日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[EJ] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS06] 太陽系物質進化

2018年5月24日(木) 13:45 〜 15:15 A01 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:山口 亮(国立極地研究所)、藤谷 渉(茨城大学 理学部)、癸生川 陽子(横浜国立大学 大学院工学研究院、共同)、鹿山 雅裕(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、座長:鹿山 雅裕(東北大学)

13:45 〜 14:00

[PPS06-13] CAI組成メルトの低圧水素ガス中、真空中蒸発実験

*上林 海ちる1Mendybaev Ruslan2,3Richter Frank2,3橘 省吾1,4 (1.北海道大学理学院自然史科学専攻地球惑星システム科学講座、2.Department of the Geophysical Sciences、3.Center for Cosmochemistry, University of Chicago、4.東京大学宇宙惑星科学機構(UTOPS))

タイプB CAIは、その化学的、同位体的特徴から、部分溶融による元素の蒸発、同位体分別を伴う加熱イベントを経験したと考えられている[1,2]。先行研究(e.g.[1-5])からは、これらの特徴が真空中でのCAI組成のメルトからの蒸発実験によって再現できることが分かっている。しかし、真空中での蒸発の挙動が実際の原始太陽系円盤のような低水素圧環境下でのCAI組成メルトの蒸発を十分に説明しうるかについては定かではない。Richter et al. [2]では、1500°C、 PH2=2×10-4 bar での蒸発実験をおこなったが、真空実験との直接的な比較はおこなわれていない。よって本研究では1600°CでCAI組成メルトの蒸発実験をおこない、真空中、低水素圧中でのMgとSi蒸発の挙動について報告する。


出発物質は、[6]のフォルステライトを含有するCAIに近い組成のものを用いた。低水素圧実験は北海道大学で1600°C, 水素圧1.6×10-4 barの条件下でおこなわれた。真空実験は[2-5]と同様の実験手順でシカゴ大学でおこなわれた。実験前、実験後にはそれぞれサンプルの質量と表面積の測定をおこなった。組織、化学組成分析にはOxford AZtec X線マイクロアナライザを搭載したTESCAN LYRA3 FIB/FESEMを用いた。


サンプルの質量減少と表面積から蒸発速度の計算をおこなったところ、低水素圧実験ではSiはMgより~35%速く蒸発した(JMg ~1.4×10-7 and JSi ~1.9×10-7 moles/cm2/s)。さらに真空中実験では、SiとMgの蒸発速度は低水素圧条件下に比べ40倍遅いことがわかった。SiとMgの蒸発速度は水素中と真空中で異なるにも関わらず、蒸発によるメルトの組成変化はほぼ同じであった。


この実験で求められた真空でのMgの蒸発速度は1600°CでのCAIBメルトの蒸発速度実験値に比べわずかに高かったが、高温での蒸発速度からの外挿とよく一致した[3]。また、1600°C, 水素圧1.8×10-4 barにおけるMgとSiの蒸発速度から推定した蒸発係数は0.07であった。蒸発係数~0.07という値は、真空蒸発の蒸発係数とも整合的であった。すなわち、水素は蒸発を促進するが、蒸発に対する障壁は真空と変わらず、メルトの性質によると考えられる。

References: [1] Davis et al. (1990) Nature, 347, 655-658; [2] Richter et al. (2002) GCA, 66, 521-540; [3] Richter et al. (2007) GCA, 71, 5544-5564; [4] Mendybaevet al. (2013) LPSC 44th, Abstract #3017; [5] Mendybaev et al. (2017) GCA, 201, 49-64; [6] Bullock et al. (2012) Meteoritics, 47, 2128-2147.