16:45 〜 17:00
[PPS06-24] 長良鉄隕石の鉱物組織・化学組成とその分類について
キーワード:鉄隕石、カマサイト、ヘキサヘドライト
はじめに:鉄隕石は、原始惑星のコアを形成していたと考えられるもの(“magmatic”鉄隕石)と、プリミティブ・エコンドライトと関連して、微惑星~原始惑星への進化段階における低温での小規模な部分溶融過程により形成されたと考えられるもの(“non-magmatic”鉄隕石)があり、惑星物質進化における重要な段階を記録している隕石グループである。これまでに日本国内で見つかった隕石はちょうど50個で、その中には鉄隕石が8個含まれていた。2018年2月に51個目の国内発見隕石として、「長良隕石」が正式登録されたが、この隕石は鉄隕石であり、本研究ではこの隕石の鉱物観察・化学組成分析から化学グループについて議論したので、その結果について報告する。
分析試料・手法:長良隕石は2012年に岐阜県岐阜市の住宅街にある栗畑で発見された約6.5 kgの鉄隕石である。その後、2017年になって研究機関に持ち込まれ分析が行なわれた。極地研で研究機関保管用切片(55.8 g)の切り出しを行ない、そこから研磨試料を作成した。研磨片は3 cmほど離れた位置で異なる角度で切り出した2つの切片から作成した。構成鉱物の主要元素化学組成は東大・理のエレクトロンマイクロプローブ(EPMA)で、微量元素組成は極地研のレーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析(LA-ICP-MS)を用いて定量分析を行った。標準試料としてHobaとNorth Chileの2つの鉄隕石を使用した。
結果と考察:分析用の研磨試料(約1.5 x 1 cm)を光学顕微鏡で観察したところ、幅0.5 mm程の割れ目に沿って変質している部分がある以外には特徴的な組織は観察されなかった。EPMAで元素マップを取得したところ、ほとんどがkamaciteより成り、その量は試料全体の95%以上に及んでいた。その他は、ほとんどが割れ目の内部に存在する地球での鉄風化物とそれに伴う少量のschreibersiteであった。taeniteは不定形の棒状(幅10 μm、長さ100 μmほど)でごくわずか存在するに過ぎなかった。EPMAによる分析では、kamaciteのNi組成とCo組成はそれぞれ5.0-6.5 wt%と0.35-0.55 wt%の範囲で全体的に緩やかな化学的ゾーニングを示していた。schreibersiteもFe=45-53 wt%、Ni=30-38 wt%の組成範囲でゾーニングしていた。taeniteの組成はFe=60-61 wt%、Ni=37-38 wt%であった。LA-ICP-MSによる分析では、研磨試料上でライン分析を複数線行い、その平均を求めたところ、Ni=6.1 wt%、Co=0.48 wt%であり、EPMA分析結果とよく一致した。微量元素組成は、Ir=4.2、Ga=91.9、Ge=397、Re=0.33、Os=0.33、Cu=117、Ru=7.5、Pd=3.2、Pt=8.1、Au=1.6(すべてμg/g)であった。
鉄隕石は主にNiやIr、Geなどの量の違いによって分類されるが、長良隕石は、鉄隕石の中ではNi含有量が低く、高いGe含有量を持つことからIAB(Main group)鉄隕石に分類される。IABグループの中でも特にNiの量が少なく、Geの多い組成を示している。IABグループの鉄隕石は通常、オクタヘドライトからなるが、本隕石については、2つの1 cmサイズの研磨試料ではウィドマンシュテッテン組織が観察されなかった。いずれもほぼkamaciteでできていたことからヘキサヘドライトの可能性があり、低いNi量と対応している。実際に長良隕石のように低いNi量を持つIAB鉄隕石は知られており、Duel Hill (1873)、Soledade、Yardeaなどがその例である。
