日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS08] 惑星科学

2018年5月21日(月) 09:00 〜 10:30 国際会議室(IC) (幕張メッセ国際会議場 2F)

コンビーナ:岡本 尚也(国立研究開発法人宇宙航空開発機構 宇宙科学研究所)、黒崎 健二(名古屋大学大学院 理学研究科 素粒子宇宙物理学専攻)、座長:諸田 智克(名古屋大学大学院 環境学研究科)、洪 鵬(千葉工業大学 惑星探査研究センター)

10:00 〜 10:15

[PPS08-11] フォボスとエロスのクレータ地形緩和の比較からみた衛星と小惑星の違い

森田 晟也1、*諸田 智克1渡邊 誠一郎1 (1.名古屋大学大学院環境学研究科)

キーワード:フォボス、クレータ、地形緩和

火星には2つの衛星フォボス,デイモスが存在する.これらの衛星の成因として,巨大衝突説と捕獲説が提唱されているが,未だ決着には至っていない.

小惑星では表面重力が小さいために,天体衝突が起こった際に放出された衝突放出物の大部分は宇宙空間に飛散する.同様にフォボスでも衝突放出物の大部分はフォボスの重力圏を脱出するが,火星重力によって火星軌道に捕獲され,フォボスに再衝突すると考えられる.このためフォボスでは小惑星に比べて微小天体の衝突頻度が増加すると期待される.これは衛星特有の表層過程である.フォボスの地質史を通じて,この現象が起こっていたか否かが分かれば,フォボスが誕生してから火星周軌道にいたか否かが判断でき,成因の解明に繋がると考えられる.一方で,未だ観測からそのような放出物再衝突が起こっていることを実証した研究例はない.そこで本研究では,実際に放出物の再衝突現象がフォボスで起きているのか,の検証を目的とし,クレーター形状の解析からこれを試みる.

一般に,クレーター地形はその後の微小な天体衝突や衝突振動による崖崩れを原因として,時間とともに浅くなることが知られている.この地形緩和は拡散過程に従って進行すると考えられている.衛星では衝突放出物の再衝突が起きるため,微小天体衝突数が増加する.よって,もしフォボスがその歴史の大部分を衛星として存在していたならば,小惑星と比較して,フォボスクレーターの地形緩和はより進んでいるはずである.そこで本研究では,フォボスと小惑星のクレーター形状の緩和度を地形拡散モデルとの比較から決定し,天体間での緩和度の比較を行った.比較天体として,フォボスと同程度のサイズで,同程度のクレーター数密度を持つ小惑星エロスを調査した.

クレーター形状の決定には,各天体のGaskell形状モデルを用いて(Gaskell, 2008;,2011; Jorda et al., 2013),半径1km以上のクレーターの平均地形プロファイルを作成し,クレーターサイズ,深さ,最大傾斜角を計測した.地形拡散モデルから計算されるクレーター深さ/半径比,最大傾斜角との比較により,各クレーターの緩和モデル年代κtを算出した(ここでκは地形拡散係数,tはクレーター形成後の年代).
クレーター緩和モデル年代κt の個数頻度分布を天体間で比較すると,フォボスはエロスに比べ3倍程度クレーター緩和速度が大きいことが分かった.フォボスのクレーター緩和速度が他天体に比べ大きくなる原因として,フォボスで放出物の再衝突現象が起こっていたことが考えられる.そこで,観測から得られたフォボスの半径1km以上の全クレーターの放出物が再衝突することによって地形緩和速度がどの程度異なるかを調査した.その結果,クレーター緩和速度は再衝突が起こらない場合に比べて2-10倍程度大きくなり,観測されたフォボスの3倍のクレーター緩和速度をおおよそ説明できることが分かった.以上の結果はフォボスの地質史を通じて放出物の再衝突現象が起きてきた可能性を示唆する.