Adv. 3, e1602093. [4] Yamashita and Naraoka (2014) Geochem. J. 48, 519. [5] Koga and Naraoka (2017) Sci. Rep. 7, 636 [6] Hockaday et al. (2007) Limnol. Oceanogr.: Methods 7, 81. [7] Morooka et al., (2008) J. Phys. Chem. A, 112, 6950. [8] Schmitt-Kopplin et al. (2010) PNAS, 107, 2763.