“non-magmatic”鉄隕石であるIAB鉄隕石は、プリミティブ・エコンドライトの1グループであるウィノナイトとの関連が指摘されており、ケイ酸塩鉱物から成る包有物をしばしば伴う。しかし、今回分析を行った研磨試料では、そのような包有物は全く見られなかった。
以上のことから、研磨試料のスケールよりも粗粒のウィドマンシュテッテン組織を示し、別の場所ではケイ酸塩包有物も存在する可能性があり、他の研磨試料を作成・観察することが必要である。
分析試料・手法:長良隕石は2012年に岐阜県岐阜市の住宅街にある栗畑で発見された約6.5 kgの鉄隕石である。その後、2017年になって研究機関に持ち込まれ分析が行なわれた。極地研で研究機関保管用切片(55.8 g)の切り出しを行ない、そこから研磨試料を作成した。研磨片は3 cmほど離れた位置で異なる角度で切り出した2つの切片から作成した。構成鉱物の主要元素化学組成は東大・理のエレクトロンマイクロプローブ(EPMA)で、微量元素組成は極地研のレーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析(LA-ICP-MS)を用いて定量分析を行った。標準試料としてHobaとNorth Chileの2つの鉄隕石を使用した。
結果と考察:分析用の研磨試料(約1.5 x 1 cm)を光学顕微鏡で観察したところ、幅0.5 mm程の割れ目に沿って変質している部分がある以外には特徴的な組織は観察されなかった。EPMAで元素マップを取得したところ、ほとんどがkamaciteより成り、その量は試料全体の95%以上に及んでいた。その他は、ほとんどが割れ目の内部に存在する地球での鉄風化物とそれに伴う少量のschreibersiteであった。taeniteは不定形の棒状(幅10 μm、長さ100 μmほど)でごくわずか存在するに過ぎなかった。EPMAによる分析では、kamaciteのNi組成とCo組成はそれぞれ5.0-6.5 wt%と0.35-0.55 wt%の範囲で全体的に緩やかな化学的ゾーニングを示していた。schreibersiteもFe=45-53 wt%、Ni=30-38 wt%の組成範囲でゾーニングしていた。taeniteの組成はFe=60-61 wt%、Ni=37-38 wt%であった。LA-ICP-MSによる分析では、研磨試料上でライン分析を複数線行い、その平均を求めたところ、Ni=6.1 wt%、Co=0.48 wt%であり、EPMA分析結果とよく一致した。微量元素組成は、Ir=4.2、Ga=91.9、Ge=397、Re=0.33、Os=0.33、Cu=117、Ru=7.5、Pd=3.2、Pt=8.1、Au=1.6(すべてμg/g)であった。
鉄隕石は主にNiやIr、Geなどの量の違いによって分類されるが、長良隕石は、鉄隕石の中ではNi含有量が低く、高いGe含有量を持つことからIAB(Main group)鉄隕石に分類される。IABグループの中でも特にNiの量が少なく、Geの多い組成を示している。IABグループの鉄隕石は通常、オクタヘドライトからなるが、本隕石については、2つの1 cmサイズの研磨試料ではウィドマンシュテッテン組織が観察されなかった。いずれもほぼkamaciteでできていたことからヘキサヘドライトの可能性があり、低いNi量と対応している。実際に長良隕石のように低いNi量を持つIAB鉄隕石は知られており、Duel Hill (1873)、Soledade、Yardeaなどがその例である。
“non-magmatic”鉄隕石であるIAB鉄隕石は、プリミティブ・エコンドライトの1グループであるウィノナイトとの関連が指摘されており、ケイ酸塩鉱物から成る包有物をしばしば伴う。しかし、今回分析を行った研磨試料では、そのような包有物は全く見られなかった。
以上のことから、研磨試料のスケールよりも粗粒のウィドマンシュテッテン組織を示し、別の場所ではケイ酸塩包有物も存在する可能性があり、他の研磨試料を作成・観察することが必要である。